[Domaine Robert SIRUGUE]

ドメーヌ・ロベール・シリュグ
5月17日(金) この日最初に訪れたのはVosne RomanéeにあるRobert Sirugue。水曜に訪問したMongeard Mugneretとは僅か200mほどの距離にある。両者の規模は違えど、共に良質なワインを造っている素晴らしいドメーヌだ。Robert Sirugueは近年、リアルワインガイドでの高い評価や、漫画 神の雫での十二使徒の内、第十の使徒に選ばれるなど、日本国内外でも人気の高い生産者になった。毎年、リリースしても瞬く間に完売してしまう程の人気でドメーヌの訪問依頼も世界中からひっきりなしにあるそうだ。

早速、いつものようにセラーで試飲する事となった。

1.Vosne Romanee 2012
リリースは2014年秋以降なので、ワインとしての評価は難しいが、とてもきれいな果実味があり、酸も清らかな印象。純粋なエキス分がしっかりとあり、リリースが楽しみなワイン。



2.Bourgogne Aligote 2011
日本未発売のキュヴェ。シリュグ家が元々所有していたVosne Romaneeの南側にある畑に1991年と1992年にかけて1haに植樹したそうだ。徐々に拡大をしているが、生産数は少なく、地元で消費されているそうだ。レモンやクレーム・ド・カシスに混ぜて飲んだりもするとても気軽なワインで、家飲みにぴったりなのだとか。もちろん、ワインとしての完成度も高く、アリゴテらしいキレのある酸と適度な熟度がとても均整が取れている。熟度が足りないと酸だけが目立つアリゴテが多いがきちんと良質な果実味も備わっている。残念ながら、ここ数年は収量が少ない年が続いているので、購入はさらに難しいが、次の豊作年のタイミングで何とか入荷させてみたいアイテム。



3.Bourgogne Passetoutgrain 2006
これもアリゴテと同じく未入荷のワイン。
ほぼ毎年造っているそうだが、飲み頃のものを地元のブティックで全て販売しているそうだ。2.5haの畑があり、8000本程度生産が可能。ガメイ比1/3。2006年はクラシックな年で、まだ飲むには早いそうで、まだリリースしていないが、少しタンニンが強いが徐々に角が取れ、飲みやすくなっているようだ。
飲み頃を見計らって、輸入させてみたら面白いアイテム。



4.Bourgogne Pinot Noir 2011
黒果実の豊かな香りに大地の香りや、鉄分、スパイスなどの要素が加わっている。ミネラリーで綺麗な黒果実の風味に満ちた、透明感のあるとてもよくできたワイン。酸、熟度もしっかりとあり、目も詰まっていて、高級感がある味わいで余韻も長い。2011年は長熟型の部類に入るが、タンニンの角はそれほどないので、少しこなれれば、おいしく飲むことができるだろう。



5.Ladoix “Buisson” 2011
元々、所有していたが、0.2haと小さな区画しか所有していなかった為、ローカルでだけ販売されていた。この所の世界的な需要の増加に少しでも応えるために少量ながら、国外にも輸出し始めた。日本へは2009年に初上陸し、今回で3回目のリリースとなる。

日本でも認知度の低いアペラシオンだが、口にすれば決して侮る事ができないワインであると感じずにはいられない。他のニュイのキュヴェに比べると一番の北側に位置するとは言え唯一のボーヌのワインは若いうちから柔らかで外交的なニュアンスが強い。



適度な濃さとエレガントさが際立つ秀逸なワインに仕上がっている。ブラックチェリーなどのよく熟した黒果実や大地香、そしてそれに付随する旨味に満ちた果実味と香ばしくとても洗練された上質な樽のニュアンスがバランスよく溶け込んでいる。

梗もよく熟しているからこそこの純粋で雑味のない味わいが現れているのだろう。3月に瓶詰して少し落ち着き始めている状態でこの味わいだ。リリースがとても楽しみなワイン。



6.Chambolle Musigny “Les Monbies” 2011
この畑も僅か0.3haしかない小区画で生産量も約1700本程度と極僅か。新樽の比率は年によって25%から80%程と他のシャンボールの生産者よりも比較的高い年もあるが、樽の使い方が実に上手いのがこのドメーヌの今日の成功の要因として考えられる。

