[Domaine Paul PERNOT]

ドメーヌ・ポール・ペルノ

今回のブルゴーニュで最後の訪問先となったのがドメーヌ ポール・ペルノ。
ピュリニーを代表するドメーヌで今回の旅を終える事になる。

出迎えてくれたのは当主ポール・ペルノ氏と次男ミッシェル氏。ポール・ペルノ氏は屈託のない笑顔でいつも迎えてくれる。相変わらず元気で、握手も力強い。

ドメーヌの奥にあるラベリングや出荷待ちのケースが並ぶ作業スペースの空いた場所でいつものように試飲する事となった。



1.Bourgogne Chardonnay 2012
例年、6月の終わり頃に瓶詰する為、まだ樽で寝かせているワインを抜き取り、ボトルに入れたものを試飲。このキュヴェは新樽を使用しないで、旧樽で仕込まれている為、純粋にその年のブドウの出来を確認する事が出来る。ピュリニー村で最も2ha所有しているシャンペリエという、とても石の多い区画からブドウが収穫される。3ヵ所に分かれていて、雹害などの被害をある程度は分散できたようだ。

白桃、蜂蜜、白い花、レモン、ミントなどの豊かな香り。シャープで伸びのある清らかな酸はとてもバランスがいい。今年も期待以上の出来のようだ。ACブルゴーニュのレベルを大きく超えており、とてもコストパフォーマンスに優れた名品だと言える。




2.Puligny Montrachet 2012
ドメーヌ全体で2011年と比較すると実に40%も収量が減ってしまったそうだ。多くは雹害によるもので、実になったものでも選別で多くを取り除く事となった。ただ知り合いの生産者ではまったく収穫できなかったドメーヌもあるようで、我々はリリースする事ができるだけでも感謝しなくてはならないと神妙な面持ちで話していたのが印象的だった。雹の多くはグランクリュとプルミエ・クリュに狙いすましたかのように降ったそうだ。収穫1か月前降り、多くの生産者を落胆させたそうだ。ドメーヌでは出来たブドウを例年以上に厳しく選別した。稀少な実でも健全なものでなければ、ワイン全体の質が落ちるからだ。だから一切の妥協をなくし、徹底的に選別したそうだ。
その甲斐もあり、グレートヴィンテージ並みの凝縮したピュアな果実を得る事が出来たそうだ。この結果にポール・ペルノはとても満足しているようだ。収量が少なくなったとはいえ、幸いなことに残ったブドウはとても質が高かった。だから本当に健全でいいものだけを厳選すれば、素晴らしいワインができると確信していたそうだ。実際にワインはピュリニーらしい硬質なミネラル感があり、熟度としっかりとした伸びのある酸が備わっていて、全体的な均整が取れている。白桃、塩漬けハーブ、花、ナッツ、レモン、ライム、蜂蜜、ヴァニラなど豊富な香り立ちで、香りだけでこのワインが如何に優れているかを感じる事が出来る。




3.Meursault Blagny 1er Cru La Piece Sous Le Bois 2012
2007年がファーストリリースとなるこのムルソーは所有するピュリニーモンラッシェ1級畑であるシャンカネから程近い場所にある。表土の粒子は細かく、石の多い区画。ピュリニー拠点のドメーヌながら、ムルソーの特異性を十分に理解している。熟度があり、肉厚で力強く、ミネラル感と柔らかさを有している、とてもよくできたワインだ。エキゾチックなスパイスのニュアンスがとてもいいアクセントとなっている。ムルソーに拠を置く、一流ドメーヌとも何ら遜色のない高いクオリティが魅力。畑は小さい為、他のキュヴェに比べて半分程度の入荷。




4.Puligny Montrachet 1er Cru Champs Canet 2012 
昔から所有はしていたが、0.15haとそれほど大きくない為、ネゴス(J.ドルーアン)に販売していたそうだ。ただ品質はグランクリュに匹敵する程、高い品質のブドウが採れる畑で、世界的な需要の多さに少しでも応えていこうと2011年からリリースする事となった。ただし入荷はどのキュヴェよりも少なく極僅か。魅力ある白い花と柑橘の爽やかな香りに包まれ、伸びのある酸と焦点の定まった上品なエキス分がとてもいいバランスで備わっている。肉付きも良く、ミネラリーでやや塩気があり、エレガント。そして余韻も長い。




5 Puligny Montrachet 1er Cru Clos de la Garenne 2012
バター、レモンやライムなどの柑橘系果実、白桃、ナッツ、ヴァニラ、蜂蜜、ハーブ、スパイスなどの香り。芯がしっかりと通っていて、とてもミネラル感が豊富なワイン。果実味と酸とのバランスは良好で、熟成のポテンシャルもしっかりと感じる事が出来る。とてもいいワインだ。新樽比50%だが、樽の質感が絶妙で、リリースする頃にはさらによくなる事だろう。


6 Puligny Montrachet 1er Cru Les Folatieres 2012
レ・フォラティエール Les Folatieresは計17.64haある畑で、畑名は『folles-terres(狂った土地)』に由来する。これは豪雨時、地形が変わるほど畑が被害を受けていたからだそうだ。また他説では『follets』が集まる場所を意味し、霧に紛れて俗にいう火の玉や幽霊が集まる場所というのが由来のひとつとして語られている。とてもワイン産地とは無縁のような話だが、それぞれの畑には歴史があり、その名の由来を紐解くとまた違った側面からワインを知る事が出来るから面白い。

畑はピュリニー1級のほぼ中央に位置し、ピュリニー1級の中でも最大の面積を有する。日当たりが非常に良く、熟度が十分に得られる畑でもある。厳密にいうと、下記のように4区画からなる。

   エズ・フォラティエール Ez Folatieres(13.63ha)
   アン・ラ・リシャルド En la Richarde(0.53ha)
   ポー・ボワ  Peux Bois(1.5ha)
   オ・シャニオ Au Chaniot(1.98ha).

