[Domaine Joseph & Philippe ROTY]

ドメーヌ・ジョゼフ & フィリップ・ロティ
10月22日(水)16:00訪問

陽も落ちかけた時間からの訪問となった。
出迎えてくれたのはフィリップ・ロティの弟で共にドメーヌを運営しているピエール・ジャン・ロティ(Pierre-Jean ROTY)と彼のお母さん、つまり先代ジョゼフ・ロティの奥さんだった。ここはいつも家族総出で出迎えてくれる、人一倍、家族の絆を強く感じるドメーヌだ。
フィリップの一番上の娘は、学校で商業に関して学んでいる。将来的にワインの販売に活かしたいからだそうだが、ドメーヌだと学んだことを全て活かすことはあまりない為、将来的にはネゴス等で働く事になるかもしれないと話していた。ただ空いている日は自ら進んで畑仕事を手伝ってくれるそうだ。脈々と受け継がれたヴィニュロンの血が騒ぐのだろう。ピエール・ジャンも11歳から畑で働くようになって、その時からこの道に何の疑いもなく進んだようだ。


フィリップは、膵臓ガンはすっかり体からなくなったそうだが、もしかしたら肝臓に転移している恐れがあるそうだ。今の所、免疫力が低下しているせいか、風邪などを引きやすい為、家族以外との面会は控えているそうだ。
早くあの屈託のない優しい笑顔を見たいと心から願う。2015年春にリリース予定の2012年産の試飲をピエール・ジャンと共に始めた。



1.Bourgogne Aligote 2012
アルコール感が程よく、爽やかで伸びのある酸と清涼感のある果実味、そしてミネラリーさとのバランスが良く、とても好印象。このキュヴェはこれまで、フィリップ・ロティ名義でリリースされていたが、これをジョゼフ・ロティへ売却して、2014年産から全てジョゼフ・ロティ名義に変更される事となった。

Côte de Nuits VillageやGevrey Chambertin Champs Chenys VVも同様だ。
税制上の名義変更だけかと認識していたが、実際には醸造所も分ける必要があるそうで、フィリップ名義のキュヴェはフィリップの自宅にある醸造所で行っていたそうだ。
近いとはいえ、離れている為、効率的ではないので、2014年産からジョゼフ・ロティの醸造所にまとめる事にしたそうだ。


2.Bourgogne Blanc 2012
マルサネ村の近くの区画で428mある畝の1列のみを所有している。例年90% Pinot Blanc, 10% Chardonnayで造られる。ピノブラン特有のハーブや柑橘系の爽やかで洗練された香りに適度な酸味と苦みとシャルドネの持つミネラル感と肉厚さがとてもいいバランスの上で成り立っている。

2012年の収穫量は異常に少ない。2010年や2011年よりさらに減ったそうだ。特にグランクリュやプルミエクリュは例年に比べ、大幅に減ったようだ。全体的には平均から40〜50%のマイナスとなった。他のドメーヌと同様に花ぶるいが発生して、多くの実がならなかったのが最大の要因のようだ。
マルサネなど所有面積の多い畑は例年なら質は良くとも、ドメーヌの生産量を制限するため、余剰分をネゴスに販売していたが、2012年はそれも行わなかった。


3.Marsannay Blanc 2012
前述のブルゴーニュ・ブランより厚みとミネラル感が強い。よりエレガントさが前面に出ていて、酸もあるが、比較的穏やかなため、今飲んでもおいしい。収穫時、実はもちろん梗も熟していて、とてもいい葡萄ができたとピエール・ジャンも満足していた。

2012年のロティでの収穫は9/22から7,8日間かけて行われた。通常だと7日で終えることが出来るが、1日だけ少し雨が降ったせいで、その日は収穫をしなかったそうだ。例年も全く雨が降らないまま収穫を終える事は稀だそうで、選別をより厳しくすれば、品質には全く問題はないそうだ。ちなみに豊作だった2014年の収穫時も雨は少し降ったそうだ。



4.Marsannay Rosé 2012
ロゼのアペラシオンの3つの区画から産出する。このアペラシオンからでもACブルゴーニュ・ルージュとしてリリースが出来るそうだが、ドメーヌではあくまでここはロゼ用だとして、それだけをリリースする。
例年以上に、とてもバランスの良い赤ワインのようなロゼに仕上がっている。ピエール・ジャン曰く、イギリスで人気のあるフルーツキャンディのような風味があるそうだ。プレス時、4〜5時間漬け込み、深みと輝きのある色合いが抽出される。ロゼとしては異例の樽熟12ヵ月の為、長熟させて楽しむのもいいかもしれない。


