[Domaine Joseph & Philippe ROTY]

ドメーヌ・ジョゼフ&フィリップ・ロティ
ドメーヌを訪れたのは16:00。この時間でも、まだまだ陽は高く、とても明るい。20時過ぎてもまだ明るいからサマータイムの一時間程度の変化では違和感はとてもある。さて、ロティを訪れるのは覚悟が必要だ。優に20を超えるテイスティングになる為、2時間を超える長丁場になるからだ。出迎えてくれたのは当主フィリップ・ロティとその家族たち。いつも家族総出で迎えてくれる。家族の仲の良さと結束力の強さを感じる。

いつものようにブリュネルの畑のすぐ隣にあるテイスティングルームに入ると、マカオのカジノ実業家がシャトー・ド・ジュヴレ・シャンベルタンを購入したという話題になった。最近、同じジュヴレ・シャンベルタンのモームもカナダのワイナリーに買収されるなど、海外資本がどんどん入ることに多くの生産者は危機感を抱いているようだ。これまでボルドーのシャトー買収のニュースが続いていたが、ついにブルゴーニュにもその流れが来たかと話題になっている。彼の話では生産者組合の中に売りに出ている生産者情報を海外資本に積極的に案内している輩がいるそうだ。




1.Bourgogne Aligote 2010 (P.Roty)

0.6haの樹齢40年を超えるアリゴテ。仮にシャルドネが植えられていたら、コート・ド・ニュイ・ヴィラージュを名乗ることができる区画。土が少なく岩の多い傾斜地にあり、とてもいいブドウができる優れた土壌を有している。その恩恵もあり、ブドウ自体は糖度が高い。マロラクティック発酵が行われる。ほどよい熟度とミネラル感があり、酸も適度にしっかり。白い花、蜂蜜、クリーム、マールなどの豊かな香りが好印象。よくできたアリゴテ。



2.Bourgogne Blanc 2010
Pinot Blanc 100%。Chardonnayは使われていない。冬の寒さでブドウに影響があったようで、前年に比べ30%収量が減った。できた葡萄は小粒でとても凝縮しており、選別も厳しくしたので、とても綺麗で透明感のある見事なワインに仕上がっている。数種のハーブや柑橘系のさわやかな香りで満ちている。繊細でしっかりとした酸にほのかな苦みがよいアクセントとなっている。



3.Marsannay Blanc 2010
平地、丘の中腹、丘の上といった、3つの異なるパーセルから採れたブドウが使われている。
ミネラル感豊富で、バター、洋梨、レモンピール、白い花などの複雑な香り。厚みのあるねっとりとした質感とフレッシュな果実味はとてもバランスの取れたワイン。



4.Marsannay Rose 2010
北からChampforet, En Mechalot, Aux Perches, Aux Longues Pieceの区画から造られるキュヴェ。赤ワインのようなどっしりとした果実味と濃縮度の高さ。ロゼらしいチャーミングさと赤ワインの重厚感が見事にマッチした異色の傑作ロゼ。



Clos de la Brunelleの畑




5.Bourgogne Grand Ordinaire 2010
2011年産からCôteaux Bourguignons (コトー・ブルギニヨン)になるので、Grand Ordinaireとしてのリリースは最後となる節目のヴィンテージ。そもそもフィリップは何でBourgogne Grand Ordinaireなんておかしな名前つけたのかと長年思っていたそうで、それがようやく改善されたことに喜んでいた。Bourgogne Grand Ordinaireは直訳するなら平凡なブルゴーニュといったところ。
この名での最後のリリースなったこのグラン・オルディネールは樹齢30年を超えるピノ・ノワール100%から生まれる。以前はガメイを植えていた区画だそうだが、先代ジョゼフがその出来が気に入らず全てピノに植え替えたそうだ。通常、ガメイがブレンドされるGrand Ordinaireとは全く異なるロティのこのアイテムはとてもお買い得と言える。