ポール・ペルノでは、エズ・フォラティエールとプー・ボワを所有し、総面積は3.1ha。樹齢は約50年。

エズ・フォラティエールはクラヴォワヨンとペリエールに隣接する箇所から、その西の中央部分を有し、ポー・ボワは約3/4を所有している。モンラッシェとシュヴァリエ・モンラッシェと同じ等高線にあり、立地的にも恵まれている。

とてもクリーンでピュアな印象。十分に熟した果実味とクリスピーで伸びのある輪郭のしっかりとした酸味はとてもいい。ミネラル感もしっかりとあり、余韻も長く、香りはいつまでも鼻の中に留まる。




7 Puligny Montrachet 1er Cru Les Pucelles 2012
Pucellesとは乙女の意味がある。乙女が騎士(シュヴァリエ)に誘惑され、私生児(バタール)を産み、皆の祝福(ビアンビニュ)を受けたという逸話が有名ではある。その逸話の真偽はさておき、ピュセルが他のグランクリュと一緒に語られている事に意味がある。つまり、ピュセルは今の格付けではプルミエ・クリュではあるが、グランクリュと並び称されるほど質の高い畑であることを示しているのだ。

ポール・ペルノではほぼ中央のカイユレに隣接した箇所とは別の場所に数畝あり、合計で0.4ha所有している。ピュセルやバタールは急な斜面ではないので、天候に左右されず、昔から安定的に質の高いブドウが採れるそうだ。

花やシトラス、蜂蜜、プロヴァンス・ハーブ、スパイス、バター、ナッツ、オレンジピール、ミントなど香りの要素はとても豊富。酸はしっかりとあるが、果実が十分に熟していて、厚みがあり、ねっとりと粘性が高い。それでいてエレガントさもきっちりと備わっている。




8. Bienvenues Batard Montrachet 2012
全体で3.6860haあり、ポール・ペルノの所有面積は0.37ha。これはルフレーヴ1.15ha、ヴァンサン・ジラルダン 0.47ha、ラモネ0.45ha、フェヴレ/バシュレ=モノ 0.51haに次ぐ広さだ。
2ヵ所に数畝所有していて、そのうちひとつは、バタールにつながる長い数畝を所有している。少し香りは閉じ気味だが、ヴァニラ、バター、プロヴァンス・ハーブ、白桃、シトラス系柑橘類、白い花、砕いた石、ミント、オークなどの香りを感じる事が出来る。ビアンヴィニュらしい精妙な造りで、フィネスとミネラル感に溢れている。モンラッシェやバタールよりは多少早く成熟して楽しむ事が出来るだろう。例年、ビアンヴィニュの方が、よりしなやかさとソフトさがある。年産1400本。




9. Batard Montrachet 2012
所有面積は0.6ha。ルフレーヴ1.91ha、ラモネ0.64haに次ぐ面積を所有している。前出のようにピュリニー側のビアンビニュから続く区画とシャサーニュ側にピュリニー側と隣接するL字型の区画とVide Bourseに隣接した数畝の計3か所を所有している。
間に道を挟むが、モンラッシェに隣接している恵まれた区画。年産は1700本ほどになるとの事。

専門書によれば、バタールに断層はなく、バタールとビアンヴィニュの基岩の組成はル・モンラッシェと全く同じだが、表土層はバタールの方が厚くて重いそうだ。バタールでは地下水面が地表に近く、沖積世の土が斜面上部から流入してきた上質の土壌と程よく混じるとのこと。

バタールは、風味豊かでボディが大きく、重厚で骨格ががっしりとしたワインができるとされるが、ポール・ペルノのワインがまさにそれで、ドメーヌのワインは全体的に力強く重量感がある。逞しさの中にしっかりとした包容力もあり、ポール・ペルノ氏そのもののようなワインだ。

今でも大型バイクで野山を疾走する少年のような無邪気さをもちながら、誰もが羨む素晴らしい畑の数々をしっかりと管理し、ドメーヌを発展させ、毎年感動させるワインをきっちりと世に送り出す、数少ない素晴らしい生産者だ。いずれ、世代交代も順調で彼の息子であるポール・ペルノJr.や次男ミシェルが立派な後継者として育っている。ドメーヌの未来は今後も光り輝き続けるだろう。

最後にバタール・モンラッシェ1999年を開けてくれた。酸もまだ若々しく、果実の強さがしっかりと感じられる。それでいて、クリームのように柔らかく、スケール感の大きなワインになっている。ポール・ペルノ曰く、このワインをこれ以上、寝かせようとする人が多いが、個人的にはそれほど寝かせるべきではないし、酸がまだ生きているうちに飲んだ方がワインをしっかりと味わうことができるという。

元々、若い方が好みと言う事もある。2011年や2012年はクラシックな年の部類に入り、ポール・ペルノの歌人的な好みでは4から5年ぐらいは寝かせて、様子見で是非一度試してみて欲しいとの事だ。2010、2008年はそれよりは長く寝かせておいた方がいいという。熟度が高い2009年は今飲んでも十分に楽しめるのではないかとも語っていた。熟成し過ぎて輪郭のぼやけたワインより、まだ若さがある方がいいだろう?人もワインも同じなんだよと老齢のポール・ペルノはうれしそうに笑った。その笑顔は少年のようだった。

