*[Domaine des Accoles]

Domaine des Accoles
ドメーヌ・デ・ザコル
2014年10月21日 10:30
この日の訪問先はラルロで一躍、時の人となった天才醸造家オリヴィエ・ルリッシュ夫妻の手がける新ドメーヌ Domaine des Accoles(ドメーヌ・デ・ザコル)。創業当時から使用している醸造所で新ヴィンテージとなる2013年を試飲する事となった。


まずは仕込みを終えた2014年産について話してくれた。
2014年の収穫は8/25~9/27にかけて総勢15人で行われた。所有面積が20haながら収穫が1ヵ月にも及んだのはそれぞれの品種の成熟度を正確に見極めながら行われたからだという。収穫しながら、選別し、さらに選果台でさらに厳しく選果している。この作業は決して疎かにしてはならない、とても重要な作業だという。

いくら畑で完璧な仕事をしても、僅かな不良果が混入する事で、ワインのバランスが大きく損なわれるからだ。やるからにはとことん徹底するオリヴィエの性格が良く表れている。


オリヴィエ曰く2014年は、とてもいいワインができるだろうと、かなり期待しながら、収穫し、仕込むことができたそうだ。南仏独特のパワフルでリッチなワインではなく、彼が造りたいエレガントでフィネス溢れるワインになるだろうと声を弾ませながら、

とても嬉しそうに話していた。2014年産からABのビオ認証が取れ、2016~2017年にはビオディナミのデメテール認証も取れる予定だ。
ローヌなどのグレート・ヴィンテージとされる年はとてもリッチで力強いものだが、アルコール感も高く、フィネスやエレガントさはそれほど感じられない。

近年で言うなら2007年はローヌでは超が付くほどのグレートヴィンテージで、傑出した年のひとつに数えられるが、オリヴィエはあまり好きな年ではないそうだ。もっとフェミニンにエレガントな年の方が、ワインとしての奥深さが感じられると考えているからだ。南仏独自のリッチさよりも繊細さをこの土地で表現できるのは恐らく彼だけだろう。

2014年産は2週間前にプレスが終わり、マロラクティック発酵が始まっている段階で、あと数週間もすれば、どんな年になるか、はっきりと性格が出てきて、分かるようになるそうだ。果汁の段階だけでとてもいい状態だったので、とても楽しみにしているそうだ。


ラルロで彼の才能にいち早く気づき、その後、後継者として指名したオリヴィエの師匠でもあるジャン・ピエール・ド・スメとの交流は今でもあるそうで、前日にもテイスティングの為に訪問してきたそうだ。リタイヤ後は悠々自適にヨットでのんびりしているそうだが、収穫時には手伝いに来てくれるそうだ。弟子の目覚ましい成長をとても嬉しく思っている事だろう。

2013年産は澱引きを終え、落ち着かせている段階で、明後日には瓶詰を開始しようと考えていると話していた。ただ、今回のサンプルは澱引き前に抜き取ったもので、これは澱引き後だと落ち着くのに時間もかかり、濁りがない方が試飲には向く為だ。




1. Le Rendez-vous des Acolytes 2013
ル・ランデヴー・デ・ザコリット
IGP Ardèche

2012年から新たに加わったキュヴェでこのドメーヌで最もリーズナブルなワイン。100%グルナッシュから造られ、70%は全房発酵されている。グルナッシュの樹齢は10~20年程度。とても柔らかくジャミーな香りが印象的。2012年よりさらに洗練度が増している気がする。柔らかく良く熟した甘みがたっぷりとしなやかに感じられ、フィネスと適度なタンニンと酸がきっちりと備わっている。アコリットは友人の意味があるが、友人と気軽に飲んで楽しんでほしいと言うオリヴィエの想いが込められている。

