[Domaine de L’Arlot]

ドメーヌ・ド・ラルロ
出迎えてくれたのはオリヴィエ・ルリッシュの後を引き継ぎ、新醸造責任者(テクニカル・ディレクター)となったジャック・デヴォージュ氏。体つきはプロのスポーツ選手のようにがっしりとしていながら、話し方や表情からは、とても知的な印象を受ける。彼はこれまでミシェル・マニャンなどで醸造責任者を務め、ビオ生産者でもあるヴージュレーでも研鑽を積んできた。前任者オリヴィエ・ルリッシュとは、以前から親交があり、彼ならラルロは今後も安心して任せられると唯一認めた男だ。その彼についていき、いつものように18世紀に建てられたとされるセラーに入って試飲する事となった。



ジャック・デヴォージュ氏



2011年の収穫は、9月2日Clos de L’Arlot Blancの若樹から始まり、9月9日Clos des Forêtsの古樹で終えた。ワインは、熟成の段階にある。3月にマロラクティック発酵が終わったものから、1週間前に終わったものもあり、キュヴェによって違いがあるようだ。

2012年は花が咲いたのは2010年と同じ頃だった。
そして雹が降った。ムルソー、ヴォルネ、ピュリニーは3回も雹が降るなど、生産者にとって受難の年だったことに違いはない。ラルロでは、2012年は2010年と比較すると40%程度の収量が減るのではないかと予想している。



1.Côte de Nuits Villages “Clos du Chapeau” 2011
 クロ・デュ・シャポーらしいペッパーとヴァニラの風味にココア、クローブ、白檀、チェリー、ミネラル、土、ブラックベリーなどの香りが品良くまとまりを見せ始めている。かなり濃密で甘い果汁。酸もしっかりとあり、ピノノワールの複雑味がしっかりと出ていて、現時点でも旨さとフィネスがしっかりとある。このキュヴェの収量は35hl/ha以下に制限され、純度の高い果汁からとびきりのワインが生まれる。新樽比率は10~15%で、14カ月の熟成の後瓶詰され、初夏リリースの予定。

2.Nuits Saint Georges “Le Petit Arlot” 2011
 2011年の収穫は9月2日の早朝にクロ・デ・ラルロ ブランから始まり、昼からはこの区画から始まった。1998年から2000年にかけて植えられたプルミエ・クリュであるClos de L’arlotの若木からなるこのキュヴェはプルミエ・クリュを名乗ることができるが、まだ若過ぎるとの判断で別キュヴェのヴィラージュワインとしてリリースしている。
区画はClos de L’arlot Rougeの区画とは隣接しておらず、Clos de L’arlot Blancの区画に隣接している。Le Petit ArlotとClos de L’arlot Rougeに挟まれる形でClos de L’arlot Blancの区画がある。
澱引き直後で、疲れている状態だから、今は判断し辛いと思うよとジャックから説明を受け試飲。フローラル、タバコ、ペッパー、ヴァニラ、チェリー、ブラックベリーなどの香りの要素があり、シャポーより酸がよりしっかりとした印象。確かにもっと溌剌としてフレッシュさが出てくる印象があるので、落ち着けばより奥行きが出てくるだろう。柔らかく繊細でフィネス溢れるエレガントなキュヴェはラルロらしさが分かりやすいキュヴェだ。

3. Vosne Romanée Village 2011
 これはSuchotの若樹から造られる、稀少なVosne Romanée J.V。ラルロのスーショはリシュブールに隣接している恵まれた立地。ラズベリー、ブラックカラント、ブラックチェリー、バラなどのフローラル、ヴァニラ、ペッパーなどの香りが感じられる。フレッシュで溌剌とした果実味とフィネスの印象が強く残るキュヴェ。



4.Nuits Saint Georges 1er Cru Clos de L’Arlot Rouge 2011
 1943年から1955年に植樹された古木の2haの区画から造られる。他の区画と比べて、果実の熟すスピードが緩やかなため、最後の方に収穫される。また石灰岩が他の区画と比べ、少なく、土の色も茶色く他と異なる土壌を有している。フローラル、ブラックチェリー、ラズベリー、木苺、ヴァニラ、ペッパー、ミネラル、土などの豊かで華やかさのある香り。しっかりしていながらも非常にしなやかなタンニンと酸、力強い果実味はまだ高いレベルでの均衡が取れていないが、それぞれの個性が次第に調和していく過程にある。



NSG 1er Cru Clos de L’Arlot



5.Vosne Romanée 1er Cru Les Suchots2011
Richebourgに隣接したLes Suchotsの中でも特に恵まれた1.6haを所有している。木苺、ヴァニラ、ショコラ、モカクローブ、スパイス、プラム、カシス、ブラックチェリー、ブラックカラント、フローラル、甘草、スパイス、下草、土、鉱物などがパフュームのように香りが沸き立つ。光沢と卓越した優雅さがあり、艶やかで甘みの要素が強く女性的な風味すらある。エレガントであり、ゴージャスで力強く気高さを感じるキュヴェ。

6.Nuits Saint Georges 1er Cru Les Petits Plets 2011 
モノポールであるClos des Forêtsの若樹から造られるキュヴェ。1987年から1989年に植樹されており、既に20年を超えている。リッチさとエレガントさを備えたキュヴェ。現在の畑地図ではLes Forêtsのみ記載されているが、1880年代の地図によると、Les Forêtsの区画の傾斜が少ないこの区画を栽培家達はPetit Pletsと呼んでおり、ラルロでもそれに倣って別キュヴェとしてリリースしている。この区画は比較的早めに収穫することで、美しく繊細で純粋なフルーツ味が出てくる区画だそうだ。2011年はとてもオープンで柔らかく、樽熟は2010年よりは短くするそうだ。これは2011年の繊細でエレガントな果実味を大事にしたいという意図がある。2011年は一般的には飲みやすい年と捉えられがちだが、ラルロでは長熟型となるようだ。


