[Domaine J.F. MUGNIER]

ドメーヌ・ジャック・フレデリック・ミュニエ


白亜の美しい城 Chateau de Chambolleは青々とした緑に囲まれ、いつも訪問する紅葉の季節とはまた異なる素晴らしい景観を与えてくれていた。春夏秋冬いつでも絵になるこの美しいシャトーは、この村の象徴的な建築物である。このシャトーが建設されたのは1839年の事だという。日本では天保の改革が行われていた頃の話だ。
この瀟洒な建物から、出迎えてくれたのは、当主ジャック・フレデリック・ミュニエ氏。いつもの落ち着いたトーンの渋い声で歓迎してくれた。

城の隣にある醸造所の地下セラーで、2011年を樽から試飲する事となった。

1.Chambolle Musigny 2011 
2011年は春が暑く、早く花が咲いたそうだ。収穫は8月中旬から下旬になるのではないかと思ってしまう程、早かったが、夏はこのところのような酷暑ではなく、涼しいぐらいだったそうだ。雨も例年に比べたら多く降った。収穫は9月3日からと、予想よりは少し遅くなり、それに関して、とてもほっとしたのだと言う。熟したからといって、早く摘まれすぎると必要な要素が構築されないからだ。つまり他のドメーヌが危惧するように、あまりに早い収穫はフィネスに欠けたワインになってしまうのだ。
このワインは甘くミネラリーで、熟した果実をしっかりと感じる事が出来る。酸もきっちりとあり、エレガントに仕上がっている。スタイルとしては2007年に似ているようだが、より上質でフレッシュな酸があり、タンニンの角がなく、クリーミーな印象を持っている。エネルギーとフレッシュさが感じられるのが特徴だ。新樽比は15%~20%と低く抑えられている。これはシャンボールのエレガンスを引き出すため、余計なメークアップをしないように心掛けている事の一つで、年々少なくしているそうだ。



フレデリック・ミュニエ氏


2.Chambolle Musigny 1er Cru Les Fuéss 2011
 前出の村名よりもさらに果実の熟度を感じやすく酸も伸びがありエレガント。リリースされる1年後にはさらに純粋な果実のエキス分とフィネスを十分に堪能できる事だろう。Les Fuéssは畑のほぼ中央の区画をボンヌ・マールとレ・クラに隣接した形で70ares所有している。


3.Bonnes Mares 2011
 引き締まった体躯、肉厚さとエレガントさが同居するキュヴェ。炭、土、サクランボ、ブルーベリーなどの風味。ストラクチャーがしっかりとしており、タンニンと酸のしっかりとしたキュヴェに仕上がっている

4. Chambolle Musigny 1er Cru Les Amoureuses 2011
果実の密度があり、エレガントで、ひたすら長い余韻。濃さよりもフィネスとエレガンスが際立つ。レザムルールらしい造り。香りの要素だけでも既に豊富で、リリースがとても楽しみなキュヴェ。
2011年は7樽造られ、2000本程度が生産される予定。2010年は5樽程度造られ、1500本程度がリリースされる。2010年は来年リリース予定。



5. Musigny 2011
通常は10月に澱引きをするが、2011年は既に澱引きを済ませたそうだ。酸、果実の甘み、ミネラル感、フィネスが異常に高いレベルでバランスをとっている。現段階でも十分にこのワインの偉大さをはっきりと実感する事が出来る。飲みこんだ後のいつまでも留まるバラのような甘く豊かな香りがたまらない。

2012年は3月の終わり頃に芽が出たそうだ。雨も良く降る年で、毎日、畑に出ていないとならないとても忙しい年だったと振り返っていた。雹もあちこちで降ったそうで、クロ・ド・ラ・マレシャルは60%も収量が落ちるようだ。シャンボール・ミュジニーはそれほどの害はなかったそうだが、ボンヌ・マールとフュエが少しやられたそうだ。幸いそれほどのダメージではないとの事。8月は毎日いい天気だったおかげで、とてもいい感じで熟してきているそうだ。熟度、酸、フィネスなどのバランスを見て収穫される。

