ブルゴーニュワイン大全


畑は円形競技場のように落ち窪んでいて、平坦な中央部分から2つの羽が伸びたような地形になっている。このおかげで熱を溜め易く、ブドウもとても良く熟すそうだ。ジュヴレの特級の中では表土が薄く、味わいも比較的軽い方とされるが、香り高いとも評されている。

先代ジョゼフの時代には隕石が落ちた事もあるそうだ。今も鉄のビー玉みたいなものが沢山あるそうで、もしかしたら、このワインのミネラルさに何らかの影響があるのかもしれない。


22.Charmes Chambertin Tres Vieilles Vignes 2012
 ロティのフラッグシップであるシャルム・シャンベルタンの樹は1885年に植樹された超古木。単にVieille Vignesではなく、頭にTRES(=VERY)が付く特別なものだ。
フィリップやピエール・ジャンはこの樹々を自分の家族のように大事に扱っているそうで、ロティ家の家宝でもある。
シャルムとも名乗れるMazoyeres Chambertinではなく、Aux Charmesの区画からのブドウの為、純粋な意味でのCharmes Chambertinと言える。RotyではAux Charmesの区画に3ヵ所 計0.16ha所有している。

ワインは深みと輝きのあるガーネット。野苺、スミレ、カカオ、リコリス、ブルーベリー、牡丹、スモーク肉、ブラックペッパー、キャラメル、土、レザー、タバコ、カシス、オークなどの複雑性溢れる豊かな香り。新樽由来のトースティなニュアンスがバランスよく液体に溶け込んでいる。奥行きがあり、スケール感の大きさは別格。口に含めば、ワクワク、ウキウキするような高揚感に包まれる。

若い樹は溌剌とした新鮮さをもたらすが、古い樹はフィネスをもたらす。そのバランスの良さが傑出しているのが、彼らのワインだ。特にグランクリュのバランスの良さは素晴らしい。超が付くほどの古木だからこその複雑さと奥行きがある。ここまで樹齢が古い樹はブルゴーニュでも非常に珍しく、他と比較にならない程のフィネスは長い年月によって育まれた本当に特別なものなのだ。 

Roty家ではCharmesは、他のグランクリュに比べ、所有面積も大きく、生産量も多い為、状態を見る為に、良く開けたりするそうだ。もちろん、家族や親戚、友人などの祝いごとの際は気前よく抜栓すると言う。

2013年にピエール・ジャンが結婚式を挙げた際、彼の生まれ年である1982年産のCharmesのマグナムを開けたそうだ。花嫁には生まれ年の1985年を記念にプレゼントしたそうだ。Roty家では、子供が生まれたら、1樽分のグランクリュを取っておいて、その子の結婚式に開けるようにしているそうだ。この家に生まれて良かったと改めて思える素敵な風習だと彼は言っていた。

1982年はボルドーにとってはグレートな年だが、ブルゴーニュにとっては決していいとは言えない年だった。ただ、マグナムで熟成が緩やかなのが良かったのか、とても状態が良く、ワインを飲みなれた家族や招待客の皆が素直に美味しいと思えるワインだったそうだ。年の出来不出来ではなく、造り手の力量も大きく試される年だったので、ロティの造り手としての力を余すところなく発揮されたのだろう。それに加え、子供の生まれるジョゼフはいつも以上に気合を入れていたのかもしれない。

固い家族の結束の中で生まれる彼らのワインは、品質において、ブルゴーニュのトップドメーヌとされるワインと比べても何ら遜色がない。
そしてブルゴーニュで最も過小評価されている生産者と言っても決して過言ではない。現に今回訪れた他の生産者の多くは高品質にもかかわらず、過小評価されているドメーヌのひとつにロティの名が必ずと言っていいほど挙がる。これは先代ジョゼフがジャーナリストをあまり快く思っていなかった事が要因のひとつであるかもしれない。またジョゼフが有名なヘビースモーカーだった事も一因だろう。あれほど煙草を吸ってワインの味が分かるのかと、ジョゼフ存命中は遠い異国である日本でも話題になったほどだ。
晩年、ジョゼフは、体を気遣ってか、禁煙したそうだ。ただ、長年の習慣は恐ろしいもので、煙草を止めた途端、ワインの味が分からなくなり、仕方なく煙草をまた始めたそうだ。結果的にそれが彼の死を早めたのは言うまでもない。
ロティのテイスティングルームには大きな禁煙マークが貼っている。他の地でそれを見るよりも大きな意味があるように感じられる。

とは言え、2012年のロティの出来は相変わらず素晴らしい。ブルゴーニュの古き良き王道とも言える味わいがはっきりと感じられるからだ。ピエール・ジャンとフィリップが手に手を取り合って仕上げた渾身の珠玉のワイン達のいずれかはワインファンの琴線に確実に触れてくれるだろう。