純粋な果実味の持つエキスと新樽の持つ香ばしい要素が実に上手く溶け込んでいて、見事な調和を醸し出しているからだ。

複数の樽メーカーを併用し、同メーカーの樽でも数種類の細かな調整をリクエストした樽を使用しているので、キュヴェの特性に合わせた絶妙な味わいを表現する事が出来るのだ。キュヴェ毎に新樽の比率を変える事はどこでもしているが、アペラシオンの特性に合わせた樽をここまで細かく調整している生産者はそれほど多くはないだろう。

ミネラリーで適度な洗練された肉付き、芯がしっかりとある。エレガントなシャンボールらしさを備えつつ、シリュグらしいツヤと高貴さが感じられる。

そして単に女性的なシャンボールではなく、強く自立した女性の強さもニュアンスも加わっている。拠点とするヴォーヌ・ロマネの力強さとシャンボール村の本来持っている特徴である女性らしさ、その両者の長所を巧みにワインに取り入れているようにも感じる。まるで、これを造っているマリー・フランスそのもののようだ。

現時点では香りはやや閉じ気味で、炭っぽいニュアンスがあるが、シルキーで柔らかく、継ぎ目のない高い質感は、はっきりと感じる事が出来る。これも例年3月から4月に瓶詰を終える。



7.Vosne Romanee 2011
4haの区画(Aux Reas, Aux Communes, Les Barreaux, Les Chalandins, Les Jacquines, Vigneux,等があり、Vosne Romanee村に幅広く点在している。平均した樹齢は約45年。このうちのLes BarreauxはあのCros ParantouxとLes Petit Montsに隣接した村名畑。丘の上にあり、その下の中腹にクロ・パラントゥの畑が広がる。北東を向いてはいるが、ブドウはとてもよく熟し、適度な酸が得られる。風通しがいいからであろう、カビの影響を受けたことはないそうだ。

ジャスパー・モリスMW著 ブルゴーニュワイン大全によれば、表土は鉄分などが豊富に含まれている畑で、下層は大理石が占めているそうだ。土壌のphが低いそうで、濃い色合いのワインができる。アンリ・ジャイエのACヴォーヌ・ロマネにはこのLes Barreauxのブドウが含まれていたそうだ。その区画の葡萄は今、メオ・カミュゼの村名ワインのバックボーンになっているとの事だ。

シリュグでもここの区画のブドウが核になっているようだ。さわやかですっきりとした雑味のない新鮮な赤黒系果実の熟したエキスにスミレやヴォーヌ・ロマネ特有のスパイスの香りやオークのニュアンスがうまく溶け込んでいる。飲み心地が良く、これまでのシリュグファンを十分に納得させてくれる素晴らしい造りだ。


8.Vosne Romanée Vieille Vignes 2011
毎年、リリースされるわけではない特別なキュヴェ。生産された2010年は低収量の為、生産されなかった為、2009年以来のリリースとなる。生産されない年のVV区画からのワインは村名にブレンドされる。
やや香りは閉じ気味だが、赤黒系果実の熟した甘い香りにスミレや牡丹、トーストしたオーク、西洋ワサビ、ペッパー、砕いた岩などの香りが感じられる。まだ硬さはあるが、ピュアなエキスと他要素とのバランスが良く、焦点の定まった核がしっかりとあり、重厚な肉付きと、きれいな輪郭は特筆すべきものがある。4,5年ぐらいから飲んでもいい時期になるのではないかと思われる。


ここで朗報。
ジャン・ルイ・シリュグの27才になる長男アルノーがドメーヌ ミシェル・ノエラの娘と結婚するそうだ。ミシェル・ノエラといえばSirugue同様にVosne Romaneeを拠点とするドメーヌ。所有している畑は以下の通り。


《Grand Cru》
Clos de Vougeot
Echezeaux

《Premiers Cru》
Vosne Romanee “les Suchots”
Vosne Romanee “les Chaumes”  
Vosne Romanee “Beaux Monts”
Morey Saint Denis “les Sorbes”
Chambolle Musigny “les Noirots”
Nuits Saint Georges “les Boudots”

《Village》
Marsannay la Cote
Fixin
Morey Saint Denis
Chambolle Musigny
Vosne Romanee
Nuits Saint Georges