[Domaine Thomas MOREY]

ドメーヌ・トマ・モレ

5月18日(土) 今回の訪問は、いつものようにシャサーニュのトマ・モレとピュリニーのポール・ペルノで終わる。気温は18度程度で曇り、やや風もあるので、肌寒い。午前9時半にドメーヌ トマ・モレの呼び鈴を鳴らした。迎えてくれたのはトマ・モレ本人で、挨拶の後、早速テイスティングルームで試飲する事となった。


ドメーヌ トマ・モレ 外観。元々は彼の祖父アルベール・モレのドメーヌだった。



2012年は、5月だというのに、あまりの寒さで樹が凍った区画もあったそうだ。ACブルゴーニュは4つの区画があるが、そのうちのひとつは全て凍ってしまった。当然、その区画からブドウはできなかった。

加えて6月7日には雹が降った。幸い彼の畑は影響がないほどの軽いものだったそうだ。その後、ミルデューが発生した。ミルデュー(mildew)とは、ブドウにとってとても大きなダメージをもたらす病害のひとつで、湿気によるカビによって感染するとてもやっかいな病気だ。

2012年はブルゴーニュの生産者はこれの対応にかなりの労力を費やした。葉に白い点々が広がり、やがてはブドウに移り、感染したブドウはやがて干しブドウのようになってしまうそうだ。

そしてさらに6月30日にはほぼ全ての畑に雹が降った。ただ、これもあまり強いダメージはなく、被害はそれほどなかったそうだが、その中でも、ボーディーヌ、トリフィエールなどはその影響を受けたそうだ。

その後も生産者にとって悲劇は続いた。今度はオイディウムが発生したのだ。オイディウム(Oidium)とはパウダリーミルデュー(powdery mildew)とも言われるミルデューの一種で日本ではうどんこ病とも言われている。

オイディウムは病徴としては、文字通り、「うどん粉(小麦粉)」を振り掛けたように白い粉が植物体表面に散乱する。 一般に高温乾燥時に多発する事が知られているが、この菌が格別乾燥を好むという訳ではないとされている。乾燥時に植物表面の抵抗力が低下し、菌の活性がそれ程落ちないために相対的に発病が増えると見られている。非常に微小な菌で、葉と花と果実を襲う。ブドウの萌芽期から熟期までと重要な時期に発生する。茎は赤褐色の斑点状に、果実には白カビ状になって発生するとても厄介な病気なのである。

ミルデューは単にカビとしてとらえられる事もあるが、パウダリーミルデューとダウニーミルデューに大別する事が出来る。パウダリーミルデューはうどんこ病、ダウニーミルデューは、べと病とも呼ばれる。今年はカビとうどんこ病が広範囲で発生したようだ。2012年は畑で如何に迅速かつ適切に対応できたかが重要な鍵だったようだ。

このように数年に1回しかない出来事が一年にまとめて降りかかるような年だったそうだ。
2012年は様々な困難があった年で、決して楽ではなかったが、決して乗り越えられないものでもなかったとトマは語る。

トマ・モレは以前にDRC Montrachetの栽培責任者をしていたが、ご存知のように、そこではビオディナミを実践している。彼はそれによってブドウの生命力が桁違いに異なる事を肌で感じたそうだ。そして彼は自身の畑で、着々とビオディナミの準備を始めた。

父から譲り受けた畑は低農薬ではあったが、彼の求めるビオディナミではなかったからだ。彼の兄であるVincent Moreyは父と同じ低農薬を継続している。兄弟とはいえ、既に異なる道を歩み始めているのはとても興味深い。

ビオディナミは、とにかく畑での作業が多い。本当に根気のいる地味な作業を、地道にそして正確に行わなければならない。だからトマは常に畑に出ていた。そのおかげで2012年は畑の微妙な変化に気づく事が出来、すぐに対応できたのだという。

もちろんビオディナミは、薬剤を一切散布していない為、他の生産者よりもかなり早い段階で症状が出たそうだ。それを見逃さずに対処できたのは、畑に常にいたからこそなのだ。彼は適切な対処を素早くできたと本当にうれしそうに話してくれた。


季節外れの寒さと3度の雹、そして病気が続き、8月は猛暑となった。暑すぎてブドウ自体が灼けてしまうなどの症状が少し出たそうだ。その後は好転し、少ないながらも、とても質の高いブドウになって来たと彼は喜んでいた。ただ質の高いものだけを残したので、ほんのわずかになってしまったそうだ。

2012年はどれだけ畑での作業をしっかりとしてきたか、生産者によって大きく異なる年になったようだ。未だ健在の彼の父ベルナール・モレもこんな年は自分の経験でも記憶にないというぐらい生産者泣かせの年だったのだ。収量は激減しても、残ったブドウが凝縮して質が極めて高いことが唯一の救いであるという。


1.Bourgogne Chardonnay (Cuvée 1)2012
21樽(約6,300本分)分生産された。マロラクティック発酵も澱引きも終わった状態。異なる区画のブドウを別々に仕込んで最終的にバランスをとりながらアッサンブラージュするそうだ。果実の熟度としっかりとした甘みもしっかりとあり、凝縮している。酸度も適度でとてもバランスがいい。