ロティではピエール・ジャンがプレスを10年以上担当しているそうだ。
生来、機械好きでもあった彼は、プレス機などの機器に対しても、他の生産者以上に詳しく調べ、自分が納得できる最高のものを購入しているそうだ。

今、使用しているスイスのビュシェ製のプレス機は1台約25,000ユーロとかなり高額な機械だが、とても細かな設定が出来、種を潰さず、熟した純度の高い果汁だけを抽出できるそうだ。

購入を決める際も多くのメーカーの中から、特にいいものを4台セレクトし、さらにそこから最高のものを選んだそうだ。

他の生産者なら、こんな面倒な選択作業はしないで、懇意にしているメーカーのセールスマンの言う事を鵜呑みにするだろうけど、それじゃイヤなんだよねと少年のように笑っていた。
設定にはオートマチックとプログラムモード、マニュアルモードがあるそうで、父の言葉を思い出しながら、その年の出来に合わせて細かな調整をしているそうだ。父の代は木製のプレス機で、ネジで締め上げるタイプだったので、細かな調整は難しく、種まで潰れていたそうだ。その結果、余分な青みまでが出てしまい、飲めるようになるまで、かなりの熟成を要した。新しいプレス機はとてもジェントルにプレスできるので、本当にいい果汁が絞れるんだよととても嬉しそうに話していた。

ステンレス製で、細部にわたってユーザーの事を考えたデザインの為、メンテナンスがしやすく、そのおかげでとても衛生的なのも魅力なのだという。

せっかく、手塩にかけて育てた葡萄を機械のせいでダメにしてしまうなんて考えられないから、敬意を払うように最高のものを使うんだよという。彼らの少しでもいいものを造りたいという情熱が、ひしひしと伝わってくる。その情熱はワインにとても正直に反映されるのだ。


5. Côteaux Bourguignons 2012
2011年まではBourgogne Grand Ordinaire でリリースされていたが、ブルゴーニュで改称がありコトー・ブルギニヨンとしてリリースされる事となった。
フィリップは、何でBourgogne Grand Ordinaireなんておかしな名前つけたのかと長年思っていたそうだ。それがようやく改善されたことには喜んでいた。Grandは上級のという意味があるのに、Ordinaireは平凡や普通の意味があり、生産者達もこの名称自体が笑いのタネだったようだ。
変わるとはいえ、Côteaux Bourguignonsという名前自体も、平坦な場所なのに何故、「丘」という意味を持つCôteauxが使われているのか疑問を持ってはいるそうだ。斜面でなくともこれを名乗ることが出来る。

ともあれ”平凡なブルゴーニュ”という名前が変わるのはいい事だ。ただ問題もある。ボージョレでもコトー・ブルギニヨンを名乗れてしまうからだ。ヌーヴォー以外も販売したいボージョレの生産者には大きなメリットはあるかもしれないが、ブルゴーニュの生産者にはそれほど大きなメリットはないと思われる。

通常、グランオルディネール同様にガメイのブレンドが許されているが、ロティではピノノワールでのみ造られる。以前はガメイを植えていた区画だが、先代ジョゼフがその出来が気に入らず全てピノに植え替えたそうだ。フィリップとピエール・ジャンもガメイには興味がないようだ。樹齢30年を超えるピノ・ノワールはとてもいい状態にあるそうだ。他のOrdinaireとは全く異なるロティのこのアイテムはとてもお買い得と言える。
さくらんぼやブラックベリーの熟したニュアンスに黒糖のような濃密な甘い香りを備えている。飲み心地が良く、しなやかで、密度も適度。土やハーブ、ミネラルの要素も感じられ、酸も程よく洗練されている。他の生産者なら、ACブルゴーニュとしてリリースするのだろうと思われる高い品質は2012年産も健在だ。