2013年は収量的にかなり厳しい年となったようだ。30~35hl/haが理想だとオリヴィエは言っているが、並みのワインなど造る気がさらさらないオリヴィエは、最高の葡萄だけを得るために、選別をとことん厳しくしている。その結果、収量は大きく下がるが、品質重視なのだから、仕方ないと考えている。それでも2012年は不良果が少なかったおかげで29hl/ha採れたそうだ。2013年はJanasseでも言っていたが、クリュー(花ぶるい)があったせいで、花から実にならない樹が数多く発生し、僅か13hl/haとなったそうだ。実がなっても一房に僅か15粒程度しか身にならない房も多くあり、そこから不良果も取り除いたら、驚くほどの低収量となった。グルナッシュはクリューの影響を最も受けた品種で、グルナッシュの2013年産の収量は僅か7hl/haだった。

ドメーヌ全体では2012年は約37000本生産出来た。2013年は27000本生産されたそうだが、コーペラティヴにも売っているので、2012年に関して言えば、コーペラティヴ販売分も含めると約6万本分の生産量があったそうだ。2013年もドメーヌに見合わない品質のものはコーペラティヴに売却はされたが、全体量が少ないので、売却量もかなり少なかったようだ。

下記の写真のようなスカスカな房がかなりあり、収量が激減したようだ。ただ、風通しが良過ぎるぐらい良いからか、残ったブドウは驚くほど健全で凝縮感の高い果実が採れたそうだ。自然が摘房したような感じになったのが結果的に良かったのかもしれない。



2.Le Cab’ des Acolytes 2013

ル・カブ・デ・ザコリット
IGP Ardèche

Cabernet Sauvignon 85% 樹齢10年
Grenache 15% 樹齢40年

例年ならカベルネ80%、グルナッシュ20%で仕込まれるが、前述のようにグルナッシュが低収量だったので、カベルネが僅かに比率を上げた。50%は除梗されないまま全房発酵された。カベルネの持つがっしりとした骨格とスケール感にグルナッシュの洗練された円みと柔らかさが加わり、とてもいいバランスで融合している。洗練度が増し、完成度は前年からまた高くなっているように感じる。

ドメーヌには絶えず、新規取引の申し出が来ているそうだが、既存客だけでも量的に供給が難しい為、断らざるを得ない状況のようだ。また余りに手を広げすぎるのを好んでいない。単に流行り廃りで、扱ってもらうのではなく、じっくりと地道に販売してくれるパートナーと長く取引をしたいと考えているからだ。




3.Chapelle 2013
シャペル
IGP Ardèche
Grenache 42%, Carignan 27%
Syrah 23%, Cabernet Sauvignon 8%

シャペルという名は畑のあるSaint Marcel d'Ardecheの丘Saint Julienにある小さな石造りの教会に由来する。ラベルにもこの意匠が描かれており、ドメーヌにとってシンボリックなキュヴェのひとつだ。

例年なら60%はグルナッシュで構成されるが、収量が少なかった為、他の品種の比率を上げたそうだ。グルナッシュとカリニャンの樹齢は40年以上の古木で、とても上質でシルキーな果実が採れるようだ。

2013年産は80%の葡萄は除梗されないで全房で仕込まれた。収穫時の小箱ベースで換算すると2012年は約170ケース採れたのに対し、2013年は僅か19ケースしか採れなかった。とても貴重なキュヴェになるだろう。フィネスがあり、エレガントでとてもシルキーな印象。既においしく飲めるが熟成させるとさらに良くなるだろうと予感させてくれる。

シャペル周辺に地代を金銭で支払うフェルマージュで2.3ha程、新たに借りたそうだ。グルナッシュやシラー等の他にカリニャン・グリやクストン、クレレット・ブランシュなど面白い品種が植えられているそうで、新たなキュヴェの構想を膨らましているそうだ。
とりあえず、2014年産からカリニャン・グリを使った白ワインを造るそうだ。



モチーフとなったシャペルと糸杉

全ての葡萄の収穫は手摘みで、ラルロで行っていたように小箱に入れながら行われる。葡萄の自重で潰れたりしないようにする為だが、南仏でこの手法を取り入れているのは、少ないと言う。今でもそんな小さなケースで収穫するのは無駄なんじゃないかと言われたりもするが、これがとても重要な事なのだと教えを広げ、地域のワインの底上げが少しでも出来ればと願っている。

収穫後、醸造所まで保冷車を使用することなども色々と言われたりするそうだ。ビオディナミブルゴーニュでやり始めた時も同じような状況だったよと笑いながら話してくれた。小箱での収穫はブルゴーニュでは当たり前だが、そういった細かな事でも遅れている感はあるようだ。