収穫は通常70人で行うそうだ。当然、全て手摘みだ。畑では迅速かつ丁寧に摘み取られ、不良果はここでまずはじかれる。そしてケースを運んで移す度にそのケースは丁寧に洗ってから使われるそうだ。細かい話だが、手間のかかるこの作業を実践している所はトップドメーヌの中でも極一部だ。そして選別台には熟練の6人が配置されている。ロティではすべての工程に一切の妥協はしない。一番大事な時期だから休んでいる場合ではないと、他のように8月のヴァカンスにも出かけない。ワイン造りに全てを注ぎ込んでいるのだ。だから彼のワインはどのワインも心に響く。

2010年の収穫開始は9月26日、2011年は9月5日だった。2012年は今の状況だと9月22日前後になるだろうとの事。
BIVBによると、2012年は8月の初めからとても良い天気が戻り、ブルゴーニュの生産者の間には希望が広がっているそうだ。2012年は全般的に収穫量が少なくなるが、数が少なくなったぶどうは、ブルゴーニュで続いている好天候の恩恵を受けている。低収量で高品質なワインになるだろうと予測している。


6.Bourgogne Rouge 2010
後述のプレソニエールの生産量が少ない為、マルサネ村のブドウから造られたイレギュラーキュヴェ。15樽だけ造られた。シンプルで分かりやすさを求めたキュヴェで果実の熟度としっかりとした酸がバランスよく構成されたワイン。




7.Bourgogne Rouge "Cuvée Pressonier”2010
通常は40樽程度造られるが、2010年は30樽しか造ることができなかった。1樽から約300本できるとすると実に250ケースも減ってしまったのだ。これではとても需要に追い付かない。さてワインは先述のブルゴーニュ・ルージュよりもさらに深みがある。まだ硬さがあるものの、スケール感の片鱗は感じる事ができる。骨格がしっかりとしていて、酸、果実味、フィネス共に高いレベルにある。1994年の法改正まではジュヴレ・シャンベルタンだった区画である為、通常のブルゴーニュ・ルージュとは明らかに一線を画す高い品質を誇る。品質はジュヴレ、価格はACブルゴーニュ。人気が高いのも頷ける。



8.Marsannay Rouge 2010
マルサネでは20を超える区画をいくつも所有しているが、そのおかげか毎年とても高いレベルのワインを造り上げている。レシー、ポゼ、ピシーヌ、カルティエの4つの区画からのブドウが使われているが、ポゼ、カルティエは1級昇格の候補にもなっている優れた畑。しっかりと焦点が定まっていて、果実味の凝縮度が高く、フィネスに溢れる味わいを有している。洗練された酸もタンニンもしなやかでしっかりとしている。前から他の優良な生産者と共にマルサネ村のいくつかの区画を1級にしようと動いていて、正式に文書を提出しているそうだ。彼の悲願達成はもうすぐそこまで来ているのかもしれない。


9.Marsannay “Quartier” 2010 (P.Roty)
樹齢50年を超える区画で、1級格付けにしようとしている畑のひとつ。甘みがありエレガントでしなやか。ブラックチェリー、ブラックベリー、スミレ、土などの深みのある香り。しっかりとした熟度のある果実味は質感もきめ細かく、酸もタンニンもしっかりとしている。1級格付けとなっても何ら違和感のない見事なワイン。法律上の名義分けの関係でJoseph ROTY名義ではなくPhilippe ROTY名義でリリースされる。

さて、2011年産からまたマルサネのキュヴェが増える事となるそうだ。新たに加わるのはマルサネ・ロンジェロワ。これはフィリップの祖母がドメーヌ ブーヴィエに貸していた区画で、契約満了に伴い、返してもらうことになった畑だ。フィリップ自身も待ち望んだ契約満了だそうだ。ただ樹の切り方やピケの打ち方等、細かい事だが色々とフィリップの好みではなかったのでそれらを全て変更したそうだ。この区画も他の畑同様に古木の区画。リリースされるのは2014年になる。




10.Marsannay “Les Champs St. Etienne” 2010
(P.Roty)

