Domaine Joseph Roty & Philippe Roty

出迎えてくれたのはフィリップ・ロティ氏。人懐っこく、まだあどけなさの残る顔立ちで、とても40を過ぎているようには見えないが、偉大なドメーヌの当主としての風格にはますます磨きがかかっているようだ。


彼の娘は17歳になり、現在は商業と醸造を学びながら、ボワセでパートタイムで働いているそうだ。ボワセではクレマン・ド・ブルゴーニュを売っているらしい。その下の娘は12歳で彼女は栽培家になりたいのだそうだ。「父親の仕事を継いでみたいと考えている事自体が幸せなことだよ」と、彼は笑う。


1週間前にInternational Wine Cellarのスティーブン・タンザー氏がテイスティングに来ていたそうだ。彼のワインには世界中が注目している。そのタンザーが座ったであろう椅子に座りながらテイスティング



1.Bourgogne Aligote 2008
(Philippe Roty Label 以下 Ph.Roty)
4月に瓶詰。熟度と酸のバランスが良く、ハニー、マール、クリームなどの甘い香りが印象的。



2.Bourgogne Blanc 2008
Marsannyの下にある区画Chanfonnetの428mの長さの畝を1列だけ所有している。2008年は1990年植樹のPinot Blanc 90%とChardonnay 10%の比率。酸もきっちりと感じられ、すっきりとした味わいは様々な料理に合わせられるスタイル。きれいなミネラル感と熟度を備えた果実味は抜群のコストパフォーマンス。



3.Marsannay Blanc 2008
1993年と1996年植樹のChardonnayでミネラル感に溢れ、シトラス、白い花など華やかな香りが果実味に溶け込んでいて、とても好印象。



4.Marsannay Rose 2008
ロゼのアペラシオンの3つの区画から産出する。このアペラシオンからでもACブルゴーニュ・ルージュとしてリリースが出来るそうだが、ドメーヌではあくまでここはロゼ用だとして、それだけをリリースする。余った葡萄はネゴスに売却する。ロゼながら、赤ワインのような力強い果実味には毎回驚いてしまう。20樽のみ造られ、アルコール度数は13度もある試す価値十分のロゼ。バーベキューやアペリティフにも最適で、個人客が好んで買っていくのがこのワインだそうだ。



5.Bourgogne Grands Ordinaire 2008
100% Pinot Noirらしいエレガントな凝縮感。樹齢は30年を超えており、同名ワインには考えられない深みのある味わいが持ち味。

夏頃のニュースで新たなAOCが誕生するというニュースがあった。ブルゴーニュAOC制度の一部が変化し、「コトー・ブルギニョン」と「ブルゴーニュ・コート・ドール」というAOCが誕生するというものだ。 INAO(国立原産地・品質研究所)が、ブルゴーニュの生産者の要請を受けて認可した。強い反対がなければ、数か月以内に農業大臣が承認するというもので、コトー・ブルギニョンは、生産量の少ない「ブルゴーニュ・グラン・オルディネール」を響きの良い名称に改称する方向で動いているようだ。



6.Bourgogne Pinot Noir "Cuvée de Presonniere" 2008
樹齢35年がメインだが、一部区画は60年を超えるものもあるという。質感もきめ細かく落ち着いた果実味で、しなやかさとエレガントさが際立つACブルゴーニュ

94年まではジュヴレ・シャンベルタンを名乗っていた区画で法改正によって格下げされたが、品質は明らかにジュヴレそのもの。彼は世界的な需要の高さを感じ、現在の区画に接する1/3haの畑を新たに買い足したそうだ。

2008年は長熟型のワインになるだろうとフィリップ氏。2008年はヴィニュロンによってはっきりと差が出るワインになるだろうと語る。



7.Marsannay Rouge 2008
樹齢30〜60年。甘みもあり、タンニンも果実に溶け込んでいてとてもバランスが良い。現在、マルサネ村にはプルミエ・クリュはないが今後いくつかの畑が本当に昇格するかもしれないと話していた。彼の所有するQuartierもその候補のひとつだ。



8.Marsannay Rouge "Quartier" 2008 (Ph.Roty)
前出のACマルサネよりもタンニンがしっかりとした印象。女性的で繊細なニュアンスをかもし出すのがこのキュヴェの特長。樹齢50年の樹々はFixinから50mの所に位置し、石灰がとても多い土壌。
マルサネの持つ可能性と高い品質に彼は絶対的な自信を持っている。2011年産からは新たにLongeroies(ロンジェロワ)というキュヴェを増やすそうだ。ここではいいPinot Finが手に入るとの事。


9.Marsannay "Cuvée Champs St.Etienne" 2008 (Ph.R)

年産約4000本だが、ドメーヌとしては半数をリリースし、残りはネゴスに売却している。
彼の父であるジョセフ・ロティの代の1995年から借りている畑で、その昔ブルゴーニュのデュックという王が西暦680年からこの畑を所有していた。
赤く鉄分の多い特徴的な畑で平べったい石が多い。この畑は7列だけ他の生産者が所有している為、単独所有ではないがもちろんそこを購入することが出来ればモノポールを名乗ることが出来る。
ジビエと是非合わせてみたい重厚感のある味わい。