ザコルの葡萄はとても綺麗で熟度も高く普通に食べてもおいしいので、噂を聞きつけた近所の人たちが買いたいと訪問者が絶えないそうだ。コーペラティヴに売却するような葡萄でもクオリティが高い為、とても好評だそうだ。生の葡萄だと食べられる期間も短い事から要望に応え、今年からブドウジュースも造り始めたそうだ。3.5€ユーロで販売されているそうで、ワインの試飲後に飲ませてもらった。

グルナッシュから造られるこのジュースは、とても甘く、シロップのように粘性が高い。サクランボなどの熟した赤果実の要素が感じられる。ロゼワインのようなジュース。185g/Lの蔗糖が添加されている。そのまま飲むものらしいが、個人的には炭酸などで割った方が飲みやすいと思う。ビオのグレープジュースなら日本でも需要があるのかもしれない。



4.Miocène 2013
ミオセヌ
IGP Ardèche
Grenache 70%, Carignan 30%。

キュヴェ名のミオセヌとは粘土石灰や化石のある地層に由来する。
このキュヴェは最初からブレンドした状態で熟成させるのに対して、シャペルは個々の品種をそれぞれ熟成させて最後にブレンドさせる手法を取っている。ただ2013年はシャペルの収量が少なかったので、ミオセヌ同様最初からブレンドして仕込んだそうだ。

共に50年を超える樹齢の樹からの葡萄が使われている。アンモナイトなどの化石が多く、粘土石灰質土壌でブルゴーニュと同じような恵まれた土壌からはとても高い品質の葡萄が生まれるようだ。
ワインは継ぎ目がなく、円みがあり、とてもエレガントでしなやか。黒果実の高い熟度と、香り高い洗練されたスパイスの要素が渾然一体となっている。フレッシュで、とてもミネラリー。しっかりとした核があり、無駄をそぎ落とした適度な肉厚さ、フルーティさと、エレガントさが絶妙なバランスの上で成り立っている。

グルナッシュにカリニャンが加わることで、フレッシュさとテンションをワインに与えるとオリヴィエが表現しているが、その狙い通り、ワインのスケール感がぐっと大きくなったようなニュアンスを感じることが出来る。石灰の多い土壌の為かミネラル感が強く感じられる。どことなくブルゴーニュを思わせるエレガントなワイン。

NYにあるミシュラン三ツ星レストランELEVEN MADIOSON PARKには、シャペルとミオセヌの2011年産がオンリストされている。とても好評でもっと売って欲しいとソムリエから依頼があるそうだ。ここは世界でトップ5に入るだろうと言われている有名なレストラン。その他にも多数の星付レストランなどにオンリストされているそうだ。いつ開けても楽しめ、万人に受け入れやすい味わいが評価されているのだろう。
ELEVEN MADIOSON PARK
OFFICIAL HP http://elevenmadisonpark.com/
WINE LIST https://www.binwise.com/print/WineList_PDF.aspx?ListId=210&LocationID=120



5.Gryphe 2013
グリフ
IGP Ardèche


100% カリニャン。樹齢50〜60年。
グリフとは牡蠣の殻を含んだ化石群の総称。ドメーヌではカリニャンのパーセルによく見られる特別な土壌だ。ラルロ同様に除梗されないで全房のまま仕込まれた。
果実の凝縮感とタンニンがとてもしっかりしている。フレッシュさが消えないよう、収穫を他の生産者よりも早く行っているそうだ。葡萄がきゅっと引き締まった状態で収穫を始める事が重要だと考えていて、この地方一帯ではもっと糖度が上がった酸度も低くなった状態で収穫されるので、もたっとした重いワインができてしまうのだという。そういったワインは一口目のインパクトこそあるかもしれないが、飲み飽きるし、バランスを崩しやすく、熟成させるほど長く持たない。いいワインとは酸度、タンニン、果実味の熟度などの要素がどれも高いレベルで備わっているもので、そういったワインは若くても飲めるとオリヴィエは考えている。
いつ開けてもおいしく飲めるワインこそが良いワインだとオリヴィエは常に言っている。その理想を叶えたのが彼の造るワイン達だ。




