[Domaine Robert SIRUGUE]

ドメーヌ・ロベール・シリュグ
8月31日10:00訪問。一片の雲さえない真っ青な空。気温も20度ととても過ごしやすい天候。
出迎えてくれたのは、マリー・フランス氏とその弟ジャン・ルイ・シリュグ氏。近年、リアル・ワイン・ガイドなどの専門誌で高く評価され、一躍注目を集め、今や入手困難になったドメーヌ。

漫画 神の雫でも12本の偉大なワイン『十二使徒』のひとつとして、並み居るトップドメーヌを差し置き、このドメーヌのグラン・エシェゾー2002年が第十の使徒に選ばれるなど、さらに注目を集めている。
 
十二使徒では、これまでブルゴーニュで、ジョルジュ・ルーミエの レ・ザムルーズ 2001年、ミシェル・コラン・ドレジェのシュヴァリエ・モンラッシェ 2000年がブルゴーニュから選ばれており、タイプは違えど、それらの偉大なワインに肩を並べる事となった。
神の雫はフランスでも高く評価され、フランスの本屋では仏訳の同誌が全巻高く積み上げられている。老若男女問わず、幅広い層に読まれているそうで、特にワインを飲まなくなった近年の若者のワインへ興味を持たせるという、とてもいいきっかけともなっているようだ。もちろん、多くのワイン生産者もこのMANGAを愛読していると良く耳にする。

特にフランス人は日本、そして日本の文化が好きだ。日本以上にヒットする北野武の映画やヘルシーで素材の旨味を活かす日本食はもちろん、数々の日本文化が受け入れられ、この地で独自の進化をしている。

海外に行くと、日本では当たり前でも、海外ではそれがなかったりするものが、無数に存在する。どんな小さなものでも日本人特有のきめ細かさと正確性は他国を圧倒する。それに気づく度に、日本がこれからもう一度輝きを取り戻すチャンスはまだまだあるのだと強く感じるのだ。

さて、前置きが長くなったが、いつものようにドメーヌの地下セラーでテイスティングする事となった。



1.Bourgogne Pinot Noir 2011
 まだマロラクティック発酵が終わっていない段階での試飲。酸もしっかりとあるが、柔らかく、濃密な果実味で熟度も高い。素晴らしい出来のワインに仕上がる事だろう。入荷は来秋となるが、とても楽しみなヴィンテージだ。



2.Vosne Romanée 2011 
フルーツ味が強くあり、柔らかく飲み心地が良いキュヴェ。マロラクティック発酵が終わって、やや落ち着きを見せている。現段階では2007年や2009年に似ている印象。この年も収量は多くないので、V.Vはリリースされない可能性が高い。2012年の収穫後、しばらくして瓶詰する予定だが、V.Vとしてリリースするかは、味わいを見極めてから最後に決めるそうだ。V.Vとしてリリースされない場合は、すべてAC ヴォーヌ・ロマネにブレンドされる。

3.Vosne Romanée 1er Cru Petits Monts 2011
ヴィラージュより骨格がしっかりとして、スケール感がある印象。現段階ではやや炭っぽさがあり、タンニンもしっかりとある。液体の粘性は高く、既にフィネスを感じさせる。



4.Grands Echezeaux 2011
香りはやはり閉じているが、カシス、炭、ピーマン、フランボワーズ、チェリー、バラなどを感じる事が出来る。落ち着きのあるゴージャス感があり、既にノーブルな雰囲気を備えているようだ。



5.Bourgogne Pinot Noir 2010

2012年11月に日本でリリースされる2010年。まず印象としてはとても良くできたスタイルだという事。熟度とリッチさを備えた2009年に似た印象を備えていながら、より大きなスケール感とフィネスがある。2009年よりも上質な酸が下支えになっており、ワインに奥行きがある。

6.Ladoix “Buisson” 2010
これまで所有はしていたが、僅か0.2haと小さく、生産量が少ない為、ローカルでだけ販売されていた稀少なキュヴェ。交渉により、2009年日本初上陸したキュヴェで、2010年で二回目となるリリース。
50%新樽で仕込まれ、程よく樽のトーストした香りと熟した赤く雑味のない果実の香りがいい均衡を保っている。2009年は熟度がひたすら高く、まろやかで飲みやすいスタイルだったが、2010年はストラクチャーがしっかりとして、酸とフルーツのバランスが取れており、何よりエレガントなフィネスがしっかりとある。本来のブルゴーニュのグレートヴィンテージだと素直に感じる事が出来る。

7.Chambolle Musigny “Les Mombies” 2010
僅か03haを所有しており、そこから珠玉のワインを造りだす。ピュアでエレガントな果実味と酸、そしてフィネスはプルミエ・クリュクラスの上質な質感と風味を備えている。新樽比は80%とシャンボールとしては比較的高いが、それにより樽由来の香ばしさが果実とは性質の異なる甘みが感じられる。まだ硬さはあるが、エキス分が高く、シャンボールらしい、しなやかで品のよい風味と余韻がとても心地よい。入荷は本当に少ないが、あれば迷わず購入をお勧めしたい1本。