6.Bourgogne Rouge 2012
2009年まで、ロティのブルゴーニュ・ルージュと言えば、法改正前はジュヴレ・シャンベルタンの区画であったプレソニエールの区画を使ったものだった。元々、量も少ないが、定期的な植え替えや、天候による収量減に伴って、世界のニーズに応える為に、プレソニエールとは別のブルゴーニュ・ルージュを造る事となったのが、このキュヴェだ。元々はマルサネ・ロゼを生産していた区画で日当たりが良く、石も多い土壌でいずれはマルサネ・ルージュにしようという計画もあるそうだ。
ロティのピノノワールは、すべてセレクション・マサルからなる。(Selection Massale:畑の植えられた樹から、優れたグループを選別し、穂木を取って台木に接いで苗木とする方法) 
クローン選抜は同一の遺伝子を持つが、セレクション・マサルは複数の遺伝子を持つ。この為、病害などの影響で全滅する可能性を軽減できる。ワインに奥行きや複雑さをもたらす効果があるとされる。専門家が判定したりもするそうだが、先代ジョゼフ・ロティが全てを行ったそうだ。その選別がとても良かったおかげで、ドメーヌの現在があるんだよと、とても感慨深げにピエール・ジャン話していた。今は亡き父の最高の遺産なのだ。畑で父や祖父の存在をしっかり感じ取れるのはとても嬉しいそうだ。


7.Bourgogne Rouge "Cuvée Pressonier”2012

前出のブルゴーニュ・ルージュとは趣の異なるスタイル。こちらはACブルゴーニュを名乗ってはいるが、元はジュヴレ・シャンベルタンを名乗っていたため、酒質はとてもしっかりとしていて、若飲みするのはあまりお勧めできない。ジュヴレ・シャンベルタンとして扱って飲むタイミングを計るべきだと思う。
前出のブルゴーニュ・ルージュよりも熟度があり、ピエール・ジョンはキャンディのようなとても分かりやすい風味が備わっていると評している。固さはあるものの、適度な凝縮感と深みがあり、バランスがとれていて、スミレやブラックベリーのニュアンスがとてもいいアクセントとなっている。

ここ数年、コート・ド・ボーヌでは雹害が毎年のように発生しているが、その事に関して、とても興味深い話が聞けた。

Volnayなどの村では4年続けて雹が降り、収穫するブドウがなくなる程の大きな被害があったドメーヌが多くある。小さなドメーヌにとってこれは死活問題で、畑を売却せざるを得ない状況に陥っているという話をよく聞くそうだ。返済が滞り、銀行に持って行かれたりもする話もある。

実は雹害に関して、マルサネでもヴォルネのように被害が続いた頃が以前にあったそうだ。

その原因とされるのが、山の上に広がる森の木を伐採したことだったのだ。テロワールとは、気候や地形、周りの環境が複雑に絡み合っている。そのバランスはとても危ういもので、僅かな変化が結果として大きな変化へとつながる。

畑を見下ろす山の木を伐採してしまった事で、風の流れが大きく変わったのだ。防風林の役割を果たしていた、木々がなくなることで、畑にその風が吹き込み、雹を降り注いでしまったということらしい。

もちろん、近年 問題になっている温暖化の影響も大きいが、VolnayやPommardなどの一部の地域に頻発して雹害が起こるのは山の上の木々を切ってしまった事が一番の問題なのだという。

マルサネ村では、いち早くこの事に気付いたおかげで、素早く植樹し、その後は雹害を防ぐことができたそうだ。VolnayやPommardも同様だと言うので、早く対策をしてもらえれば、被害は今よりかなり軽減されるとロティ家では考えているそうだ。

またVolnayやPommard等は、どうかは聞きそびれたが、ブルゴーニュのいくつかの村では送電線が畑を通っている。畑の真ん中に鉄塔が建っていることも珍しくはない。何とももったいない気もする。そこまでは当然ながら他所から送電線を引き入れているので、山の上に鉄塔を立てる為にも木々は伐採されてテロワールに影響を与えているようだ。電磁波の影響も懸念されている。

8.Marsannay Rouge 2012
より濃密で、ジャム漬けの果実、黒糖、スミレ、ブラックチェリーなどの風味が印象的。マルサネでは20を超える区画をいくつも所有しているが、そのおかげか毎年とても高いレベルのワインを造り上げている。全体の味わいを見ながら、最善の味わいになるよう巧みにブレンドして造られる。
レシー、ポゼ、ピシーヌ、カルティエの4つの区画からのブドウが使われているが、ポゼ、カルティエは1級昇格の候補にもなっている優れた畑。


