[Domaine Andre BONHOMME]

ドメーヌ・アンドレ・ボノム
ブルゴーニュ最初の訪問地はVire ClesseのDomaine Andre BONHOMME。
出迎えてくれたのは新醸造責任者となったオレリアン・パルテ氏とその父、エリック・パルテ氏。
日向では目も開けているのが辛いぐらい、強い日差しの中で挨拶して、テイスティングルームへ。
2012年についてまずは話してくれた。ブルゴーニュではMeursaultやPuligny、Beaujolais等で特に、雹の影響はあったようだ。該当地区の生産者は収量が大幅に減ってしまうそうだ。この辺りには、雹害はなかったようだが、自然に起こることだから、たまたまそこに降っただけで、いつ自分の畑に降るかは神のみぞ知る事なんだよとエリックは話していた。

アンドレ・ボノムではビオロジックを長く実践しているが、雨や病害の度に適切なトリートメントが必要になる。今年は2倍の手間をかけなければならない年だったそうだ。雹が降っても影響を受けないようバランスをとって葉を落としたり、不良果を取り除いたりして、風通しを良くし、カビなどの対策も十分に行ったそうだ。湿気によって発生するとても厄介な病気であるミルデュー(mildew)の対策を的確に行わないとならなくて、多くの生産者にとってとても難しい年だと語ってくれた。2012年は畑にいる時間がとても長い年でもあったとこれまでを振り返った。ただ不良果を細かく除けば、ブドウはとても小粒で凝縮していて、選別もきちんと行えばいい年になるだろうとのことだ。


エリック・パルテ氏



ここ2週間ぐらいは今日みたいな暑い日が続いており、それに伴って糖度が上がっていているそうだ。これから収穫に向けて、とてもいい状態になってきているようで、いいヴィンテージになるだろうと予測している。収量は前年に比べ減ってしまうが、残った健全なブドウは8月の好天の恩恵をしっかり受けている。生産者達にとっては困難な年ではあったが、品質においてはワインファンが喜ぶ高い品質のワインになるだろうとの事だ。

クレマン用のブドウは刺激的な酸が必要となるので、収穫は9月10日前後でやや早めだが、その他のキュヴェは3週間程度後の9月20日頃になるそうだ。2009年や2010年の早い収穫と比べると、遅く感じてしまいがちだが、これまでが異常に早過ぎて、やっと適正な収穫に戻ったと生産者は思っているようだ。ザコルのオリヴィエも言っていたが、ここでも熟度と酸とフィネスのバランスが重要なのだという。熟すのが早いとフィネスに」欠けるので、通常の収穫時期になることはとても喜ばしいことなのだ。2012年の収量は2010年程度になるだろうと考えている。


オレリアン・パルテ氏




1.Cremant de Bourgogne 2008
他のクレマンと比べても異様に長い約2年半にも及ぶ瓶熟でリリースされるが、それよりもさらに長くされたことで、よりクリーミーで複雑味のある味わいになっている。シャンパーニュでもかなり上位クラスの味わいを持っている。ブラインドでシャンパーニュに混ぜて出してみたいと思わず考えてしまうワイン。図抜けた品質を考えれば、この価格はかなり魅力的だ。
1/3を古樽で樽熟、2/3をステンレスタンクで寝かされる。1年後に大タンクでアッサンブラージュ。そこで6か月寝かされ、瓶詰して2年半さらに寝かせるそうだ。シャンパーニュ製法で造られる為、とても細やかで深みのあるクリーミーな泡立ちとなる。ドザージュはマコンのヴァンダンジュ・タルディヴが使われるなどこの価格では他を圧倒する力を注いでいる。ちなみにこのヴァンダンジュダルディヴは1976年産が使われており、1本で約30本分のドサージュに使われているそうだ。三年ほど前に10年の沈黙を破り復活したキュヴェだが、ドメーヌの新しい顔になってきている。


2.Vire Clesse 2010
4月に瓶詰されたキュヴェ。100%ステンレスタンクで造られる。これまでJugne Vignes(ジューニュ・ヴィーニュ/若樹)として販売してきたが、既に樹齢は30年を超えている為、V.Vの域に達してきた。造り方等は全く変わっていないが、樹齢が古くなることで、ブドウに深みが年々増しているそうだ。ナッツなどの香ばしい香りと白い花の品のある香りが実に心地いい。ねっとりとした厚みのある飲み口で、熟度、酸ともに申し分ない出来だ。2010年は例年並みの収量だったが粒はとても小さく、味わいは凝縮している。2012年にも共通点が多いそうで、2012年に寄せる期待度は高い。2009年はパワフルでストラクチャーがしっかりとしたスタイルだったが、2010年はフィネスがしっかりとあり、香り立ちがより華やかだ。




