[Domaine Paul PERNOT]

ドメーヌ・ポール・ペルノ

今回のブルゴーニュで最後の訪問先となったのがドメーヌ ポール・ペルノ。
ピュリニーを代表するドメーヌで今回の旅を終える事になる。

出迎えてくれたのは当主ポール・ペルノ氏と次男ミッシェル氏。ポール・ペルノ氏は屈託のない笑顔でいつも迎えてくれる。相変わらず元気で、握手も力強い。

ドメーヌの奥にあるラベリングや出荷待ちのケースが並ぶ作業スペースの空いた場所でいつものように試飲する事となった。



1.Bourgogne Chardonnay 2012
例年、6月の終わり頃に瓶詰する為、まだ樽で寝かせているワインを抜き取り、ボトルに入れたものを試飲。このキュヴェは新樽を使用しないで、旧樽で仕込まれている為、純粋にその年のブドウの出来を確認する事が出来る。ピュリニー村で最も2ha所有しているシャンペリエという、とても石の多い区画からブドウが収穫される。3ヵ所に分かれていて、雹害などの被害をある程度は分散できたようだ。

白桃、蜂蜜、白い花、レモン、ミントなどの豊かな香り。シャープで伸びのある清らかな酸はとてもバランスがいい。今年も期待以上の出来のようだ。ACブルゴーニュのレベルを大きく超えており、とてもコストパフォーマンスに優れた名品だと言える。




2.Puligny Montrachet 2012
ドメーヌ全体で2011年と比較すると実に40%も収量が減ってしまったそうだ。多くは雹害によるもので、実になったものでも選別で多くを取り除く事となった。ただ知り合いの生産者ではまったく収穫できなかったドメーヌもあるようで、我々はリリースする事ができるだけでも感謝しなくてはならないと神妙な面持ちで話していたのが印象的だった。雹の多くはグランクリュとプルミエ・クリュに狙いすましたかのように降ったそうだ。収穫1か月前降り、多くの生産者を落胆させたそうだ。ドメーヌでは出来たブドウを例年以上に厳しく選別した。稀少な実でも健全なものでなければ、ワイン全体の質が落ちるからだ。だから一切の妥協をなくし、徹底的に選別したそうだ。
その甲斐もあり、グレートヴィンテージ並みの凝縮したピュアな果実を得る事が出来たそうだ。この結果にポール・ペルノはとても満足しているようだ。収量が少なくなったとはいえ、幸いなことに残ったブドウはとても質が高かった。だから本当に健全でいいものだけを厳選すれば、素晴らしいワインができると確信していたそうだ。実際にワインはピュリニーらしい硬質なミネラル感があり、熟度としっかりとした伸びのある酸が備わっていて、全体的な均整が取れている。白桃、塩漬けハーブ、花、ナッツ、レモン、ライム、蜂蜜、ヴァニラなど豊富な香り立ちで、香りだけでこのワインが如何に優れているかを感じる事が出来る。




3.Meursault Blagny 1er Cru La Piece Sous Le Bois 2012
2007年がファーストリリースとなるこのムルソーは所有するピュリニーモンラッシェ1級畑であるシャンカネから程近い場所にある。表土の粒子は細かく、石の多い区画。ピュリニー拠点のドメーヌながら、ムルソーの特異性を十分に理解している。熟度があり、肉厚で力強く、ミネラル感と柔らかさを有している、とてもよくできたワインだ。エキゾチックなスパイスのニュアンスがとてもいいアクセントとなっている。ムルソーに拠を置く、一流ドメーヌとも何ら遜色のない高いクオリティが魅力。畑は小さい為、他のキュヴェに比べて半分程度の入荷。




4.Puligny Montrachet 1er Cru Champs Canet 2012 
昔から所有はしていたが、0.15haとそれほど大きくない為、ネゴス(J.ドルーアン)に販売していたそうだ。ただ品質はグランクリュに匹敵する程、高い品質のブドウが採れる畑で、世界的な需要の多さに少しでも応えていこうと2011年からリリースする事となった。ただし入荷はどのキュヴェよりも少なく極僅か。魅力ある白い花と柑橘の爽やかな香りに包まれ、伸びのある酸と焦点の定まった上品なエキス分がとてもいいバランスで備わっている。肉付きも良く、ミネラリーでやや塩気があり、エレガント。そして余韻も長い。




5 Puligny Montrachet 1er Cru Clos de la Garenne 2012
バター、レモンやライムなどの柑橘系果実、白桃、ナッツ、ヴァニラ、蜂蜜、ハーブ、スパイスなどの香り。芯がしっかりと通っていて、とてもミネラル感が豊富なワイン。果実味と酸とのバランスは良好で、熟成のポテンシャルもしっかりと感じる事が出来る。とてもいいワインだ。新樽比50%だが、樽の質感が絶妙で、リリースする頃にはさらによくなる事だろう。


6 Puligny Montrachet 1er Cru Les Folatieres 2012
レ・フォラティエール Les Folatieresは計17.64haある畑で、畑名は『folles-terres(狂った土地)』に由来する。これは豪雨時、地形が変わるほど畑が被害を受けていたからだそうだ。また他説では『follets』が集まる場所を意味し、霧に紛れて俗にいう火の玉や幽霊が集まる場所というのが由来のひとつとして語られている。とてもワイン産地とは無縁のような話だが、それぞれの畑には歴史があり、その名の由来を紐解くとまた違った側面からワインを知る事が出来るから面白い。

畑はピュリニー1級のほぼ中央に位置し、ピュリニー1級の中でも最大の面積を有する。日当たりが非常に良く、熟度が十分に得られる畑でもある。厳密にいうと、下記のように4区画からなる。

   エズ・フォラティエール Ez Folatieres(13.63ha)
   アン・ラ・リシャルド En la Richarde(0.53ha)
   ポー・ボワ  Peux Bois(1.5ha)
   オ・シャニオ Au Chaniot(1.98ha).