2.Bourgogne Chardonnay (Cuvée 2)2012
18樽(約5,400本分)生産。Cuvée1よりもさらに酸がしっかりと力強く、伸びがある。レモンやライムなどの柑橘系の風味とやや塩気のある要素がある。ミネラル感も強く、1とは全く異質のワイン。




テイスティングルームにはガラステーブル越しに畑毎の土壌を見る事が出来るが、新たに筒状のガラスに入れられた土壌のディスプレイが設けられた。これにより表面だけでなくその断面がよく分かるようになった。


3.Bourgogne Chardonnay 2012
Cuvée 1と2をグラスの中でブレンドして、最終的な形を示してくれた。ふたつが合わさる事で、繊細でエレガントな要素がはっきりと現れた。両者が混ざり合う事で、化学反応しているかのように、全く新しい生命が吹き込まれたようだ。39樽生産(約11,700本分)
ACブルゴーニュ用のブドウはシャサーニュ村の畑からのもので1989年と2004年に植樹された。例年であれば、ステンレスタンクと樽を併用するが、2012年産は全て樽熟された。その為、例年に比べ、トースティで厚みのあるスタイルになった。

樽の要素が溶け込んでいて、通常のACブルゴーニュにはない気品と品格、複雑味が備わった。恐らく、収量が激減したため、樽に余裕が出来、それをACブルゴーニュにも使われることになったのだと思われるが、それが結果的に質を上げる事となった。収量減という負をひとつの好機と捉え、柔軟にそして最善の方法で適切に対処していく、トマらしい手法だ。もしかしたら、今後は適用されないかもしれない手法だが、とりあえず2012年産はとてもお買い得だと言える。


4.Saint Aubin 2012
0.32ha所有。Champ Tirantという区画のほぼ中央の一部を所有。2012年は2011年より高めの酸があり、硬質なミネラル分を有している。そして熟した果実のフルーティさが備わっていて、クオリティとしては2011年より高いとトマはいう。


5.Saint Aubin 1er Cru Le Puits 2012
サントーバン最小の1級畑で僅か0.6037ha。この畑をふたつの生産者が分け合っている。ピーチ、ミント、塩漬けハーブ、レモン、ライムなどの柑橘系、鉱物、麝香などの香りが印象的。ミネラリーで爽やかな酸がきっちりとあり、フレッシュで溌剌としたワイン。


6.Chassagne Montrachet 2012
植樹は1989年や若木の区画などを巧みに使い、双方の良さを最大限に引き出したモダンでスタイリッシュな新しいシャサーニュのお手本のようなワイン。シャサーニュ独特の厚みと粘性がしっかりとありながら、エレガントでフィネス溢れる造り。


7.Chassagne Montrachet 1er Cru Les Machelles 2012
2011年からリリースされているこの畑は現在、借りている畑であり、契約面積は0.32haほどあり、Machellesの畑のほぼ中央に位置する。樹齢は35~40年。
厚みがあり、柔らかく粘性が高い上質な1級。やや塩気と硬質なミネラル感、アーモンド、柑橘系果実、ヴァニラ、白桃、青りんごなどの清らかな風味、洗練された余韻、どれもが品よく備わっている。

通常、8樽程(約2,400本分)の生産が可能だが、2012年は6樽(約1,800本分)に減ってしまった。ここも雹の被害を受けてしまったそうだ。ゴルフボール大の雹が3分から10分降り、各地で甚大な被害をもらせしたそうだ。14ha程度あり、通常なら400樽程生産が可能だが、2012年は僅か50樽に激減したそうだ。恐らく、ブルゴーニュで一番被害にあったのではないかと生産者間で話があったそうだ。優良生産者なだけに、一ブルゴーニュファンとしてとても残念だ。

雹は風の有無によっても大きく、被害が異なる。比較的、真上から降れば、ある程度は葉が防いでくれるので、被害は少ない傾向にあるが、風が吹くと斜めに雹が降り、葉の下の実や茎や木にまで影響を与えてしまうそうだ。茎や木にまでのダメージは、その年だけでなく、それ以降にも大きく影響を与える深刻な事態だ。ただこればかりは防ぎようがなく、ただただ祈るしかない。


8.Chassagne Montrachet 1er Cru Les Chenevottes 2012
これもMachelles同様に2011年からリリースされている新しいキュヴェ。MachellesとBaudinesにそれぞれ隣接した2つの区画から生まれる。これも借りている畑で0.5haある。2012年は7樽生産(約2,100本分)された。畑名は彼の父であるベルナール・モレの時代にもChenevottesは生産していたが、ベルナールはメタヤージュではなく、ブドウを買って造っていたそうだ。白トリュフ、蜂蜜、ヴァニラ、白い花、ミントなどのハーブ、鉱物、青りんご、ナッツなどの豊かな風味が特長で、スタイリッシュなミネラル感が魅力。

9.Chassagne Montrachet 1er Cru Les Baudines 2012
0.43ha。このキュヴェもMachelles,Chenevottesと同様に2011年が、トマ・モレとしてはファーストリリースとなるキュヴェ。土壌は白色粘土で、標高の高さを考えると、表土層は異常に厚く、畑は白ブドウの栽培に適している。フィロキセラ以降、畑は荒廃し、1960年代になって、ようやく植え替えられた。父ベルナールの時代からレ・ボーディーヌを名乗っていて、トマはこの区画に密植にすることで樹にテンションをかけた栽培を試みており、功を奏している。
Embrazeesに隣接した2区画から生まれる。7樽生産(約2,100本分)された。ここも爪ぐらいの雹が北側の区画に降り、収量が減ってしまったそうだ。蜂蜜、アーモンド、青りんご、塩漬けハーブ、白い花などの品のある豊かな香り。果実の熟度も十分にあり、ふくよかで肉厚。エレガントなミネラル感や酸があり、余韻も長い。