9.Marsannay “Quartier” 2012 (P.Roty)
法律上の名義分けの関係でJoseph ROTY名義ではなくPhilippe ROTY名義でリリースされているが、それも近い将来Joseph ROTYに統一される。樹齢50年を超える区画で、1級格付けにしようとしている畑のひとつ。
熟した苺、スミレ、ジャム、バラ、バナナ、ブラックチェリー、ブラックベリー、土などの奥行きのある香りが印象的。1級格付けとなっても何ら違和感のないスケール感を感じさせる見事なワインに仕上がっている。
2004年に選別台を新たに購入しに行ったそうだ。すると突然、雹が降り、店に着いたら欲しかった選別台の最後の一台だったそうだ。それがなかったら、2004年はとても満足できる品質のワインが出来なかっただろうと語っていた。選別台に熟度を見分ける特殊なセンサーがあるもので、とても優秀なのだという。
例えば、機械が12.5度の糖度と11.9度の糖度の粒を見分けることが出来るそうだ。ここまで正確な判断は、人の目ではとてもできない。
選り分けられた11.9度以下の葡萄は廃棄されるか、アルコールを製造する会社に売却されるそうだ。11度台の糖度を持った葡萄は甘くておいしいが、ロティのワインにするにはそぐわないそうだ。

試飲などの官能的な判断は機械には難しいが、プレスや選別などは機械の方が優れているという。人のように疲れて一定のパフォーマンスが保てないのは品質にバラつきが出るからだ。ただ全てを機械任せにしないで、人がそこに加わることで、互いに足りないものを補完し合っているのだ。選別には常時6人のベテランを割り当てているそうだ。


10.Marsannay “Les Ouzeloy” 2012
平均樹齢80年を超える古木から例年なら2700本程度造られるが2012年はさらに少ない。ウズローの区画は3ヵ所に分かれている。非常に緻密でエレガントなスタイルなのは今年も健在で、滋味深さが際立つ。エキス分と酸味のバランス、中核にある果実の要素、凝縮感、スパイシーさなど、どれも高いレベルで備わっている。


11.Marsannay “Cuvée Boivin” 2012

1939年植樹のヴィエイユ・ヴィーニュ。年産1000本程度の稀少なキュヴェ。2002年から独立して造られるようになった。
ミネラル感を強く感じるキュヴェ。岩が多い土壌の影響で、ミネラリーで硬質なブドウが出来るようだ。濃さと甘みがより強く感じられる。濃密でありながらもしなやかでしっかりとフィネスが感じられる。今飲んでもおいしいと素直に思えるキュヴェだ。

ピエール・ジャンもこのボワヴァンと後述のクロ・ド・ジュはマルサネの中でも別格の高品質なブドウが採れるのだという。クロ・ド・ジュはより男性的で筋肉質なスタイルなのに対し、ボワヴァンはミネラリーでフィネスが際立つスタイルのようだ。

632年に馬が通れるように広い幅で植えられたのが、始まりで、最初はガメイが植えられていたそうだ。

その後、僧侶達によってピノノワールに植え替えられた歴史を持つ。この畑の外周には石の壁があるが、これは僧侶たちが耕した際に出てきた石を積み上げた事が始まりとされる。この石壁のおかげで、雨が降っても土が流されず、強風が吹いてもその影響を受けず、熱を溜め易いので、適度な熟度を備える事ができるそうだ。昔の人の知恵はきちんと理に適っているから、長く受け継がれるんだよねとピエール・ジャンは語っていた。

ドメーヌではブルゴーニュでは一般的なギュイヨ式の剪定だが、このボワヴァンの畑だけは南フランスでよく見られるゴブレ式なのだという。質が悪ければ仕立て直すが、その必要がないほど、いい葡萄が出来るのでそのままにしているそうだ。これも先人が理に適った方法で残した遺産なのだ。


12.Marsannay “Clos de Jeu” 2012
先述のBoivinの区画から30mほど離れた区画。共に土が少ない区画で、20cm下は厚い岩盤がある。小石も多い土壌でもある、この岩盤は家の塀などに使われるなどしている特殊な地層から成る。Boivinと共にマルサネのグランクリュとも評される。

非常に小さく繊細で凝縮した葡萄ができる区画。シャルム・シャンベルタンと熟す時期が同じなので同時期に収穫されるなど、ドメーヌではグランクリュ同等の扱いをしている。僅か0.2haの為、入荷は極僅かだが、購入する機会があるのなら迷わず購入して頂きたい特別なキュヴェだと思う。

