[Domaine Comtes Georges de Vogüe]

ドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ
8月30日(木) 10:00 今にも降り出しそうな、曇り空。気温は20度程度。人の気配を感じない、しんと静まり返ったドメーヌの中から出迎えてくれたのはフランソワ・ミレ氏。いつものようにセラーに降りてテイスティングするかと思っていたら、セラーの奥に見慣れない空間が新たに出来ていた。彼はやや得意気にそこへ案内してくれた。ボトルスペースが限界に近づいたのでドメーヌ前の駐車スペースの地下に新たにセラーを新設したそうだ。地下から掘り進めるのではなく、地上から必要分を掘り、その後にセラーの型枠を上から設置し、また埋め戻すという、昔からある工法で造ったそうだ。硬い岩盤があったのでダイヤモンドカッターを用いるなど大変だったそうだが、8カ月で完成したそうだ。



新設されたスペース



樽を寝かせるスペースとボトルストックのスペースがそれぞれあり、「しばらくはこれで大丈夫、やっと長年の悩みの種が解消されたよ。」と、いつになく上機嫌で話してくれた。
今回は来年リリース予定の2011年産をリリース。7月にマロラクティック発酵が終わったばかりで、少し澱引きした状態。今は休ませている段階だ。ワインは全て樽から試飲することとなった。


新設されたボトルストックスペース



1.Chambolle Musigny 2011
 2011年の春はとても暑かったそうだ。その為、彼はとても心配していたそうだ。何故なら暑い春は開花を早めるからだ。彼はこの時、収穫は8月中旬になるのではないかと思ったそうだ。ただ8月は思ったよりも涼しい気候が続き、スローダウンした。最終的に収穫を開始したのは8月31日と驚くほどではなかったそうだ。涼しい夏のおかげで、ワインはミネラリテとフレッシュ感がしっかりとあり、テロワールの個性がはっきりとしたワインになるだろうとの事。現時点では香りは閉じているが、フルーツ味が出ていて、酸もしっかりとあり、高い品質を備えているようだ。ミレ氏曰く、フルーツ自体ではなく、フルーツゼリーのような分かり易く飲みやすい味わいのワインになるだろうと評している。彼独特の表現では4時ごろに食べるおやつみたいなニュアンスとも評していた。フローラルの柔らかで女性的な香りで、午後に可憐に咲く花のようにも例えていた。とにかくフルーツのバランスがいいのが2011年の特徴のようだ。果実の赤味はフレッシュさとミネラリテ、黒味は深みと女性的なニュアンスをもたらすが、それらの均整が取れたいい葡萄が取れたようだ。


フランソワ・ミレ氏


2.Chambolle Musigny 1er Cru 2011
 良く知られている事だが、Musignyの若木から造られるキュヴェ。樹齢は20年ぐらいとMusigny VVとするのにはまだ若いそうだ。色は輝きのあるルビーでとてもミネラル感を感じる。彼曰く、湖の底が見えるほどの透明感のあり、とても正直ではっきりとしていて、人間で例えるなら若い男性だろうとの事。とても静かで、何の音もない無垢な世界観が感じられる。これも赤と黒果実のバランスがいい。深紅のバラにフランボワーズ、ザクロ、カシスにフルーツゼリーなどの香りにいくつかのスパイスがブレンドされているかのようだ。
ザクロ(石榴)は日本語だが、これはミレ氏の口から直接出た言葉。フランス語ではGrenade(グレナーデ)という。カクテルに使われるグレナデンシロップはザクロの果汁と砂糖からなるノン・アルコールの赤いシロップ。彼はフランス語のGrenadeだと日本人は馴染みがなく、イメージが涌きづらいだろうと、辞書を引いて調べたそうだ。いかにも勤勉な彼らしいエピソード。



3.Chambolle Musigny 1er Cru Les Amoureuses 2011 
ミレ氏曰く、ドメーヌのファーストレディ。石灰質土壌のおかげでミネラル感に富み、深く奥行きがあり、果実の甘みを素直に感じやすい。他の畑よりもミネラル感とフレッシュ感が優っている。収穫の初日である8月31日に収穫されたそうだ。例年は9月中旬なので、いかに熟すのが早かったかが分かる。夏がもっと暑ければさらに早い収穫になっただろうと彼は言う。花が咲いてから収穫まで100日というが、その通りだったそうだ。ちなみに猛暑で知られる2003年は90日で収穫となったそうだ。ワインはザクロ、フランボワーズ、ブラックベリー、胡椒などのスパイスの香りが印象的。カシスはストラクチャーのあるワインに良く見られる香りだが、このワインにはカシスの香りはあまりしない。柔らかくエレガントなワインにはカシスの要素はないからだ。もし、アムルーズにカシスの要素があれば、ワインはもっと重い印象のワインになるだろう。

4.Bonnnes Mares 2011
色は紫に近い黒みがかったボンヌマールらしい色合い。赤と黒いサクランボ、ブルーベリーの香りがまず感じられる。ブルーベリーもまたストラクチャーのあるワインから感じられる要素のひとつだ。花の香りではスミレ、牡丹、百合など強い香りを放つ花に例える事ができる。赤土の土壌でミネラル感は強く感じない。ミネラルではなく、ストラクチャーのワイン。



5.Musigny V.V 2011
 輝きのある透き通ったルビー色。密度が濃くアムルーズと共通したザクロやフランボワーズの香りにカシスの香りが加わって重みが感じられる。甘みも十分にあり、余韻に石灰のニュアンスを感じる事ができる。

ミュジニーは少なくとも10年〜15年は寝かせた方が本当の姿を見せてくれるそうだ。ミレ氏は1987年が一番飲み頃になってきていると言う。

畑の地図を見ながら、VogueのMusignyと他の生産者との畑の土壌の違いを話してくれた。VogueはMusigny10.7haのうち、7.2haもの区画を所有している最大の所有者だが、他の生産者とは異なる土壌なのだそうだ。Vogueは赤土土壌だが、クリストフ・ルーミエ、J.F.ミュニエ等の他の所有者の土壌は白土なのだそうだ。ほんのわずかだが、それがキャラクターとなってワインに現れているそうだ。赤土土壌は気楽でジューシーな果実味のワインが出来るのに対し、白土土壌の場合、色は透き通っていて、やや強いミネラル感がワインに出てくるそうだ。地図上では分からない違いを、とてもうれしそうに語ってくれた。この日は機嫌が寄ったのか、試飲途中でも、これまでにないぐらい笑顔を見せていたミレ氏だった。