6. Le Rosé des Acolytes 2013
ル・ロゼ・デ・ザコリット
IGP Ardèche


例年通りGrenache 50%, Cabernet Sauvignon 50%で造られている。5月には瓶詰が完了していたそうだ。1/3は樽熟しているので、樽の要素が程よく溶け込み、しっかりとしたタンニンもあるので、赤ワインのような重厚なロゼに仕上がっている。杏、ミラベル、サクランボなどの香りが印象的。ドライでしっかりしていながら、フルーティさも備わっているので、レストランなどでとても良く売れるそうだ。前年まではVin de Franceの表記だったが、2013年産からは他のキュヴェ同様にIGP Ardècheとなった。別に造りなどが変わった訳でもなく、法改正によるただの変更のようだ。




7.Les 4 Faisses 2013
レ・カト・ファイス
IGP Ardèche


ラルロでも定評の高かったChardonnayから生まれるキュヴェ。7月に瓶詰が完了している。ラルロと全く同じ造りをしているそうだ。このワインだけでなく、全てのキュヴェにラルロの古樽が使われている。

シャルドネのある区画の土壌自体がリッチなので、バトナージュ(撹拌)すると酒質がもっと強くなってしまうそうだ。その為、オリヴィエはバトナージュをしない。ラルロでも2003年からバトナージュを行っていない。彼の経験がここでも十二分に生かされている。
ハチミツ、白い花、ナッツ、ハーブなどの香りが複雑に絡み合う。粘性も高く、ミネラリーで透き通るような清涼感が口いっぱいに広がる。輪郭もくっきりしていて、適度で伸びのある酸がとてもいい。2013年はフレッシュな酸味をキープしたかったので、収穫を少し早めたそうだ。その為なのか、2012年産よりも酸がシャープでキレがいい。
葡萄の樹の剪定を2012年からブルゴーニュと同じギュイヨ(Guyot)仕立てに変更したことが大きな変化をもたらせたという。2012年産ではそれほど味わいに大きな変化はなかったが、樹が安定した2013年産からシャルドネの正確な個性が引き出されているようだ。品種ごとに個性がある為、剪定はその品種に合わせたものがよいのだという。2013年産はまた一皮むけたエレガントさが光る素晴らしいキュヴェに仕上がっている。
オリヴィエは毎年、生育状況を見る為に、少なくとも1000粒以上の葡萄を食べるそうだ。ブドウダイエットのようだよと笑う。ワインは味わうものなので、自分の舌で確かめるのが、一番重要なんだよと語っていた。
最近では成分分析を重視している生産者がいるが、PHやアルコールなどの様々な数値が全く同じワインでも味わいは全く異なる。官能的な部分は数値には現れないから、自分の舌を信じるしかない。だから面白いんだよとオリヴィエは言う。

ブルゴーニュへは車で3時間程度の為、友人を訪ねに今も良く言っているそうだ。ラルロはもちろん、ダヴィッド・デュバン、コンフュロン、フーリエ達とは今も仲良しで、互いのワインを飲みながら意見交換などしているそうだ。前日にも日帰りでブルゴーニュに行っていたそうだ。

彼のワインはブルゴーニュ的だとよく言われるが、オリヴィエ自身、ブルゴーニュワインを造りたいならブルゴーニュで造るだろう。彼ほどの腕があれば、どんな一流ドメーヌでも欲しがるのだから。

ただ彼が造りたいのはこれまで誰も造ってこなかった新しいワインだったのだと思う。その答えがドメーヌ・デ・ザコルなのだ。

ブルゴーニュボルドーのように長い時間熟成させてから飲むグランヴァンよりも、若い内から楽しめ、熟成の変化にも対応できる。そして何より幅広い層が、気軽に楽しむ事が出来るリーズナブルさ、コストパフォーマンスの高さは、他を圧倒する。ただひたすらにおいしいワインを造りたいという情熱が彼の言葉の端々からはっきりと感じられるだけで、ここに来た意味があると強く感じながら試飲を終えた。