2012年も甘みが乗っていて、濃密でやわらかく輪郭もクッキリで焦点もしっかりと定まっている。パワフルでとても力強い男性的なキュヴェ。エレガントさとパワフルさが見事に同居する素晴らしい造りに仕上がっている。
この畑は斜面に位置するが、植え方が他とは異なる。通常なら斜面の上から下にかけて植えられるが、このクロ・ド・ジュの畑は等高線に沿うように植えられている。これは風の吹く向きに合わせて植えられているそうだ。そのおかげで、雨が降っても風通しが良い為、すぐに乾いてくれるそうだ。


13.Cote de Nuits Villages 2012 (P.Roty)
フィリップが住む家のすぐ近くにある区画から産する。石灰が多く、古くは石切り場でもあった場所でもある。ニシンの尻尾と言われる細長い形状の0.17haを所有し樹齢は約45年。2005年がファースト・ヴィンテージのキュヴェ。ピエール・ジャンは別名ジャルダン・ド・フィリップ(フィリップの庭)だよと、冗談ぽく話していた。

鉄分やミネラル感、タバコ、スミレ、ブラックチェリー、土、ハーブ、甘草、レザーなどの風味が感じられる。きっちりと焦点の定まった魅力的なキュヴェ。

フィリップの家は900平米あり、その家には1/4haの葡萄畑も最初からついていたそうだ。何ともブルゴーニュらしい話だ。家には畑とは別に庭もあったが、ガーデニングには興味がないので、フィリップは、ピエール・ジョンやその他に3人で庭にも苗を植えたそうだ。栽培家の夢のひとつに自宅に葡萄畑を持つことだそうだが、フィリップはその夢のひとつを叶えているのだ。いつかは、庭だった区画からワインが出来るのだろう。


14.Gevrey Chambertin 2012
これも2005年がファーストリリースのキュヴェ。樹齢45年で0.5ha所有している。
ストロベリー、スミレ、ブラックベリー、メンソール、甘草、赤身肉、ハーブなどの豊かな香りが感じられる。甘みの強い果実の熟度が高く、タンニンもしっかりとあり、エキス分の濃度もあり、粘性も高い。

収穫時は家族だけでは無理なので、毎年来てくれる人たちを雇っている。何十人もいるので、食事を用意するのも大変だそうだ。最近までは、自宅で作っていたが、料理するのはいいが、買い物が鶏肉十匹単位など、とにかく大変なので、ケータリングに頼んでいるそうだ。伝統的な家庭料理からモダンでスタイリッシュな料理までバラエティ豊かで、とても好評なのだとか。収穫時の料理は労働者の最大の楽しみなので、飽きさせない事が大事なのだとか。
食事の世話を外注する事で、収穫の手伝いや、手伝ってくれる人たちへの細かな気遣いができるので、良いこと尽くめだそうだ。


15. Gevrey Chambertin Champs Cheny 2012
シャルム・シャンベルタンに隣接した特別な区画。1934年植樹が主だが、40年から80年と幅広く、多様な複雑性が感じられる。
コーヒー、ミント、ショコラ、カカオ、スモークされた肉、ミネラル、ハーブ、ブラックチェリー、ブラックカラント、スミレなどの豊かで複雑性のある香り。前述のACジュヴレからグレードがまた一段上がったのがはっきりと感じられる。マルサネよりも柔らかで円いタンニンと適度な酸味とのバランスは秀逸で、長熟する事で、さらに良さが際立つことだろう。


16.Gevrey Chambertin “Cuvée de La Brunelle” 2012
ドメーヌの門をくぐると、すぐ右手にはマダムの家がある。そして正面にはセラーがあり、そこには珠玉のワイン達が新樽でうず高く積まれている。そのセラーを抜けるといつも試飲をするスペースがある。タンザーなどの著名なジャーナリストもここで試飲を行うそうだ。そのスペースからはこのブリュネルを見渡すことが出来る。樹齢は約50年。フィリップ達の祖父と曾祖父が植え替えた区画で父からよく聞かされたそうだ。畑の周囲には2005年に植えたサクランボやイチヂクがあり、毎年、収穫の頃に大きな実を付けるとの事。とても大きな実で、スーパーなら1粒1€ユーロはするそうだ。サクランボは自分が植えたんだよととても誇らしそうにピエール・ジャンが話していた。