いつの日か、Sirugue名義のEchezeauxやClos de Vougeot、Suchotsなどがリリースされるかもしれない。



右がジャン・ルイ・シリュグの長男アルノー



9.Vosne Romanée 1er Cru Les Petit Monts 2011
前出の2つのVosne Romaneeに比べ、香りが感じやすい。固さもそれほどなく、外交的な印象。100%近い新樽比だが、ヴァニリンな樽のニュアンスとタンニンがうまく溶け込んでいて、とてもバランスがいい。純粋で透明感があり、口にするものすべてを虜にしてしまう魔力を秘めたワインに仕上がっている。

ドメーヌでは除梗器などの必需品はかなりいいものを使っているそうだ。梗を傷つけず、果実だけを的確に取り出せるおかげで、品質は格段に向上したと言う。いくつか他の生産者の除梗した梗や実を見たが、ともに潰れている事が多いそうだ。これではワインに余計な苦みや雑味が加わってしまう。使用している除梗器を勧めてもかなり高額なので、生産者の反応はあまり良くないそうだが、ブルゴーニュの質の底上げに少しでも助けになればとセールスマンのように説く事もあるようだ。最近、さらに新しい除梗器がリリースされ、それも購入を前向きに検討しているそうだ。特に後継者であるジャン・ルイ・シリュグの息子は購入に積極的だ。すべて除梗すると複雑味に欠けるので、除梗しない分は25~30%が含まれる。

10.Grand Échézéaux 2011
グラスに注ぐとこれまでのキュヴェとは比較にならない程素晴らしい香りを放つ。数メートル離れていても、その違いが分かるほどだ。100%新樽で仕込まれ、上質なヴァニラやトースティな品のある香りに、鮮烈なダークベリー、スパイス、甘草、スミレ、牡丹などの気品溢れる香りが絶妙に溶け込んでいる。所有区画はグラン・エシェゾー所有者の中でも最小の僅か0.13ha。樹齢は80年を超えており、そのおかげか、複雑さは抜群で、口当たりはシルキーで、味わいはフィネスとエレガントの極み。ストラクチャーはしっかりしているが決して固くない。ピジャージュをソフトに行う事により、シルキーで目の詰まった質感が生まれるようだ。2011年を代表する素晴らしい1本。

近年の高評価は硬く飲み頃になるまで何十年も寝かせないと開いてこないようなクラシックな造りから、若いうちからでもしなやかで柔らかく飲み心地のいいワインへと変貌したからに他ならない。
これはピジャージュの数を減らしてエクストラクションを少なくしたことが味わいに大きな変化をもたらした一番の要因だとマリー・フランスは言う。もちろん、最新の除梗器や選別台、新樽の細かな調整などの様々な事もその一因となっている。収穫もまだ陽も明けきらないような時間から始める。暑くなる前に収穫し、果実のダメージを最小限にする為だ。こういった事のひとつひとつの積み重ねが、今日の素晴らしい成功につながっているのだ。


11.Grand Échézéaux 1991
最後にマリー・フランスはブラインドでこのワインのコルクを抜いてくれた。プライベートセラーの中でも彼女がお気に入りのワインだと言う。熟成香は上品な枯葉やシャンピニヨンなどの要素がきれいに現れている。タンニンは柔らかく角が取れ、液体に溶け込んでいる。20年以上経っても、まだ生き生きしており、果実味がはっきりと残っている。本当に美しいワインだ。

1991年自体、ブルゴーニュでは平均もしくは、それよりも評価的にはやや低く位置づけられているが、これを飲めば、全体的なヴィンテージチャートはあまりあてにはならないものだと改めて感じる事ができる。

年の出来を全てに当てはめるのは意味がなく、生産者毎に見極めるべきなのだが、未だに年だけで多くの生産者が評価されているのは残念でならない。彼女はテロワールの持つポテンシャルが十二分に引き出された傑作だと嬉しそうに話してくれたが、その意見に少しの反論もない。本当に素晴らしいワインだ。

