[Domaine Christophe BRYCZEK]

ドメーヌ・クリストフ・ブリチェック

8月31日16:00訪問。出迎えてくれたのはクリストフ・ブリチェック氏。ドメーヌを興した彼の祖父ジョルジュ・ブリチェックは100才になったそうだ。95才までは何と1日1本のワインを飲んでいたそうだが、今は1,2杯にしているようだ。自慢の髭は老けて見えるからという理由でばっさりと剃ってしまったそうだ。周りに若いねと言われるのが嬉しくて仕方ないようだ。

ラベルにも描かれているセラーで2011年を試飲する事となった。クリストフ曰く、まだ試飲できる段階では全然ないからと前置きされての試飲。通常は12月を過ぎないとワインとしての評価は出来ないとの理由で試飲させないそうだ。

ラベルは2010年からリニューアルされたが、2011年はそれをベースに一部改良するそうだ。

1.Chambolle Musigny 2011
 現時点では酸がたっていてアンバランスだが、柔らかい果実味の甘みがしっかりと感じられる。クリストフは最初は閉じていてタンニンも強かったが、徐々にこなれてきていると語っていた。



2.Gevrey Chambertin “Aux Echezeaux” 2011
 これも判断するには少し早い段階。やや炭っぽい風味とタンニンの強さがある。まだこなれておらず、ギスギスしているが深みと果実味の強さが印象的。リリースする頃にはやわらかくも力強いワインになるだろう。2011年はとてもいい年になったようだ。



クリストフ・ブリチェック氏



3.Chambolle Musigny 2010
 既にリリースされた2010年はとても評判がいい。とてもピュアで柔らかく、果実味豊かで、きめ細かいシルキーさがとても良く出ている。クリストフは夕方に開けて翌日飲むと丁度いい具合に開いてくるという。甘みがより強く出てきて、エレガントなシャンボールらしい果実味が出てくるそうだ。10~15年熟成させるだけのポテンシャルを秘めていると語る。2010年は2000本~2500本程度生産、2011年は2500本生産。



4. Gevrey Chambertin “Aux Echezeaux” 2010
ギド・アシェットのベストワインにも輝いているキュヴェ。果実の甘みがたっぷりとあり、パワフル。酸、タンニンもしっかりとありバランスが良い。果実の濃さと熟度の高さがあり、しっかりと焦点が定まっている。


5.Morey Saint Denis “Clos Solon” 2010 
ジュヴレ・シャンベルタンよりやや甘みが感じやすく、香りも開いている。果実の旨味が凝縮しており、きめ細かく、しなやか。

日本でもそうだが、NYのワインショップやアメリカのインポーター達もパーカーの評価を当てにしていないそうだ。彼は味わいの強いワインにしか評価していないからだ。繊細でエレガントな味わいのブルゴーニュは彼の好みではないようだ。ブルゴーニュはセパージュワインであり、テロワールが重要な意味を持っている。パーカーはテロワール自体に興味がないのだから、分かりようがないと言うのがバイヤー達の意見のようだ。最近ではアメリカ人もギドアシェットを参考にしているそうで、DRCなどのトップドメーヌやネゴス以外のおいしいブルゴーニュを飲める店が増えてきているようだ。

クリストフの祖父ジョルジュは100才まで生きるというのが、目標でこれまで元気に過ごしてきた。実際に100才になった時、目標がなくなり、生きるモチベーションを保つのが難しくなったそうだ。今は曾孫と遊ぶのが生きがいのようだ。クリストフには3才と5カ月の2人の男の子がいる。

95才まで毎日1本飲んでいたという彼の肝臓はとても特殊で常に新しい肝臓組織が生成されているそうだ。一日4本も飲む80才になるポンソの父のように医者の研究対象にもなっているそうだ。検査による数値も健康そのもので、コレステロールもなく、血液もさらさらなのだとか。ただ、遺伝的な要素が強いのでみんなにお勧めできるような健康法ではないそうだ。
クリストフの父エドワードは至って真面目な人で、ワインも祖父程は飲まない。酒好きでパーティ好きのジョルジュとは全く異なる性格。造るワインにもそういう性格が表れているのかもしれない。ちなみにクリストフは両者の中間ぐらいの性格なのだそうだ。
クリストフは幼少の頃、祖父といつも遊んでいたらしい。父はその間、畑で黙々と仕事していたそうだ。ワイン造りはもちろん庭仕事や色々な事を祖父から教わった。花の栽培も得意でドメーヌにはいつも花で満ちている。庭園コンクールに入賞するほどで、ワイン造り同様に中途半端な事はしないで、徹底的にその道を究めるのが祖父ジョルジュなのだそうだ。クリストフはそういうところはとても似ているという。


若き日のジョルジュ・ブリチェック氏

世界が戦争へと傾いていた1938年、ジョルジュはポーランドからフランスへ移った。直後にフランス軍に入隊させられ、それから間もなくナチスに捕まったそうだ。彼の家族は彼の目の前でナチスに殺されたが、ジョルジュは隙を見て逃げ出したそうだ。身一つでフランスに来た彼は本当に何も持っていなかったそうで、ゲシュタポの目を逃れるように、田舎であるブルゴーニュに移り住んだ。そこでフランス人の名で偽のパスポートを作って身を潜めていたそうだ。ポーランド訛りが強い為、それを悟られないように言葉を発する事も控えていたそうだ。
後に彼はブルゴーニュのような田舎だから、配属されるドイツ軍の軍人は下っ端で、私には気づかなかった。もし都会に住んでいたら、すぐに気付かれてこの世にはいなかったことだろうと話していたそうだ。
戦後、解放された喜びを胸に忌まわしい記憶を振り払うかのように必死に働き、本当にゼロからドメーヌを作り上げた。我々が想像している以上の努力が積み重ねられたはずだ。

対して1978年生まれのクリストフは徴兵もされなかった恵まれた世代だ。ただ彼は祖父の努力のおかげで今日の自分がいると強く感じている。そして努力の結晶ともいえるドメーヌをより輝かせる為に、彼も日々必死に戦っているのだ。ワイン造りに没頭する事が出来る環境を与えてくれた祖父への感謝の思いを胸に。彼の造るワインには祖父から教えられた、当たり前に生きることの素晴らしさや喜びに満ちているように感じてならない。


夜はボーヌにあるブルゴーニュ初の本格和食とおいしいワインの飲める名店 媚竈 Bissohへ。ブルゴーニュ訪問の度にお世話になるお店です。おいしい日本食を食べると本当にほっとします。







Restaurant “BISSOH”
1a rue du Faubourg St-Jacques 21200 BEAUNE,FRANCE

http://www.bissoh.com/