8.Vosne Romanée” 2010
2010年は量が少ない為、Vosne Romanee V.Vは造られず、全てこのキュヴェにブレンドされることとなった。2009年のような豊作時には別キュヴェとしてリリースされる。樹齢60年を超えるV.Vの区画のものが、通常のヴィラージュに加えられるが、V.Vがしっかりとしたストラクチャーを与えている。酸もタンニンもとてもしっかりしており、前出のシャンボールより甘みが強くパワフルな印象だ。Vosne Romanéeのヴィラージュは北からLes Violettes, Les Chalandines, Les Barreaux, Vigneux, Aux Communes, Aux Réas, Les Jacquinと所有している。村内で北から南まで幅広く所有する事で、年の出来に左右されない毎年質の高いブドウができるのだ。


ジャン・ルイ・シリュグ氏


2007年からこのドメーヌは大きく生まれ変わった。その一つに澱引きの回数を2回に増やしたことが考えられる。澱引き時に空気に触れる事で熟成が促され、追加した澱引きによって固さの要因の一つであるエグ味が除かれた。これにより純粋な果実のシルクのような柔らかさとエレガントさを持つモダンで比較的若いうちから楽しめる味わいとなった。クラシックな造りをしていた2006年は今でも固く、さらなる熟成が必要のようだ。



9.Vosne Romanée 1er Cru Petits Monts 2010 
新樽比100%のこのキュヴェはとても柔らかくフィネスとエレガンス溢れる味わいとなっている。ラズベリーなどのレッドフルーツの熟度の高い香りは魅力的。きっちりと定まった果実味の焦点と酸とのバランスの秀逸さはこのワインが如何に優れたものであるか如実に表している。加えてストラクチャーがしっかりとしており、テロワールの香りが感じられるキュヴェに仕上がっている。



10. Grands Echezeaux 2010
 こちらもプティ・モン同様に新樽比100%のキュヴェ。しっかりと焦がされた上品で豊かな樽香に全く負けていない力強い果実味は圧巻。熟したブラックベリーに黒糖、ヴァニラなどの風味がプラスされ、味わいが幾重にも折り重なっているかのようだ。酸もしっかりとあり、伸びやかで品がある。傑出したヴィンテージと言われた2009年に唯一足りなかった要素はまさにこれだと確信した。それにより、ブルゴーニュの神髄であるフィネスがどうしても足りなかったのだ。2010年は本当のブルゴーニュの味わいを体現した素晴らしい年のようだ。
2010年の収穫が開始されたのは9月25日。これは平均的な収穫日で、2009年などは異常に早かった事がうかがえる。2009年は暑過ぎたせいで、熟すのが極端に早く、必要な酸が消え、それによりフィネスが育まれる前に収穫されてしまったのだ。果実の熟度や濃縮されたインパクトがあっても、奥行きやエレガントさにやや欠けた印象に思えるのはその為だ。

2010年の収穫時の気温はとても低く、1週間はずっと寒いぐらいだった。逆に収穫時25度ぐらいだと、ブドウは収穫した後、冷まさなければならない。水のパイプの通った冷却用のキューヴに入れて冷ますが、均一に温度を下げる事が難しいそうだ。その点、2010年は8度と温度が低く、冷却の必要はなく、均一な熟度を保つ事が出来たのだという。2009年にない圧倒的なまでのフィネスはこの事も大きいようだ。



マリー・フランス氏



さて、話が戻るが、近年の高評価、特に神の雫十二使徒に選ばれてから、多くの日本人を始めアジアからの訪問希望が増えたそうだ。当然、多過ぎて対応できないので、ほとんどお断りしているとの事。運よく訪問できても下のキュヴェしか試飲できないが、みなさんとても嬉しそうに飲んでくれるので、彼らにとっても直接消費者の話が聞けるかけがえのない時間なのだそう。ビジターノートには、びっしりと各国の言葉で感謝の言葉が綴られていた。
使徒として掲載された神の雫 単行本のフランス語版やその他の言語はまだ翻訳本がはまだのようだが、近くリリースされるだろう。今度は世界中から訪問依頼が殺到するんじゃない?と伝えると、コールセンターでも作らないとワイン造りなんてできないわねとおどけて話してくれた。

ともかく、いいドメーヌが適正な評価を受けて、注目され、徐々に成長する事はとても健全でいいことだ。対してブルゴーニュのみならず、名ばかりのドメーヌが多いことも事実なのだ。
いずれにせよ、彼らの表情は今、自信に満ちている。毎年、試行錯誤を繰り返し、ようやくテロワールと自分たちの理想のワインが合致したのだろう。
今後も素晴らしいワインを世に送り続けるはずだ。確固たる自信を付けた彼らに怖いものなどない。あるとすれば、それは世界中から押し寄せる訪問希望者ぐらいなのだ。


 

ジャック・フレデリック・ミュニエ訪問前にドメーヌの目の前にあるフレンチレストラン “Le Millésime”で昼食をとった。ここはシャンボール・ミュジニーを訪れる度に訪れるお気に入りのレストラン。店内はパリかと見紛うほど、モダンでスタイリッシュな内装。料理も素材の味わいを見事に引き出したモダンで洗練されたもので、どの皿も満足度が高い。そして、ワインリストは場所柄とても見応えがあり、価格もリーズナブル。

ミシュランガイドにも星付ではないものの、おすすめレストランとして掲載され、快適さとサービスによる評価で5段階中、下から二番目の”快適”の目安とされる2フォーク&スプーンと、コストパフォーマンスによる評価であるビブグルマン(Bib Gourmand)を獲得している。星付レストランのような堅苦しさもなく、気軽においしい食事が楽しめる名店。








“Le Millésime”
1 RueTraversière,21220Chambolle-Musigny
TEL: +33 3 80 62 80 37