10.Chassagne Montrachet 1er Cru Les Embraseées 2012 
フィロキセラ危機後、放置されていたが、彼の祖父アルベール・モレによって50年代後半に改めて栽培が行われ、現存するブドウの樹は1961年植樹されたものとなる。レ・ザンブラゼのほとんどはモレ家が所有している。5.1930haのうち、ヴァンサン・エ・ソフィ・モレが4.25ha所有し、トマ・モレは0.75ha所有している。
なだらかな丘の中腹にあり、化石や岩や石が多く、赤土土壌の区画。表面の石によって昼間の太陽熱が保たれ、ブドウが熟しやすい畑でもある。白い花や白い果実の新鮮で、さわやかなアロマはエレガントな香水のようにグラスから沸き立つ。他のキュヴェよりも若干の熟度の高さと柔らかさが感じられる。

2012年は2カ月ほど前に澱引きされ、9樽生産(約2,700本分)された。厚みがあり、とても分かりやすい味わいを持っているのが特長。今飲んでも、とてもいい状態で楽しめる。トマも自分のワインの特徴とスタイルが一番理解してもらいやすいキュヴェだと考えている。モレ家の看板ともいえる畑で、アルマン・ルソーならクロ・サン・ジャックのような存在だとも語っていた。トマは澱を取っていて、フィーヌ・ド・ブルゴーニュを造る事も検討しているようだ。



大幅な収量減の為、使用されなかった新樽はかなりあった。
手前はフィーヌ用に澱を保存するためのプラスティックタンク


11.Chassagne Montrachet 1er Cru Morgeot 2012
モルジョは全体で60ha以上もあるシャサーニュ最大の1級畑。トマ・モレではLes Brussonnes, Les Petit Clos, Les Fairendes, Guerchèreというリュー・ディを所有しているが、Guerchèreは、ネゴスに販売している為、Les Brussonnes, Les Petit Clos, Les Fairendesのブドウがこのキュヴェとなる。0.58ha。

モルジョは、他の1級キュヴェに比べ、さらにヴォリューム感のあるワインが出来る。トマ自身も澱引きしてから初めて、試飲するそうだが、酸味もきれいに現れていて、質感もよく、とてもいい状態にあると嬉しそうに話していた。2012年はポテンシャルが高く、クオリティとしてはかなり高いのではないかとトマは自身のワインを分析している。9樽生産(約2,700本分)された。天候の良し悪しは年によってあるかもしれないが、元々のブドウの生命力を活かす、ビオディナミと一切の妥協を捨てた厳しい選別、そして最新の醸造技術で年のバラつきは抑えられるようになったと語る。もちろん、雹害などによる突然の天災による収量減を防ぐことは難しいかもしれないが、気象予知や天災後の対策、醸造技術など常に最新の技術と古き良き時代の技術の双方をかみ砕いて地道に改良していく事が大事なのだと言う。



12.Chassagne Montrachet 1er Cru Clos Saint Jean 2012 
トマの父ベルナールが幼少期には既にあった区画で0.25haあり、樹齢は50年を超える。2012年は4樽生産(約1,200本分)された。熟度も酸もとてもしっかりしたスタイルのワインができるようだ。熟した桃のネクターのような粘性のある果実味に青りんご、ヴァニラ、炒ったアーモンド、ドライフルーツ、パイン、フローラル、レモン、ライム、砂糖漬けハーブなどの香りが感じられる。酸もしっかりとあるが果実味の濃縮感が強くバランスが取れている。質感はフレッシュなシャープさ、そしてフィネスがあり、とても洗練されている。

13.Chassagne Montrachet 1er Cru Vide Bourse 2012
全体で1.3243ha程しかない小さな区画。0.20ha所有。バタール・モンラッシェに隣接しているとても恵まれた区画でもある。植樹された正確な記録が残っていないが、1940年初め頃までは遡ることができるそうだ。通常であれば5樽(約1,500本分)生産可能だが、2012年は3樽(約900本分)となり、例年以上に入手困難なキュヴェになってしまった。ただ品質は例年以上の出来と言ってよい。香り自体はまだ閉じ気味であったが、ミネラリーで果実の凝縮感が高い。熟度もしっかりとあり、酸も伸びがありしっかりとした主張をしている。


13.Chassagne Montrachet 1er Cru Dent de Chien 2012
ル・モンラッシェに隣接する僅か0.637haの区画。0.07ha所有。ダン・ド・シヤンとは『犬の歯』を意味する言葉で、とても小さい区画の為、そう名付けられたそうだ。

ジャスパー・モリスMW著「ブルゴーニュワイン大全」には次のように記載がある。

「大部分の小区画は岩がむき出しで、ブドウを植えることは不可能であり、低木地帯を開墾して植樹している。ブドウを植えているのは隅の2ヵ所で、R6号線に沿ったレ・ブランショ・ドゥスュの上部と、ル・モンラシェの上部。畑は東に延び、徐々にル・モンラシェへのみ込まれる。場所や立地条件が近いことから、シュヴァリエ・モンラシェと比べることもある。シャトー・ド・ラ・マルトロワ、コラン・ドレジェ、モレ・コフィネ、トマ・モレがここでワインを造る。