3.Vire Clesse Vieille Vignes 2009
先述の2010よりさらにナッティな印象が強い。60%古樽で40%はステンレスタンクで熟成されるが、古樽の品のある樽のニュアンスがうまく溶け込んでいる。樹齢は30~60年の区画のブドウが使われている事から由来するのか、より複雑性の高く味わい深い見事な液体に仕上がっている。ミネラル感と果実味も豊富でとても洗練されている。最も権威あるとされるパリ コンクールでは銀メダルを受賞している。安定した高い品質からは、多くの星付レストランで扱われている理由がはっきりと感じられる。




4.Vire Clesse Hors Classe 2009
樹齢は90年を超える特別な区画で造られる。60%は樽熟(15%新樽、45%古樽)で残りはステンレスタンクが使用される。V.Vよりもさらにミネラリーで濃密か果実味が感じられる。ムルソーの1級のようなニュアンスもあるが、Vireはコート・ドールと同じように造ると酸が強くなりすぎてしまうそうだ。通常のVireの生産者はオレリアンが考えている限度を超えて収穫を遅らせる事が多い。そうすると酸はなくなるが逆に重すぎてフィネスに欠けてしまう。マコンはフルーティで香りの要素が多いが、フィネスに乏しい印象のワインが多いのが現状だと分析している。成分を細かく分析し、収穫日を的確に見極めてやることで、Vireの長所を最大限に活かすことができるだろうと考えている。




5. Vire Clesse Les Pretres de “Quintaine” 2009
VireとClesse村の中間にあるQuintaine(カンテーヌ)村キュヴェ名はカンテーヌ村の司祭の意を持つ。区画が礼拝堂に面した日当たりのよい樹齢90年を超える区画にあり、司祭の名の下にあるということから名付けられた。オレリアンが醸造を担当する事になり、テロワールの特異性から新たに別キュヴェとして造られることとなった限定品。年産は2000本程度。

樽熟は24か月され、2011年夏に瓶詰された。6カ月ほど前はまだ香りが閉じていたそうだが、グラスに注ぐとどんどん香りが湧き上がってくるのが、離れていても分かるぐらいだ。アカシアの蜂蜜、ヘーゼルナッツ、ヴァニラ、シトラス、パイン、白桃、ハーブ、白い花などの絡み合う複雑な芳香。ねっとりと濃縮され、ミネラリーで清涼感とエレガンス感が溢れる見事な味わい。余韻も長く気品がある。オレリアンの才能の豊かさとドメーヌの輝かしい未来が見えるようだ。ちなみにこのキュヴェ、ヴィニュロン・インデペンデント・コンクールでゴールドメダルを受賞している。   

通常のVireの生産者だと若い2011年産が流通しているが、ボノムではそれだと本来の良さが伝わらない事からじっくりと寝かせてから出荷することで本来の味わいが伝わりやすいようにしているそうだ。




6.Bourgogne Rouge Vieille Vignes 2008
ガメイから造られるブルゴーニュ・ルージュ。元々はマコン村の農民還元ように造られたキュヴェ。少量ながら輸出しているようで、ラベルを復刻版に戻したそう。ラベルには透かし文字で60と大きく表記しているがこれは1960年植樹のブドウから造られているという意味を持っている。焦点のきっちりと定まった継ぎ目がなく、しなやかで品の良い果実味。熟度があり、タンニンも円く酸もおだやかでバランスが取れている。ガメイ本来の香りにはバナナなどの熟した食欲をそそる甘い香りがあるが、これにもその要素が感じられる。巷に流通しているガメイの香りは果実本来のものではなく酵母の香りが支配的で、それがガメイの香りだと認知されてしまっている現状をオレリアンは憂いている。ガメイってこんなにおいしいものなのだと気付かせてくれる貴重なワイン。

オレリアンはQuintaine以外にも新しいキュヴェを造るようだ。まずはCoteau de L’Epinet 2010が来春リリース予定だ。樹齢95年の古木の区画から800本程度造られる稀少なキュヴェになるようだ。

そして2012年産からは新たに2つのキュヴェも造ることを計画している。彼の父の時代にはなかった若い彼ならではのアグレッシブな取り組みだ。
彼の代になってドメーヌは確実にさらに上のステージに引き上がった。タンザーなど著名なジャーナリストが評価しているのも彼の才能に気づいているからに他ならない。
親交があり、少なからずとも影響を受けたであろう、ラモネ、コシュデュリ、ボノー・デュ・マルトレイ達と将来的に肩を並べる存在に、もしかしたらなるのかもしれないという夢さえも見させてくれる若き才能オレリアン・パルテから目が離せない。


アメリカ人の顧客からもらったであろうC.I.A.のTシャツを着て満面の笑顔のエリック・パルテ氏。左は彼の息子オレリアン・パルテ氏。帰り際、オレリアンに知らないと思うけど、どうやらこの辺りにC.I.A.のスパイが紛れ込んでいるようだから気を付けてと話すと大笑いしていた。