マダムがそれからジャムやチェリータルトを作るそうで、家族を始め、収穫を手伝ってくれる人たちにも、とても好評なのだとか。品種はグリオット・チェリーといい、フランスなどヨーロッパで、ケーキやチョコレートに使われる酸味のあるチェリー。通常はシロップ漬け、キルッシュ漬けにされることが多い。

ブリュネルの区画は、クロ(塀)に囲まれている。塀に囲まれているおかげで、熱が滞留するので、ブドウが他と比較すると熟しやすいようだ。果実の風味が豊かで、熟度と密度が高く、より親しみやすい印象。周りに植えられたサクランボやイチヂクの風味も不思議と感じられる。ブラックベリー、ブラックチェリー、カシス、甘草、レザー、土、ミネラル、スミレ、赤身肉、煙、ブラックカラントなどの香りも印象的。輪郭がくっきりとあり、焦点もしっかりと定まっている。ミネラリーで質感のキメ細かさは絶品。


17.Gevrey Chambertin Cuvée de “Clos Prieur Ba” 2012

 1級畑であるClos Prieur(Haut)に隣接する畑。ロティの区画は、1級と比べても全く遜色のない良質な葡萄を産する事で知られている。村名ワインでは特にお買い得ともいえるワイン。タンニンも円くしなやかで、果実と酸のバランスも良い。深遠さ、液体の緻密さは顕著。粘性も高く、輪郭はくっきりで、焦点もしっかり定まっている。熟度も適度でタンニンも柔らかく液体に溶け込んでいる。

ピエール・ジャンは真価を引き出すためには、せめて7,8年ぐらい待って飲んだ方がいい、例えば、2020年の東京オリンピック辺りに開けるのがいいと思うよと実に嬉しそうに話していた。


18.Gevrey Chambertin Champs Cheny V.V 2012
(P.Roty)
前出のJoseph名義のChamps Chenyは樹齢が30年から70年の為、2002年からは分けて別名義でリリースされている。これもシャルムに隣接する畑で、その中でもV.Vは1934年に植樹された特別な区画。今も8割以上の樹が残って良質なブドウを算出し続けているそうだ。広さは僅か1/4haで通常年産は1400本程度。2012年は少し減っている。
多くの石灰岩を含む土壌で、ミネラル感がワインにも鮮明に現れている。2012年は小さな実ながら、とてもピュアで凝縮した果実が採れたそうだ。特にジュヴレ・シャンベルタンで所有する畑は高樹齢のものが多い為、それらはカシスと同程度の粒の大きさで、松ぼっくりのような大きさの房ができるそうだ。粒や房は小さいが、若い樹齢の樹とは比べ物にならない程の複雑で奥行きとスケール感のある見事なブドウができるとの事。

品のある薫り高いショコラ、ヴァニラ、ブルーベリー、ブラックカラント、土、スミレなどの深みと複雑味のある香り。しっかりとした酸、スパイシーさ、タンニンや骨格どれもが高いレベルで備わっている。味わいは隣接するシャルム・シャンベルタンに共通する高級感がある。


19.Gevrey Chambertin 1er Cru Les Fonteny 2012
 これまでのキュヴェも素晴らしい出来だが、より緻密で、クオリティの高さが際立つ。柔らかく繊細で、とてもセクシーさがある。シルキーで継ぎ目のない文句のつけようのない出来。タンニン、酸、共に高いレベルで備わっている。グランクリュを思わせる見事な風格が感じられる。スパイスの風味がとても印象的でこのニュアンスは他の畑にはあまり見られない要素のひとつだそうだ。
畑の由来はFountain(泉)から来ているそうで、古くは岩盤の隙間から水が湧き出る場所であったことから名付けられてそうだ。僅か0.4haの区画は東西両方に向いているので、一日の大半を太陽熱の恩恵を受けるのに加え、周りに高い壁があり、熱が溜まりやすく、程よく熟度が高いブドウを産する。他の畑に比べると風が通らない為、隣の畑との温度差は通常なら5℃程高いそうだ。とても暑くなる為、朝夕に仕事をするそうだ。