シャトー・ド・ラ・マルトロワのジャン・ピエール・コルニュによると、1936年の格付け以前は、ル・モンラシェの区画だったらしい。確かに、同シャトーのダン・ド・シヤンは、若いうちはモンラシェに比べ、かなり控えめだが、熟成により幅と奥行きが急激に広がる。

記述にあるように、以前はル・モンラッシェだった区画だ。この稀少な畑からは、モンラッシェ以上に稀少なワインが生まれる。飲めばここも特別な畑なのだと素直に感じる事だろう。

普段は2.5樽分(570リットル、760本)生産可能だが、2012年は少し大きめの樽(350リットル)で1樽のみの生産(約470本分)となった。大幅な収量減の為、古くからの付き合いのある個人客にも割り当てる事が難しくなったそうだ。我々のようなインポーター優先で割り当てるそうだが、数量は全く足りない模様。例年の高い品質は踏襲されていて、スタイルであるテンションを与えるワインに仕上がっている。


15.Puligny Montrachet 1er Cru Les Truffières 2012
南のトリュフィエールはシャンガンに隣接した区画と、そこから少し離れた、Hameau de Blagnyに隣接した北の区画があるが、トマ・モレは南側の区画に2ヵ所、合計0.25ha所有している。1952、1982年に植樹。2012年産は雹害が多く、通常なら7樽(約2,100本)の生産が見込まれるが、2012年は4樽(約1,200本)と大幅に減った。一切の妥協を捨て、完璧なものだけを選別したおかげでクオリティは高い。元々のブドウの収穫が少ない事もあって、選別をよりキメ細かく迅速にできた事が良かったのだろう。ワインはとても清らかで洗練されている。ファーストアタックの柔らかく熟度ある果実味、そしてミネラリーでエッヂの効いたシャープな酸とふくよかで焦点の定まった果実味など、バランスがとてもいい。ピュリニーのトップドメーヌと肩を並べる品質だ。シャサーニュの造り手だからと決して侮ってはいけない。素晴らしいワインだ。



地下セラーの壁にはカビは付き物で、どこのドメーヌにも壁や天井一面を覆っている。ほとんどのドメーヌはそのままらしいが、トマは年に一度はカビを掃除するそうだ。これにより微生物の適正な住環境を維持できるそうだ。


16.Bâtard Montrachet 2012
0.10ha所有。通常4.5樽(約1,350本)生産の所、2012年は僅か2樽(約600本)だけ生産されることとなった。
畑はChassagne側の区画に3ヵ所あり、そのひとつはル・モンラッシェに隣接している。2/3が1950年、残りは1964年植樹された。通常のバタールに感じられるリッチさにエレガントな質感が絶妙に加わった素晴らしいスタイル。入荷は本当に僅かだが、入手できるチャンスがあるのなら、迷わず購入をお勧めしたいアイテムのひとつ。

雹が降ってしまってからは人が何かを施して劇的に改善する事はまずない。自然に任せるしかない。風と太陽の熱が何よりもいい効果をもたらすのだ。風は畑から湿気を追いやり、それに太陽が当たる事によってブドウの樹などはその傷を癒すことができる。雹の後にさらに雨が続けばそこからカビが広がってもっと収量が減っていたそうだが、幸いなことに天気は好転し、量は減っても質の高いブドウは収穫できたようだ。

畑から離れた道によっては、洪水などもあり、道路が寸断され、トラックが通行できないなど、数年に1回しかない出来事が一年にまとめて降りかかるような年だったそうだ。

2012年は様々な困難があった年で、決して楽ではなかったが、決して乗り越えられないものでもなかったとトマは語る。

2005年や2009年などは畑で特別な仕事をしなくても質の高いブドウが採れた。平均以下の生産者も例年以上の質の高いブドウが容易く採れたのだ。
ただ2012年のような年は、本当に生産者毎の違いがはっきりと表れる。誤魔化しがきかないからだ。

我々は彼らの出来上がったワインでしか判断する事は出来ないが、この年の素晴らしいワインには並々ならぬ労力が注ぎ込まれていることを忘れてはならない。これは訪問する度に強く思う事だ。そのワインには例年以上の情熱が込められているからだ。生産者にとってワインは彼らの子供と同じ。それぞれに個性があり、いいところがたくさんあるのだ

年の全体評価だけで論じる時代は終わった。ヴィンテージチャートはひとつの目安でしかないからだ。
栽培法や醸造技術は年々進化している。ただそれは生産者によって大きく異なる。ヴィンテージだけで判断するのではなく、まずは優秀な生産者達のワインを自分の舌で確かめて頂きたい。生産者への最大限の敬意と感謝の気持ちを持って、天候だけで判断するようないい加減な評価などあてにしないで、フラットな気持ちで飲んで頂きたい。

余談だが、彼のドメーヌには国内外から多くの星付レストランのシェフやソムリエが訪れるそうだ。そこでは一流の舌を持つ者にしか分からない独特の感覚をトマ・モレとやりとりしている事だろう。
どの人も素晴らしいとトマは言うが、その中で、トマが一目置く存在があるという。それがあのミシェル・トロワグロだ。彼はブラインドでトマ・モレのワインを畑名まで正確に全て言い当てるそうだ。初めて飲む新ヴィンテージも含めてだ。一口でヴィンテージの個性を見極め、その年の畑の出来までも判断できるというのは、常人にできる事ではない。一緒に造っているような不思議な感覚もあるかもしれないねとトマは笑う。世の中には本当にすごい能力を持った人がいるのだ。そしてそのミシェル・トロワグロの研ぎ澄まされた感性を理解し、常人が計り知れない高みで会話ができるトマもまた天才なのだ。