十分に熟している果実香は実に品があり、柔らかい。ミネラル感も十分にあり、芯がしっかりとした複雑味を備えた味わい。



11.Marsannay “En Ouzelois” 2010
平均樹齢80年を超える古木から年産2700本程度造られる。非常に緻密でエレガントなスタイル。ブラックカラント、土、ブラックチェリー、ブラックベリーやスパイスなどの要素も豊富。明瞭な輪郭と焦点の定まったしっかりとした構成。日本人には読みづらいキュヴェ名だが、フィリップ曰く、アン・ウーゼロワが正式な呼び名との事。



12.Marsannay “Cuvée Boivin” 2010
1939年植樹のヴィエイユ・ヴィーニュ。年産1000本程度の稀少なキュヴェ。2002年から独立して造られるようになった。ベリーのシロップ漬けのような熟度の高い甘い香りが印象的で、ジュヴレのような重厚さと力強さにエレガントさが備わった造り。フィリップはマルサネのシャンベルタンと評する。



13.Marsannay “Clos de Jeu” 2010
先述のBoivinの区画から30mほど離れた区画。共に土が少ない区画で、20cm下は厚い岩盤がある。小石も多い土壌でもある、この岩盤は家の塀などに使われるなどしている特殊な地層から成る。Boivinと共にマルサネのグランクリュとも評される。非常に小さく繊細で凝縮した葡萄ができる区画。シャルム・シャンベルタンと同時期に収穫されるなど、ドメーヌではグランクリュ同等の扱いをしている。僅か0.2haの為、入荷は極僅か。

フィリップ・ロティ氏(右)、ピエール・ジャン・ロティ氏(左/弟)



14.Cote de Nuits Villages 2010 (P.Roty)
フィリップが住む家のすぐ近くにある区画から産する。石灰が多く、古くは石切り場でもあった場所でもある。ニシンの尻尾と言われる細長い形状の0.17haを所有し樹齢は約45年。2005年がファースト・ヴィンテージのキュヴェでとても好評なのだとか。柔らかく温厚で、親しみやすく、比較的早い段階から楽しめる。

15.Gevrey Chambertin 2010
これも2005年がファーストリリースのキュヴェ。樹齢45年で0.5ha所有している。とてもオープンで外交的なジュヴレ・シャンベルタンに仕上がっている。十分に熟した状態で収穫したおかげで、収斂味や厳しさなど皆無で、リッチで力強い甘みがあり、酸も程よく、やわらかくしなやか。




16. Gevrey Chambertin Champs Cheny 2010
シャルム・シャンベルタンに隣接した特別な区画。1934年植樹が主だが、40年から80年と幅広い。しっとりと落ち着きがあり、深みとしなやかさはシャルムに共通した味わいがある。繊細でとてもきれいに仕上がってきている。



17.Gevrey Chambertin Champs Cheny V.V 2010
(P.Roty)

これもシャルムに隣接する畑で、その中でもV.Vは1934年に植樹された特別な区画。前出のJoseph名義のChamps Chenyは樹齢が30年から70年の為、2002年からは分けて別名義でリリースされることとなった。広さは僅か1/4haで年産は1400本程度。多くの石灰岩を含む土壌で、ミネラル感がワインにも現れている。品のある薫り高いショコラ、ヴァニラが印象的で、深みがあり、エキス分が豊富。タンニンも熟していて、角がなくとてもエレガント。

18.Gevrey Chambertin
“Cuvée de La Brunelle” 2010

ドメーヌのすぐ裏にある区画でクロ(塀)に囲まれている。テイスティングする場から見る事が畑。樹齢は約50年。塀に囲まれているおかげで、熱が滞留するので、ブドウが他と比較すると熟しやすいようだ。ベリー系果実のシロップ漬けのような凝縮した甘みのある香りと、良く熟した濃縮した果実味。酸、ミネラル、タンニンもバランスが取れている。3樽程度造れたようだ。



19.Gevrey Chambertin
Cuvée de “Clos Prieur Ba” 2010
 1級畑であるClos Prieur(Haut)に隣接する畑。ロティの区画は、1級と比べても全く遜色のない良質な葡萄を産する事で知られている。村名ワインでは特にお買い得ともいえるワイン。ブラックチェリー、ビターチョコレート、スミレ、ブルーベリー、土、甘草、などの食欲を掻き立てる豊かな香りに満ちている。奥行きがあり、熟度が高いが、角の取れたタンニンと、清涼感のある洗練された酸もしっかりとある。