ロティでは、収穫時に一本の樹から房を摘み取る際に片方から摘める所を摘んでから、反対側を残したまま、その列を終わらせ、その後反対側を摘み取る方法で進めているそうだ。これは一つの樹に無理な姿勢で反対側の房をとると房を傷つけるだけでなく、同じ姿勢でいる時間が長くなる事を避けるためだそうだ。同じ姿勢でいると誰でも疲れが出やすい為、パフォーマンスに影響してしまう。それを避けるためにと、マダムが考えたそうだ。他の生産者はどうなのか、聞いてみたが、他の生産者の収穫を手伝ったことがないので、もしかしたらこれって普通の事なのかもねと話していた。
フォントニの畑の基岩は分厚い板のようで、木を植える前には岩を割らなければならないとジャッキー・リゴーは述べている。
全体でも3.73haと、フォントニ自体がそれほど広い畑でない為、生産者は当然限られる。セラファン、デュガピ、ブリュノ・クレールといった日本でも有名なドメーヌやネイジョンという無名ドメーヌも所有している。フォントニ所有者でも特に評価が高いのが、ジョゼフ・ロティ、セラファン、ブリュノ・クレールだとされている。


20.Mazy Chambertin 2012
 区画は僅か0.12haながら飛び抜けた高い品質を誇るグランクリュ。植樹は1920年。畑の両隣はカナダ人とスイス人が所有しているそうで、時代の流れを感じずにはいられない。新樽は約90%で、15〜16ヵ月熟成させる。ブラックチェリー、モカラズベリー、カカオ、カシス、牡丹、コーヒー、皮革、ミント、タバコ、メンソール、ミネラル、甘草、キルシュ、スミレ、ベラックベリー、シロップ漬けのベリー、ハーブ、ジビエ、石、土、燻製肉、そしていくつかのスパイスが加わり、とても複雑味溢れる豊かな香り立ち。甘みがあり、柔らかく緻密で繊細な造り。力強さと洗練されたミネラル感もしっかりとある。スケール感と華やかさとポテンシャルの高さは、やはり特別なもので、東京オリンピックに開けるのはまだ早いけど、どうしても飲みたい場合はデカンタしてみてねとピエール・ジャンは語っていた。

マジにはMazisとMazyの2種類の綴りがあるが、ロティはMazyの綴り。マジは特級畑郡の北端にあり、村落に一番近い畑で、大きく2つに分けられる。Les Mazis-HautsとLes Mazis-Basである。ロティのマジはマジ=バに位置する。

ジャスパー・モリスMW著 ブルゴーニュワイン大全によれば、2つの区画の違いは、マジ=バの表土が僅かに深く、ラヴォー小渓谷の沖積錐の影響(土壌組成と気温の両面で)を受ける事である。マジ=バではわずかに石を含む茶色い土がほとんどを占めている。表土の舌に横たわる基岩は、亀裂のある厚板状で、この亀裂を通って値が伸びている。マジ=オーは明らかに表土が少なく、リュショット・シャンベルタンに似ていると記載されている。


21.Griottes Chambertin 2012

 1919年植樹の稀少な畑。ピエール・ジャンの祖父シャルル・ロティが植えた思い出の畑。僅か0.08ha所有。100年近い古木から僅か1樽程度生産されるロティで最も入手困難なワイン。

ブラックチェリー、モカ、タバコ、スミレ、甘草、カシス、牡丹、ブラックベリー、ミント、ハーブ、土、なめし皮、スパイス、燻した肉などの複雑な香り。とてもバランスが良く、しなやかで、シームレスな造り。

ミネラリーでタンニンも溶け込みかけており、エキス分も豊富。しっとりとした質感はシルキーで、とてもエレガントなスタイル。飲み手を誰でも包み込んでくれるかのような寛大さを備えているが、若飲みできるようなワインではないので、十分な熟成を経てから楽しみたい珠玉の一本。

グリオットはシャルムとシャペルに挟まれていて、ジュヴレの特級の中では一番小さい僅か2.73haの畑。所有者はこのようになっていて、ロティはこの中でも最も所有面積が小さい。

Ponsot(Chézeaux)  0.89ha
Rene Leclerc(Chézeaux) 0.68ha
Joseph Drouhin 0.53ha
Fourrier 0.26ha
Claude Dugat 0.16ha
Marchand Frères 0.13ha
Joseph Roty 0.08ha
ジャスパーモリスMW著 ブルゴーニュワイン大全参照