Domaine Andre Bonhomme

出迎えてくれたのは当主のエリック・パルテ氏。彼の長男オレリアンは26歳となりドメーヌでは醸造の全てを任せられる程にまで逞しく成長したそうだ。その弟ジョアンは19歳で、彼は栽培に興味があるそう。今後は南アなどフランス以外の国でも学びたいと考えているそうだ。父エリック・パルテは大好きな畑仕事と息子の醸造を見守っているそうだ。残念ながら、オレリアンはこの日、ランスのフェアに参加していたので不在だった。ちなみにアンドレ・ボノームは78歳になったそうだ。

リノベーションしてできた新しい立派なテイスティングルームで試飲をした。

1.Viré Clessé V.V 2007
既に入荷済のワイン。酸のしまった感じとすっきりとした果実味、ミネラル感とのバランスがとてもいい状態にある。ドライな年だが、きっちりと造られている。実はエリック・パルテが最後に手がけた年となった。2008年から醸造は長男オレリアンが全てを担ったからだ。



2.Viré Clessé V.V 2008 (瓶)
長男オレリアンの記念すべきファースト・ヴィンテージ。2007年と比べると香りの要素が増して華やかな印象。繊細さとフルーツ味溢れる味わい。2008年からこれまで使っていたコルクよりもさらに長く質のいいものに変えたそうだ。エリック・パルテ氏は2009年より2008年の方がグレートな年だととらえているようだ。ミネラルと酸、果実味どれもが申し分のないレベルの葡萄がとれたからだ。

実は2007年からオレリアンは試験的にワインを造っていた。前回の訪問時に100%新樽の新しいキュヴェを実験的に造っていると聞いていたが、我が息子ながらそのワインの出来のよさと仕事ぶりにとても驚いたそうだ。
これで彼に全てを任せてもいいと考えたのだろう。
この新しいキュヴェは100%新樽で通常樽ではなく大樽で熟成させた。大きい分、過度に樽の要素がワインに影響を与えないので双方の良さがでるのだとオルレアンは考えているそうだ。またフレンチオークではなく、アメリカン・オークが使用されている。これにより、ヴァニラやココナツなどエレガントな甘いニュアンスがワインに奥行きと複雑味を与えてくれる。2007年は2200本で2011年12月頃リリースされるそうだ。



3.Viré Clessé V.V 2009 (瓶)
醗酵している段階で2003年のように酸度が下がったそうだ。通常の年よりも酸味が少なく、厚みのあるリッチな味わいになり、2009年は2008年に比べれば、長熟ではないだろうとの事。蜂蜜、ミネラル感に富んでおり、ゴージャスなムルソーのようなスタイル。



4.Viré Clessé Hors Classé 2007 (瓶)
今のところは若干の苦味が感じられるが、果実味の甘みとミネラル感がしっかりとあり、熟成させるとさらに新しい表情を見せるだろうと予感させてくれる味わい。エリック氏最後の作品らしく丁寧な仕事ぶりが伺える。

5.Viré Clessé Hors Classé 2008 (瓶)
2007年より柔らかで厚みがあり、繊細さがより際立っている印象。まだ熟成中ではあるが、現時点でかなり完成されてきている。リッチでとても洗練されていて、先代の味わいに戻ったかのようだ。今後さらに年の個性と代替わりによる個性の違いがはっきりと表れてくるのだろう。ヴィンテージ的にはエリック氏は2007年は酸がシャープで輪郭がくっきりとした年になったと言う。そして2008年の方が2009年よりも確実においしくなるはずだと言う。ラベルも前のデザインに戻すそうだ。

2008年の収穫開始は9月18日、2009年はそれより少し早い9月8日だった。ちなみに猛暑で知られた2003年は9月3日だった。2010年は逆に遅く10月2日でエリックは2006年のように酸が低くしなやかでミネラリーなワインになるだろうと語っている。

エリック・パルテ氏は最近他界したマルセル・ラピエール氏や数年前に亡くなったディディエ・ダグノー氏とも深く親交があったそうで、彼らから多くの事を学んだと言う。とても残念がっていた。コシュデュリやドーヴィサとも親交があるでドーヴィサのワインを今年は1ケース譲ってもらったそうだ。

エリックは娘婿だが、結婚する前は建築家だった。セラーのリノベーションなどその経験は今も活かされているようだ。ドメーヌの跡取り娘だった今の奥さんに頻繁にテイスティングに連れて行ってもらっているうちに、自身もワイン造りの道を歩みたいと強く願うようになったそうだ。結婚後、先代アンドレ・ボノームの指導の下、まさにゼロから全てを仕込まれた。それはとてもスリリングで楽しい経験だったという。実際には1984年からワイン造りを手伝っていたそうで、2001年から完全にエリックが手がけることになった。その彼が息子に2008年からワイン造りを任せることにした。伝統の技の継承はブルゴーニュという産地では何百年も前からこうしてなされてきたのだ。そう思うと特別な思いを抱かざるを得ない。



脱線ついでにもうひとつ。
ワイン業界の内幕をスキャンダラスに描いたドキュメンタリー映画『モンドヴィーノ』の中でモンダヴィが南仏でワイン生産をしようとしたが、地元生産者達の反対で裁判にまで発展したひとつの騒動があった。
その後、やむなくモンダヴィは撤退するのだが、故ロバート・モンダヴィが南仏でのワイン生産を依頼していたのが、先代アンドレ・ボノームだったのだ。彼のワインが大変なお気に入りだったようで、1980年代からオファーされていた。その手腕を醸造長として是非南仏で発揮して欲しいと何度もお忍びで自らがドメーヌまで交渉に来ていたが、アンドレ・ボノームは頑なに引き受けなかったそうだ。後の事の行く末も分かっていたのかもしれない。そして、いくら一生ドメーヌで生産し続けても得られない途方もない大金を積まれても自分が納得しない限り、決して引き受けたりしない職人気質がアンドレ・ボノームにはあったようだ。オレリアンはそんな祖父に似ているところがあるそうだ。

ただ、ビジネス以外では個人的にとても親しくしたようで、自身は参加しないとはいえ、モンダヴィが南仏から撤退が決まったときはとてもがっかりとし、ロバート・モンダヴィが亡くなった時はひどく落ち込んでいたそうだ。
エリックの二人の息子は共にワインの道を歩んでいこうとしている。後継者不足に悩む他の生産者にとってはとてもうらやましい話だ。祖父譲りの職人気質を持つオレリアンや弟ジョアンの今後のワイン造りに期待したい。