[Domaine Robert SIRUGUE]

ドメーヌ・ロベール・シリュグ
5月17日(金) この日最初に訪れたのはVosne RomanéeにあるRobert Sirugue。水曜に訪問したMongeard Mugneretとは僅か200mほどの距離にある。両者の規模は違えど、共に良質なワインを造っている素晴らしいドメーヌだ。Robert Sirugueは近年、リアルワインガイドでの高い評価や、漫画 神の雫での十二使徒の内、第十の使徒に選ばれるなど、日本国内外でも人気の高い生産者になった。毎年、リリースしても瞬く間に完売してしまう程の人気でドメーヌの訪問依頼も世界中からひっきりなしにあるそうだ。

早速、いつものようにセラーで試飲する事となった。

1.Vosne Romanee 2012
リリースは2014年秋以降なので、ワインとしての評価は難しいが、とてもきれいな果実味があり、酸も清らかな印象。純粋なエキス分がしっかりとあり、リリースが楽しみなワイン。



2.Bourgogne Aligote 2011
日本未発売のキュヴェ。シリュグ家が元々所有していたVosne Romaneeの南側にある畑に1991年と1992年にかけて1haに植樹したそうだ。徐々に拡大をしているが、生産数は少なく、地元で消費されているそうだ。レモンやクレーム・ド・カシスに混ぜて飲んだりもするとても気軽なワインで、家飲みにぴったりなのだとか。もちろん、ワインとしての完成度も高く、アリゴテらしいキレのある酸と適度な熟度がとても均整が取れている。熟度が足りないと酸だけが目立つアリゴテが多いがきちんと良質な果実味も備わっている。残念ながら、ここ数年は収量が少ない年が続いているので、購入はさらに難しいが、次の豊作年のタイミングで何とか入荷させてみたいアイテム。



3.Bourgogne Passetoutgrain 2006
これもアリゴテと同じく未入荷のワイン。
ほぼ毎年造っているそうだが、飲み頃のものを地元のブティックで全て販売しているそうだ。2.5haの畑があり、8000本程度生産が可能。ガメイ比1/3。2006年はクラシックな年で、まだ飲むには早いそうで、まだリリースしていないが、少しタンニンが強いが徐々に角が取れ、飲みやすくなっているようだ。
飲み頃を見計らって、輸入させてみたら面白いアイテム。



4.Bourgogne Pinot Noir 2011
黒果実の豊かな香りに大地の香りや、鉄分、スパイスなどの要素が加わっている。ミネラリーで綺麗な黒果実の風味に満ちた、透明感のあるとてもよくできたワイン。酸、熟度もしっかりとあり、目も詰まっていて、高級感がある味わいで余韻も長い。2011年は長熟型の部類に入るが、タンニンの角はそれほどないので、少しこなれれば、おいしく飲むことができるだろう。



5.Ladoix “Buisson” 2011
元々、所有していたが、0.2haと小さな区画しか所有していなかった為、ローカルでだけ販売されていた。この所の世界的な需要の増加に少しでも応えるために少量ながら、国外にも輸出し始めた。日本へは2009年に初上陸し、今回で3回目のリリースとなる。

日本でも認知度の低いアペラシオンだが、口にすれば決して侮る事ができないワインであると感じずにはいられない。他のニュイのキュヴェに比べると一番の北側に位置するとは言え唯一のボーヌのワインは若いうちから柔らかで外交的なニュアンスが強い。



適度な濃さとエレガントさが際立つ秀逸なワインに仕上がっている。ブラックチェリーなどのよく熟した黒果実や大地香、そしてそれに付随する旨味に満ちた果実味と香ばしくとても洗練された上質な樽のニュアンスがバランスよく溶け込んでいる。

梗もよく熟しているからこそこの純粋で雑味のない味わいが現れているのだろう。3月に瓶詰して少し落ち着き始めている状態でこの味わいだ。リリースがとても楽しみなワイン。



6.Chambolle Musigny “Les Monbies” 2011
この畑も僅か0.3haしかない小区画で生産量も約1700本程度と極僅か。新樽の比率は年によって25%から80%程と他のシャンボールの生産者よりも比較的高い年もあるが、樽の使い方が実に上手いのがこのドメーヌの今日の成功の要因として考えられる。

純粋な果実味の持つエキスと新樽の持つ香ばしい要素が実に上手く溶け込んでいて、見事な調和を醸し出しているからだ。

複数の樽メーカーを併用し、同メーカーの樽でも数種類の細かな調整をリクエストした樽を使用しているので、キュヴェの特性に合わせた絶妙な味わいを表現する事が出来るのだ。キュヴェ毎に新樽の比率を変える事はどこでもしているが、アペラシオンの特性に合わせた樽をここまで細かく調整している生産者はそれほど多くはないだろう。

ミネラリーで適度な洗練された肉付き、芯がしっかりとある。エレガントなシャンボールらしさを備えつつ、シリュグらしいツヤと高貴さが感じられる。

そして単に女性的なシャンボールではなく、強く自立した女性の強さもニュアンスも加わっている。拠点とするヴォーヌ・ロマネの力強さとシャンボール村の本来持っている特徴である女性らしさ、その両者の長所を巧みにワインに取り入れているようにも感じる。まるで、これを造っているマリー・フランスそのもののようだ。

現時点では香りはやや閉じ気味で、炭っぽいニュアンスがあるが、シルキーで柔らかく、継ぎ目のない高い質感は、はっきりと感じる事が出来る。これも例年3月から4月に瓶詰を終える。



