Domaine Comte Georges de Vogüe

出迎えてくれたのは醸造責任者のフランソワ・ミレ氏。ドメーヌのカーヴで早速2009年を試飲することとなった。

1.Chambolle Musigny 2009
2009年はとても素晴らしい年で、アプローチが良く、分かり易い年だと分析するミレ氏。春は暑く、例年に比べても、花は早く咲いたそうだ。安定的に気候にも恵まれ、夏も暑さは続いた。収穫は例年よりも早い、9月9日。収穫時は暑苦しくもない、とてもいい暑さだったそうだ。猛暑だと必要な酸までもがなくなり、ただ大柄なワインが出来てしまうが、まだ程よいフレッシュさがあるうちに収穫することが出来たと振り返る。フルーツのクリームのような香りが、とても印象的で、タンニンは角がなく、果実味にきれいに溶け込んでいる。フレッシュでミネラル感をしっかりと感じることができる。フローラルのフレッシュな香りが主体で、牡丹やヴィオレットのエレガントな要素が現れている。ナチュラルさと繊細さが分かり易いのも特長的だ。
ミレ氏は彼独特の詩的な表現で、このワインをこう評した。夏のテラスに座っている。目の前に広がるのは美しい湖。その湖から気持ちがいい風が吹いている。

2.Chambolle Musigny 1er Cru 2009
樹齢10〜25年のMusignyから全てが造られる。(所有するMusignyの40%は未だ若樹)実際にリリースされるのはChambolle Musigny 1er Cruとしてだが、ミレ氏はこれをMusigny J.Vと説明している。人はこれをデクラッセ(格落ち)と表しているが、この言葉は1970年代によく使われた古い言葉で、我々はこれをルプリエ(後ろに下がる)と呼んでいるんだよと答えてくれた。ちなみにMusignyの一番古い区画が植樹されたのは1952年だ。
Chambolle Musigny 1er Cru(Les Fuées、Les Baudes)も所有しているが、このキュヴェにはブレンドされない。

それらの若樹から出来た葡萄は全て村名にブレンドされる。村名とこのキュヴェは実際のラベルより、ひとつ上のクラスのワインで構成されているのだ。この辺りが、他の生産者とは大きく異なる点だ。
牡丹、ミネラルを強く感じる。前出の村名に比べると、現時点ではタンニンは硬く、やや乾いている。ただ熟度も酸もしっかりとあり、清らかでエレガントな余韻は秀逸だ。
村名よりもさらにフレッシュさを感じる。それにつられるように果実のエキス分を感じる。フレッシュさもフルーツに負けないバランスを持っていて、フィニッシュに蜂蜜のような甘さが残る。夏の太陽のイメージがそのままワインになったかのようだ。
テラスから湖の方へ歩き出したぐらいだとミレ氏はこのワインを表現している。



3.Chambolle Musigny 1er Cru Les Amoureuses 2009
高い熟度と、伸びのあるしっかりとした酸、そしてきれいに液体に溶け込んだやわらかなタンニン。煮詰めたフルーツのような風味は、どのワインにも共通してある要素だが、それがとてもきれいに現れている。またフレッシュさとミネラル感をしっかりと感じることが出来る。ミレ氏はこのワインを穏やかで鏡のように波のない湖だと表現する。そして Amoureuses はChambolle Musignyの紛れもないファーストレディで、彼女はMusignyと結婚しているのだとも彼は語っていた。

4.Bonne Mares 2009
Bonne Maresの中でも北の区画を所有している。石灰が多い土壌で、Chambertinと良く似ている。Gevrey Chambertin村やMorey St. Denis村の色合いに近く、とても濃い。とても野生的でChambertinの従兄弟ぐらい性格が似ている感じとミレ氏は分析する。
Bonne Maresの方がMusignyよりも例年早く熟すが、この年は同時期に熟した。葡萄の皮が熟しているほどブルーベリーの香りが主体的になり、熟していないとサクランボの香りが主体となる。多くの要素を得るにはそれらを同時に得る収穫のタイミングが重要だ。
ブラックチェリーを中心とした熟した黒いフルーツと牡丹、ヴィオレットの香りがとても印象的。ストラクチャーのとてもしっかりしたワイン。このストラクチャーはブルーベリーなどの熟した甘いフルーツの風味から来ている。ブルーベリーは甘みはあるが、タンニンが強い果実でもある。ただとても熟度が高いので、タンニンもとても熟している。がっしりとして歯につくようなタンニンではなく、甘く熟したタンニンはこの年の特長でもある。