彼女はそれぞれのヴィンテージにはそれぞれの個性があり、それは子供と同じことなのよと話してくれた。
だから毎年違うものが生まれるし、工業製品ではないから、同じものなんて、二度と生まれる事はないわと続けた。その年の長所を少しでも伸ばしてあげるという、子育てのようなワイン造りはこのドメーヌの根幹にあるものかもしれないと彼女は言っていた。

2011年の特徴は、果実味がしっかりとありながらも、エレガント。フィネスとエレガンス、そしてタンニンも柔らかくとても美しいエキスを感じる事が出来る。酸度も良好で、調和が取れている。マリー自身もこの時点ではどの年に似ているかは判断が難しいそうだが、2010年に匹敵する高い質感とより外交的なニュアンスはさらに多くのファンを獲得するだろうと確信している。


ランチまで時間があったので、シャンボール・ミュジニーの畑を抜ける122号線を車で走った。畑がなくなるとすぐに森になり、高い木々に囲まれた山道を行く。

山肌には石灰岩などが、むき出しになっている所もあり、地層がはっきりと見て取れ、これらが畑のすぐ下にも延々とあるのかと思わせてくれる。
しばらく行くと木々はなくなり、一面には突然、平原が広がる。

平原には鮮やかに光り輝く菜の花が満開だった。見渡す限り、生命力に溢れた力強い黄色で埋め尽くされている光景は、この世のものとは思えない程、美しく感動的なものだった。


ランチはChambolle Musignyにあるフレンチ・レストラン “Le Millésime”。ここはJ.F.Mugnierの目の前にある名店。モダンでスタイリッシュな内装とマッチした洗練された素晴らしい料理の数々。どれもクオリティが高く、満足度は高い。ワインリストと壁面一面に備えられたワインセラーの中の稀少ワインの数々を眺めるだけでも十分に楽しめる。







Restaurant "Le Millésime"
1 rue Traversiere, 21220 Chambolle-Musigny,
TEL: +33 (0)380628037


ランチの後は、レストラン周辺を散策。
地元の教会などを当てもなく、散歩していたら、巨大な菩提樹があったので、近づいてみるとその前に立札があった。それにはTilleul(西洋菩提樹) アンリ4世統治中(1575-1610)に植樹。高さ17.5m、最大円周8.7mと書いてあった。400年以上前に植樹され、この土地で起こった全ての事を見てきたご神木なのだ。周辺にはぴんと張りつめた空気が漂い、荘厳な雰囲気に包まれている。




Google地図座標: 47.185002,4.951891



夜はホテル近くにある日本料理屋 媚竈 (Bissohびそう)で、久しぶりに日本食を頂いた。生産者のファンも多い名店で、料理はもちろんおいしく、ワインリストはとても見応えがある。日本人の澤畠夫妻が経営されているので、本物の日本料理が楽しめるのが魅力だ。

ご存知のようにフランスでは日本料理はとても人気が高い。旬の素材本来の味わいを巧みに引き出し、見た目も鮮やかで五感を楽しませてくれるからだ。フランス料理に共通する要素が多いからかもしれない。それに加え、昨今の健康志向もあり、その人気は衰える事はなく、むしろ需要は高まっているようだ。各地で店は年々増えているそうだが、未だありえない日本料理が多いのも確かだ。現地の人たちの為に用にアレンジされた味わいかもしれないが、たいていは我々日本人にとっては食べられたものではない。

大体そういった店は寿司と焼き鳥がセットになったメニューがあり、寿司は握り飯のように固く、時々酢飯でさえない時もある。焼き鳥はテリヤキ味で歯が痛くなるほど甘い。こういった時、大抵の店の厨房には日本人ではないアジア人が板前の格好でいることが多い。これを日本食だと信じている人達は本当に多いようだ。これではいけないとパリなどでは本物の日本料理を出す店のガイドマップなどを作成するなど頑張っているようだが、認知には時間がかかるそうだ。

この日はワインよりもビールや日本酒など他のものが飲みたかったので、それらと一緒においしい寿司や天ぷらなどを堪能した。この店を訪れるのは、おいしいからということもあるが、自分が日本人であるという当たり前のことを確認できる、とても貴重な体験をできるからでもある。







Restaurant BISSOH
1a rue du Faubourg St-Jacques
21200 BEAUNE,FRANCE
Tel (03) 80 24 99 50
http://www.bissoh.com/