20.Gevrey Chambertin 1er Cru Les Fonteny 2010
 畑の由来はFountain(泉)から来ているそうで、古くは岩盤の隙間から水が湧き出る場所であったことから名付けられてそうだ。僅か0.4haの区画は周りに高い壁があり、熱が溜まりやすく、程よく熟度が高いブドウを産する。とても暑くなる為、朝夕に仕事をするそうだ。石の間から蛇もよく出てくるので、色々と気を張らないとならないそうだ。フォントニー自体がそれほど広い畑でない為、生産者は当然限られる。セラファン、デュガピ、ブリュノ・クレールといった日本でも有名なドメーヌやネイジョンという無名ドメーヌも所有している。熟度が高くラズベリー、ブラックチェリー、フランボワーズ、カシス、スパイス、ハーブ、土、スミレ、ショコラなどの豊かな香り。濃密でエレガントさとセクシーさを備えている。

21.Mazy Chambertin 2010 
区画は僅か0.15haながら飛び抜けた高い品質を誇るグランクリュ。植樹は1920年。高レベルでの果実味、酸、タンニン、ミネラルなどがスケール感いっぱいにバランスよく、1本のボトルに封じ込まれている印象。コルクを抜くと溢れ出るエネルギーが解き放たれるかのように豊かな香りが一帯を支配するかのようだ。ブラックチェリー、カカオ、レザー、ミント、タバコ、フランボワーズ、スミレ、バラ、スパイス、土、ハーブ、ショコラ、シロップ漬けのベリーなどの複雑な香り。焦点がきっちりと定まりしなやかでスケール感を感じずにはいられない見事な味わい。



22.Griottes Chambertin 2010
1919年植樹の稀少な畑。生産は僅か1樽程度。Mazyより幾分、柔らかい印象。リッチでゴージャスな果実の旨味が凝縮しており、濃密でエレガントさが際立ち、しなやかさが感じられる。

23.Charmes Chambertin Tres Vieilles Vignes 2010
 ロティのフラッグシップであるシャルム・シャンベルタンの樹は1885年に植樹された超古木。この樹だけでも世界遺産と言っても過言ではない。シャルムとも名乗れるMazoyeres Chambertinを含めないAux Charmesの区画からのブドウの為、純粋な意味でのCharmes Chambertinと言える。
甘く熟したブラックチェリー、カシス、ブラックベリー、ショコラ、レザー、ハーブ、フランボワーズ、スミレ、ラズベリー、土などが複雑に絡み合った清らかで濃縮した並外れたアロマ。幾重にも折り重なった深い味わいの層。壮大なスケール感、ゴージャスさを備えながら、落ち着いた大人の余裕さえも感じさせるシルキーでエレガントな印象を備えている。

2010年は2009年に比べると、約3割もの収量が減った。寒い冬が続き、その影響でブドウの樹が凍ってしまう場所さえあったほどだ。長い冬の影響で、春の訪れは例年より遅く、開花期の6月になっても低温で花がつかず、天候の影響も受けてしまった。花ぶるいが各地で起こり、受粉しない実が多かったようだ。結実不良が多く発生したことで収量は大幅に減ってしまった。ただ出来た葡萄は小さくとても凝縮したものがとれたおかげで2009年よりもコンセントレートされた傑出したワインになったようだ。

フィリップ・ロティは43才となった。共にドメーヌで汗を流す弟のピエール・ジョンは30才と見た目よりも若い。既に小学生になる娘さんがいるそうで、ドメーヌから100m程離れた学校に元気に通っているそうだ。彼の奥さんはChampagne出身で、父は小さな村の村長。エッチングボトルを造っているそうだ。また奥さんの兄妹は手吹きガラスの職人でバカラと契約しているらしい。今後、ロティでバカラのコレクターボトルがリリースされると面白いのにと密かに淡い期待を抱いている。