5.Musigny 2009
煌きのあるルビーレッド。柔らかく甘い果実味で余韻はひたすら長い。甘みだけなら同年の他の生産者の代表的なキュヴェよりは強くない。香りはフランボワーズ、赤いバラ、カシス、スパイスが見事に混ざり合っている。Les Amoureusesと良く似ているスタイル。
2009年は樽から試飲しても分かり易いことが特長のひとつでもある。ポテンシャルはまだ隠れているが、繊細で複雑な要素はしっかりと感じることができる。

2009年は、これまでと比べて、どの年に似ているかの問いには、2009年は2009年に似ているんだよと珍しくいたずらっぽく笑っていたのが印象的だった。
2009年は口にするだけでほっとする特別な年なのだという。

Bourgogne Blancは試飲できるタイミングではなかったので、ミレ氏がコメントしてくれた。
梨の香り、シトラス、アカシア、菩提樹、フローラルな香りが良く出ている。ナーバスではなくこれもほっとするような果実味と酸を備えたいいワインだよと語る。

普段はどんなワインを飲むのか尋ねると、ワインは毎日かかさず飲んでいるそうだ。もちろん、ブルゴーニュの他の生産者も飲んでいるそうだが、オレゴンなどもお気に入りのひとつなのだという。


              
2009年は前評判以上の素晴らしい出来だ。品質は期待をはるかに超え、今後ブルゴーニュワインを語る上でも確実に語り草になることは間違いない。
恵まれた天候によって育まれた熟度の高い葡萄はタンニンの角がなく、とても凝縮した果実味がきれいに現れている。その熟度と酸のバランスを如何に見極め収穫したかで、その出来は大きく異なるといってもいい。幸い、今回訪問した中ではどの生産者も見事に酸と果実味をコントロールしていた。入荷がとても待ち遠しくてならない。


               

訪問した11月の第3週と言えば、Beaujolais Nouveauが解禁される週だ。

さぞNouveau解禁を祝うお祭り気分に街は包まれているのかと思いきや、あまりの落ち着きぶりに拍子抜けしてしまった。

解禁前はもちろん、解禁後もワインショップで大々的に告知やセールをしている所は目に付く限りでは皆無だった。扱っていても細々と置いてあるだけのところが多かったのだ。

ある生産者が、解禁日に客先のショップに自分のワインを納品した際、店主にNouveauを買いたいと尋ねたが、驚くことに彼の納品先では、どこも扱ってさえいなかったと驚きを交えて話してくれた。

彼の話では、ずいぶんと前からBeaujolais Nouveauの人気は下降線をたどっていたが、Beauneではここ10年ぐらいで急速に需要がなくなってきたそうだ。

そこにはBourgogneという土地柄、Beaujolaisを低く見ているところも、やはりあるようで、少なからずともそれも影響を与えているのだろう。対照的にPARISのショップでは賑やかに売り出されていた。

日本はピーク時に比べれば、さすがに減ってはいるが、そこまでは深刻ではない。輸入量は未だ他国を圧倒しているし、これからも大きな市場であることに変わりはない。多彩な品揃えも日本ならではだ。

それは四季の移ろいを愛で、フランス以上とも言える豊かな食文化と、初物を好む国民性が、ヌーヴォーに関してはフランス人よりも合っているからかもしれない。

Bourgogne中心街であるBeauneはBeaujolais Nouveauよりも、週末のHOSPICES DE BEAUNEへ向けての盛り上がりが顕著だった。Beaujolaisに比べれば、地元だから当たり前なのだろう。週末は国内外から多くの訪問者を迎え、そこからBourgogneは本格的な冬が始まるのだ。