10.Marsannay "Cuvée En Ouzelois" 2008
樹齢80年。年産2700本。マルサネのワインはどのアペラシオンと比べても一番ジビエに合わせやすいとフィリップは語る。それは鳥獣類を思わせる要素がワインにあり、それがさらなる複雑味と深みを与えているからに他ならない。



11.Marsannay "Cuvée Boivin" 2008
植樹されたのは1936年と古く、70年を超える樹からは緻密で繊細かつ純粋な果汁が生まれる。年産1000本程度で、国内外の高い需要に到底応えられるものではない。純粋で熟した果実味とミネラル感、芯の通ったがっしりとした骨格はMarsannayの最高峰という枠には収まりきらない。名ばかりのプルミエクリュよりもはるかに高い満足度を得ることが出来る隠れた名品。

機械好きのフィリップはこれまで様々な最新機器を購入してきた。DRCと同じバッスラン社製のプレス機や、除梗装置等は、人の手による仕事よりもさらに効率が良く、かつ完璧な結果をもたらせてくれると感じているそうだ。人は時間が経てば疲れて集中力を失うが、機械はメンテナンスさえしっかり行えば、パフォーマンスは落ちないからだ。

プレス機は種を潰さない非常に細かな設定ができる為、余計なものまで抽出されることはない。これはとても重要なことだ。また除梗装置は従来の茎がついたまま除梗するのではなく、最初に茎を抜き取ってからゆっくりと除梗する為、余計な青さがさらになくなった。これで純粋な果汁を得る事ができるのだ。

そこへ新たにトラクターを購入したそうだ。Bobard(ボバール)社製のもので9万ユーロもしたそうだ。BobardはBeauneに拠点を置く会社で、多くの有名な生産者がBobardを使っている。その他の大手の製品もあるが、頻繁に故障する上、高いので生産者の受けは良くないそうだ。ちなみにフィリップの愛車は日産とマツダでこれまで故障知らず。「やっぱり車は日本車がいいよ」と、笑う。

当然ながら畑での作業も重視する。彼らはエフィヤージュ(摘葉)やエクレルシサージュ(摘果)などを細かく行うことで健全な果実を得ることに、神経を使っている。当然、収穫は全て手で行う。以前は収穫以外はなるべく家族のみで行うようにしていたが、より細かく丁寧に管理する為に現在4人のスタッフを雇っているそうだ。体つきがよく、真面目な人でないとこの仕事は厳しいと彼は言う。

醸造は伝統的なブルギニヨンスタイル。上面開放されたタンクで温度管理を徹底し、ピジャージュは手で行う。醗酵は約3週間。
樽熟は約18ヶ月、グランクリュを除けば、通常50%新樽で、残りは1年樽を使用するのが基本。樽熟の期間が他のドメーヌより長い為にリリースが遅くなる。毎年リリースされるのが1月頃で、船積みと船旅、出荷体制が整うのは3月頃となる。樽はフレンチオークの最上とされるトロンセ産とヴォージュ産を併用している。清澄や濾過は一切しない。



12.Marsannay "Cuvée Clos de Jeu" 2008
樹齢70年。年産900本。フィリップがマルサネのグラン・クリュだと評するキュヴェ。現段階ではタンニンはやや乾いていて、香りも開いていないが、その素晴らしさの片鱗ははっきりととらえることができる。凝縮度は高く、複雑味もたっぷり。スパイシーさとミネラル感、メリハリのある味わいの奥深さ。そのどれもが一流の品質。



13.Côtes de Nuits Villages 2008 (Ph.Roty)
樹齢50年。年産1500本。フィリップの家の周りにある畑で、一番手間をかけやすい畑だという。ジュヴレ・シャンベルタンのエボセルとFixinのプルミエクリュに隣接しているニシンのシッポと呼ばれる区画から産する。果実とミネラル感はプルミエ・クリュのような出来栄え。しなやかで焦点が定まった味わいは抜群のコストパフォーマンスを持つ。



14.Gevrey Chambertin 2008
樹齢25年。年産3000本。ジュヴレらしいタンニンがきっちりと感じられ、熟度も高い。継ぎ目のないシルキーなスタイル。この畑はジュヴレ村のシャルロパンではなく、マルサネの故ジャン・シャルロパンから買った畑。実はマルサネ・カルティエはこの一族から借りている畑だそうだ。



15.Gevrey Chambertin "Cuvée Champs-Cheny" 2008
樹齢40〜80年。年産3000本。Charmes Chambertinと地続きの恵まれた区画。とても濃密で果実味がぎっしりとつまった印象のワイン。バラ、スミレなどのフローラルな香りと、ヨードやハーブなどの香りがうまく果実味に溶け込んでいる。前出のACジュヴレもいいワインだが、スケール感の違いははっきりと感じることが出来る。品がよく、きれいな香りと果実味を持つこのワインは美しいワインという表現がぴったりと当てはまる。