試飲しながら、彼の趣味であるグライダーの話も楽しそうに聞かせてくれた。いつも醸造所に置いてある彼のグライダーはヴァンダンジュの季節の今頃は、邪魔になるので、アルプスの倉庫に保管しているそうだが、今年も存分に楽しんで来たそうだ。今年の夏は3週間ほど飛んでいたそうで、一回の飛行時間は9時間にもなるそうだ。夏は平均700km.も飛行したそうだが、これはパリ-リヨン間の往復より長い距離で、日本だと東京から青森や岡山ぐらいまで行ける距離だ。彼はひとりでその時間を大好きな大空で過ごすのだ。当然グライダーなので、エンジンはなく、最初は飛行機に引っ張ってもらう。風に乗り、自在に操ることが出来れば、いつまでも飛び続ける事が可能のようだ。
彼のワインに潜むわくわくするような高揚感と遊び心はこういった所から来ているのかもしれない。

大好きなグライダーと娘の話が出来て、余程うれしかったのか、予定にない2010年のボトルも迷わずコルクを抜いてくれた。



6.Chambolle Musigny 2010
 キラキラと光り輝くヴィンテージ。2009年よりも酸とストラクチャーがしっかりしており、質感がきめ細かく、甘く濃密であり、とてもエレガントなワイン。酸とミネラル感、フィネスはヴィラージュの域を軽々と越えている。バラの花びら、ブラックベリーラズベリー、麝香、柑橘の皮、コーヒー、ダークチョコレート、牡丹、ザクロ、胡椒などの香りが口の中にずっと留まる。



7.N.S.G 1er Cru Clos de la Marechale 2010
 ニュイながら、シャンボールの柔らかく繊細で女性的なニュアンスとニュイらしい力強さを持っている。円みがあるがパワフルなスタイル。

彼の好きなワインはボールで例えるなら、凹凸のないつるつるのものではなく、トゲや突起が出たボールが好みなのだという。突起には面白さやキャラクターがあり、それがそのワインの個性だからだ。ワインは農作物であり、工業製品ではない。同じものは二度と作れないからこそ、面白さがあるのだ。
飛び出たトゲや突起は熟成によってコブになっていく。そのコブがないと面白みのないワインでしかないのだと彼は考えている。つるつるのボールは確かにパーフェクトなのかもしれないが、何の伸び代がないワインは長く愛されるだけの魅力に欠けるというのだ。例えば彼がこれまでで一番良かったヴィンテージといえば、最近の年では1991年なのだという。91年はヴィンテージチャートにおいては決して傑出したヴィンテージではない。雹も降って量も少ない年でもある。リリースした頃はバランスが悪かったが、今とてもいい状態にあるそうだ。生まれた頃はたいした事ないと思われても、大きくなると白鳥になったのだ。現時点ではどのワインよりも輝いているという。

7.Musigny 2010
 暗く重みのある濃い色合い。甘く濃密でねっとりとした純粋なエキス分。繊細さも備えており、バランスが何よりいい。ブルーベリー、ブラックベリー、カカオ、カシス、オレンジピール、フローラルなどの高密度の香りが鮮烈な印象を残す。酸度、熟度、ミネラル感、フィネス、質感、エレガンスなどのトータルバランスの高さは他を圧倒する。

現在57才の彼は1985年にワイン造りを独り立ちしたそうだ。彼には20才になる娘がおり、乗馬が趣味でコンクールに入賞するほどの腕前のようだ。同じワイン生産者であるGrivotの娘とも仲が良く、共通の趣味を持つらしい。本人は医者になりたいそうだが、父のようにワイン造りにも興味を持っているそうだ。いつの日か彼女の造るワインを飲む日が来るかもしれない。