ポール・ペルノでは、エズ・フォラティエールとプー・ボワを所有し、総面積は3.1ha。樹齢は約50年。

エズ・フォラティエールはクラヴォワヨンとペリエールに隣接する箇所から、その西の中央部分を有し、ポー・ボワは約3/4を所有している。モンラッシェとシュヴァリエ・モンラッシェと同じ等高線にあり、立地的にも恵まれている。

とてもクリーンでピュアな印象。十分に熟した果実味とクリスピーで伸びのある輪郭のしっかりとした酸味はとてもいい。ミネラル感もしっかりとあり、余韻も長く、香りはいつまでも鼻の中に留まる。




7 Puligny Montrachet 1er Cru Les Pucelles 2012
Pucellesとは乙女の意味がある。乙女が騎士(シュヴァリエ)に誘惑され、私生児(バタール)を産み、皆の祝福(ビアンビニュ)を受けたという逸話が有名ではある。その逸話の真偽はさておき、ピュセルが他のグランクリュと一緒に語られている事に意味がある。つまり、ピュセルは今の格付けではプルミエ・クリュではあるが、グランクリュと並び称されるほど質の高い畑であることを示しているのだ。

ポール・ペルノではほぼ中央のカイユレに隣接した箇所とは別の場所に数畝あり、合計で0.4ha所有している。ピュセルやバタールは急な斜面ではないので、天候に左右されず、昔から安定的に質の高いブドウが採れるそうだ。

花やシトラス、蜂蜜、プロヴァンス・ハーブ、スパイス、バター、ナッツ、オレンジピール、ミントなど香りの要素はとても豊富。酸はしっかりとあるが、果実が十分に熟していて、厚みがあり、ねっとりと粘性が高い。それでいてエレガントさもきっちりと備わっている。




8. Bienvenues Batard Montrachet 2012
全体で3.6860haあり、ポール・ペルノの所有面積は0.37ha。これはルフレーヴ1.15ha、ヴァンサン・ジラルダン 0.47ha、ラモネ0.45ha、フェヴレ/バシュレ=モノ 0.51haに次ぐ広さだ。
2ヵ所に数畝所有していて、そのうちひとつは、バタールにつながる長い数畝を所有している。少し香りは閉じ気味だが、ヴァニラ、バター、プロヴァンス・ハーブ、白桃、シトラス系柑橘類、白い花、砕いた石、ミント、オークなどの香りを感じる事が出来る。ビアンヴィニュらしい精妙な造りで、フィネスとミネラル感に溢れている。モンラッシェやバタールよりは多少早く成熟して楽しむ事が出来るだろう。例年、ビアンヴィニュの方が、よりしなやかさとソフトさがある。年産1400本。




9. Batard Montrachet 2012
所有面積は0.6ha。ルフレーヴ1.91ha、ラモネ0.64haに次ぐ面積を所有している。前出のようにピュリニー側のビアンビニュから続く区画とシャサーニュ側にピュリニー側と隣接するL字型の区画とVide Bourseに隣接した数畝の計3か所を所有している。
間に道を挟むが、モンラッシェに隣接している恵まれた区画。年産は1700本ほどになるとの事。

専門書によれば、バタールに断層はなく、バタールとビアンヴィニュの基岩の組成はル・モンラッシェと全く同じだが、表土層はバタールの方が厚くて重いそうだ。バタールでは地下水面が地表に近く、沖積世の土が斜面上部から流入してきた上質の土壌と程よく混じるとのこと。

バタールは、風味豊かでボディが大きく、重厚で骨格ががっしりとしたワインができるとされるが、ポール・ペルノのワインがまさにそれで、ドメーヌのワインは全体的に力強く重量感がある。逞しさの中にしっかりとした包容力もあり、ポール・ペルノ氏そのもののようなワインだ。

今でも大型バイクで野山を疾走する少年のような無邪気さをもちながら、誰もが羨む素晴らしい畑の数々をしっかりと管理し、ドメーヌを発展させ、毎年感動させるワインをきっちりと世に送り出す、数少ない素晴らしい生産者だ。いずれ、世代交代も順調で彼の息子であるポール・ペルノJr.や次男ミシェルが立派な後継者として育っている。ドメーヌの未来は今後も光り輝き続けるだろう。

最後にバタール・モンラッシェ1999年を開けてくれた。酸もまだ若々しく、果実の強さがしっかりと感じられる。それでいて、クリームのように柔らかく、スケール感の大きなワインになっている。ポール・ペルノ曰く、このワインをこれ以上、寝かせようとする人が多いが、個人的にはそれほど寝かせるべきではないし、酸がまだ生きているうちに飲んだ方がワインをしっかりと味わうことができるという。

元々、若い方が好みと言う事もある。2011年や2012年はクラシックな年の部類に入り、ポール・ペルノの歌人的な好みでは4から5年ぐらいは寝かせて、様子見で是非一度試してみて欲しいとの事だ。2010、2008年はそれよりは長く寝かせておいた方がいいという。熟度が高い2009年は今飲んでも十分に楽しめるのではないかとも語っていた。熟成し過ぎて輪郭のぼやけたワインより、まだ若さがある方がいいだろう?人もワインも同じなんだよと老齢のポール・ペルノはうれしそうに笑った。その笑顔は少年のようだった。