16.Gevrey Chambertin "Cuvée Champs-Cheny V.V" 2008(Ph.Roty)
樹齢76年。年産1500本。所有面積は0.25ha。初めてリリースされたのは2002年。CharmesとMazoyeresに隣接する部分で、特に良質な古樹の区画。多くの石や石灰岩を含む土壌。同じ畑の前出のChamps-Chenyは樹齢が40〜70年である為、この特別の区画を別名義であえてリリースすることにした。



17.Gevrey Chambertin "Cuvée de la Brunelle" 2008


樹齢50年。テイスティングしているセラーのすぐ裏にある畑で、窓から畑仕事の様子がよく見える場所にある。甘く繊細な果実味がアタックから広がり、とても大らかな印象のワイン。香り立ちがよく黒果実の鼻腔をくすぐる華やかな香りが特長。



18.Gevrey Chambertin Cuvée de Clos Prieur Bas 2008
樹齢30年。Clos Prieur(Hautes)はプルミエ・クリュでClos Prieur Basは村名ワインとなる。黒い熟した果実とミネラルの風味がとてもバランスよく液体に溶け込んでいる。酸も程よく、うまみがぎっしり詰まっている。



19.Gevrey Chambertin 1er Cru "Les Fontenys" 2008
樹齢40〜80年。年産2500本。所有面積0.4ha。Mazis Chambertin上部、Ruchottes Chambertinの横にある区画。濃密でエレガントなスタイル。バランスの取れた秀作で、果実の凝縮感とミネラル感はこれまでのものよりさらにハイレベル。



20.Mazy-Chambertin 2008
樹齢90年。年産600本。所有面積は0.15ha。
収穫はほぼ最後に行った。グラン・クリュは100%新樽で熟成される。現時点ではややタンニンの硬さが感じられるが、スケール感ははっきりと感じ取れる。



21.Griottes Chambertin 2008
樹齢90年。年産500本。所有面積0.1ha。
現時点ではMazyより柔らかく、熟した甘い果実味を感じやすい。ブラックチェリー、燻した肉、カシス、フランボワーズなどが熟した豊かな香り立ちにスミレ、バラなどのフローラルの香りがうまく溶け込んでいる。大らかなスタイルで長く洗練された余韻はどのワインよりも秀でている。



22.Charmes Chambertin "Tres Vieille Vignes" 2008
樹齢126年。とてもやわらかくかつ濃密なエキス分が魅力的。フィネス溢れる見事としか言い様がない素晴らしい造り。2005年に色合いは似ているが、より多くの要素はあるようだ。1週間前にインターナショナルワインセラーのスティーブン・タンザーが来た際に、このワインを褒めちぎっていたそうだ。彼が言うにはCharmesの上にあるChambertinから雨で土やそれに伴う様々ないい要素が彼の区画へ流れているのではないかと笑いながら分析したようだ。Chambertinの品質をはるかに超えた傑出したワインなのだ。胸が高鳴る素晴らしい味わいを持っている。このワインを手に入れることが出来る幸運な人は極僅かなのだ。

ご存知のようにこのドメーヌはGevrey Chambertinでも特に古い歴史を持つドメーヌ。

家名は1610年まで、ドメーヌの歴史は1817年まで遡る。1610年といえば、ガリレオ・ガリレイ木星を観測し、月以外の衛星をはじめて発見した年である。ルモワスネのGivryのキュヴェ名にもなった(Le Prefere du Roi HENRI 4:アンリ4世のお気に入り)ブルボン朝フランス国王アンリ4世が死去した年でもある。

歴史あるドメーヌだけに樹齢の古い樹が今も大事に受け継がれている。このドメーヌの最高峰ワインであるCharmes Chambertinに至っては、前にも述べたように樹齢は125年以上と他を圧倒する樹齢だ。ひとつの世界遺産といっても過言ではない。当然、それらは若樹には見られないほど地中深くに根を張り、様々な要素を引き上げ葡萄の実に与えている。

先代ジョセフ・ロティが惜しまれつつも、この世を去ったのは2008年のこと。亡くなる何年も前から体調を崩していたので、今世紀に変わる頃には既にフィリップはドメーヌを任されていた。彼はその偉大な父の築いた名声を少しも落とすことなく、自らの力でさらに引き上げている。これはとても大変なことだ。恵まれた土地と才能はあるにせよ、それだけでは人を感動させるワインは造れない。彼はそれに驕る事無く、精進し、自分の進むべき道を、わき目も振らずに邁進したのだろう。
そんな彼と受け継がれた畑がある限り、このドメーヌの未来はひたすら明るいのだ。残念ながら彼の父が口にすることは出来なかった2008年のワインだが、その出来の素晴らしさに父ジョセフは天国できっと微笑んでいるに違いない。