よくビオを実践していない生産者が、雨が多いとビオ生産者はかわいそうだと言う人がいるが、少し作業が増える程度で、通常の生産者と大して変わらないという。大変かもしれないが、結果を見ればその良さが歴然としているのだ。ヴィンテージの負の部分をビオによって育まれたブドウは有り余る生命力で補い、プラスに転じてくれるのだ。天候が悪い年こそ、ビオの効果はやはりすごいんだとはっきりと感じる事が出来るのだ。ただ、ビオは常に畑に出ていないとならないので、怠け者には向かないが、しっかりとやれば、絶対にブドウは応えてくれるという。その生命力を引き出す手助けを人はするだけなのだ。

7.Nuits Saint Georges 1er Cru Clos des Forêts Saint Georges 2011 
ラルロ単独所有の畑で、ドメーヌを代表するキュヴェのひとつ。ジャックは、醸造責任者着任後、ドメーヌの所有する全ての畑の土壌の分析を専門的に行った。それぞれのテロワールを正確に知るためだ。スメもオリヴィエもそこまで詳細な分析はしていなかった。そして2011年はテスト的に7種の異なるパーセルを分けて収穫と醸造を行ったそうだ。今回、クロ・デ・フォレを7種分けて造ってみようと考えたのも土壌が少しずつことなり、微妙に味わいの異なるブドウが採れたからだ。これは個々の土壌でブドウの個性を正確に知り、それを最大限に活かしてあげようとするジャックの意気込みが感じられる。一つの樽を試飲したが、柔らかく、しなやかで飲み心地が良く、深みがしっかりとある。タンニンもしっかりとあるが角がなく、十分に熟し、きめが細かい。最終的にはいくつかのパーセルブレンドされ、より深みと奥行きが出てくることだろう。滋味深く、繊細で優しく、エレガントで、ラルロらしさが存分に楽しめる。


8. Romanée Saint Vivan 2011 
所有しているのは0.25haでRomanée Contiと道を隔てながらも隣接している素晴らしい立地。ここから僅か3樽の珠玉のワインを生み出している。鮮やかで輝きと重みのあるルビーレッド。やや閉じているがラズベリー、スミレ、ブラックチェリー、ブラックベリー、下草、レザー、ヴァニラ、バラ、木苺などの豊かで品のある香りが感じられる。リッチでゴージャスな果実味があるが、エレガントさも十分に感じられる。骨格と奥行きはすばらしく、熟度もたっぷりあり、恐ろしい程の深みが既に存在する。既に官能的でフィネスに溢れるこのワインの日本への入荷はほんの僅か。リリースされる頃にはいったいどんなワインになるのか胸が高鳴る。ただ一つ言えるのは決して早く抜いてはいけない傑作ワインになるだろうと言う事。

ジャックはラルロと同じPremeaux村のDomaine de la Vougeraieでもビオディナミを実践してきた。彼はビオディナミでやることは、どのドメーヌも同じだが、やはり常に畑を見張っていないとならないので、忍耐強さと根気が必要だと言う。信頼するチームメンバー達と常に畑に出て、彼らとのコミュニケーションを大事にし、話し合いを十分に行う事が、ラルロをさらに成長させる為にも大事であると心から考えている。これはオリヴィエがいる頃と同じ体制だ。彼らは互いの仕事を信頼し、尊敬しているのだ。

ずっと畑を管理してきた栽培家達は、それこそひとつひとつの樹の状態をしっかりと把握している。言わば樹々の親なのだ。そして生まれた個性を的確に判断し、それを最良の味わいを引き出すのがジャック・デヴォージュなのだ。一流で個性のある奏者達を見事に束ね、独特の世界観を創り出すオーケストラの指揮者が彼の役割だ。その重い責任と重圧をジャックは楽しむかのように見事にこなしている。並大抵の人にはできない事だ。



Team L'arlot


通常、小さなドメーヌはそれをひとりや家族で行う。それをできる素晴らしい才能の持ち主がブルゴーニュにはいるが、それは本当に極僅かだ。そして、どんなに才能ある人にも限界はある。DRCがそれぞれの作業をそれぞれのエキスパートに分業しているように、ラルロも寸分の狂いも生じさせない綿密な計画の下、ワインを造っているのだ。ヴィンテージの良し悪しに決して左右されない万全の体制が整っている。
それを実現する為にも、ラルロにはAXAミレジムという、巨大資本が強力にバックアップしている。ドメーヌの成長へ必要な投資は行うが、ワイン造りに関しては口を挟まないとても良好な関係と言える。


ラルロはスメが礎を築き、オリヴィエがそれを花開かせた。ジャックはそれをしっかりと理解した上で踏襲し、見事に昇華させている。ジャックはオリヴィエがこれまで実践してきたことは、ラルロのワインを造る上で無駄な事はなく、全て理にかなっていると考えているようだ。今後はそれを変えるのではなく、進化させていくようだ。ビオディナミは当然継続するし、詳細な土壌分析により新たな試みによる発展もあるだろう。ラルロの真骨頂である薄旨系のエレガントさは、さらに進化すると確信している。ジャック・デヴォージュはブルゴーニュの輝かしい歴史にその名を刻むことになるだろう。