7.Vosne Romanee 2011
4haの区画(Aux Reas, Aux Communes, Les Barreaux, Les Chalandins, Les Jacquines, Vigneux,等があり、Vosne Romanee村に幅広く点在している。平均した樹齢は約45年。このうちのLes BarreauxはあのCros ParantouxとLes Petit Montsに隣接した村名畑。丘の上にあり、その下の中腹にクロ・パラントゥの畑が広がる。北東を向いてはいるが、ブドウはとてもよく熟し、適度な酸が得られる。風通しがいいからであろう、カビの影響を受けたことはないそうだ。

ジャスパー・モリスMW著 ブルゴーニュワイン大全によれば、表土は鉄分などが豊富に含まれている畑で、下層は大理石が占めているそうだ。土壌のphが低いそうで、濃い色合いのワインができる。アンリ・ジャイエのACヴォーヌ・ロマネにはこのLes Barreauxのブドウが含まれていたそうだ。その区画の葡萄は今、メオ・カミュゼの村名ワインのバックボーンになっているとの事だ。

シリュグでもここの区画のブドウが核になっているようだ。さわやかですっきりとした雑味のない新鮮な赤黒系果実の熟したエキスにスミレやヴォーヌ・ロマネ特有のスパイスの香りやオークのニュアンスがうまく溶け込んでいる。飲み心地が良く、これまでのシリュグファンを十分に納得させてくれる素晴らしい造りだ。


8.Vosne Romanée Vieille Vignes 2011
毎年、リリースされるわけではない特別なキュヴェ。生産された2010年は低収量の為、生産されなかった為、2009年以来のリリースとなる。生産されない年のVV区画からのワインは村名にブレンドされる。
やや香りは閉じ気味だが、赤黒系果実の熟した甘い香りにスミレや牡丹、トーストしたオーク、西洋ワサビ、ペッパー、砕いた岩などの香りが感じられる。まだ硬さはあるが、ピュアなエキスと他要素とのバランスが良く、焦点の定まった核がしっかりとあり、重厚な肉付きと、きれいな輪郭は特筆すべきものがある。4,5年ぐらいから飲んでもいい時期になるのではないかと思われる。


ここで朗報。
ジャン・ルイ・シリュグの27才になる長男アルノーがドメーヌ ミシェル・ノエラの娘と結婚するそうだ。ミシェル・ノエラといえばSirugue同様にVosne Romaneeを拠点とするドメーヌ。所有している畑は以下の通り。


《Grand Cru》
Clos de Vougeot
Echezeaux

《Premiers Cru》
Vosne Romanee “les Suchots”
Vosne Romanee “les Chaumes”  
Vosne Romanee “Beaux Monts”
Morey Saint Denis “les Sorbes”
Chambolle Musigny “les Noirots”
Nuits Saint Georges “les Boudots”

《Village》
Marsannay la Cote
Fixin
Morey Saint Denis
Chambolle Musigny
Vosne Romanee
Nuits Saint Georges

いつの日か、Sirugue名義のEchezeauxやClos de Vougeot、Suchotsなどがリリースされるかもしれない。



右がジャン・ルイ・シリュグの長男アルノー



9.Vosne Romanée 1er Cru Les Petit Monts 2011
前出の2つのVosne Romaneeに比べ、香りが感じやすい。固さもそれほどなく、外交的な印象。100%近い新樽比だが、ヴァニリンな樽のニュアンスとタンニンがうまく溶け込んでいて、とてもバランスがいい。純粋で透明感があり、口にするものすべてを虜にしてしまう魔力を秘めたワインに仕上がっている。

ドメーヌでは除梗器などの必需品はかなりいいものを使っているそうだ。梗を傷つけず、果実だけを的確に取り出せるおかげで、品質は格段に向上したと言う。いくつか他の生産者の除梗した梗や実を見たが、ともに潰れている事が多いそうだ。これではワインに余計な苦みや雑味が加わってしまう。使用している除梗器を勧めてもかなり高額なので、生産者の反応はあまり良くないそうだが、ブルゴーニュの質の底上げに少しでも助けになればとセールスマンのように説く事もあるようだ。最近、さらに新しい除梗器がリリースされ、それも購入を前向きに検討しているそうだ。特に後継者であるジャン・ルイ・シリュグの息子は購入に積極的だ。すべて除梗すると複雑味に欠けるので、除梗しない分は25~30%が含まれる。

10.Grand Échézéaux 2011
グラスに注ぐとこれまでのキュヴェとは比較にならない程素晴らしい香りを放つ。数メートル離れていても、その違いが分かるほどだ。100%新樽で仕込まれ、上質なヴァニラやトースティな品のある香りに、鮮烈なダークベリー、スパイス、甘草、スミレ、牡丹などの気品溢れる香りが絶妙に溶け込んでいる。所有区画はグラン・エシェゾー所有者の中でも最小の僅か0.13ha。樹齢は80年を超えており、そのおかげか、複雑さは抜群で、口当たりはシルキーで、味わいはフィネスとエレガントの極み。ストラクチャーはしっかりしているが決して固くない。ピジャージュをソフトに行う事により、シルキーで目の詰まった質感が生まれるようだ。2011年を代表する素晴らしい1本。

近年の高評価は硬く飲み頃になるまで何十年も寝かせないと開いてこないようなクラシックな造りから、若いうちからでもしなやかで柔らかく飲み心地のいいワインへと変貌したからに他ならない。
これはピジャージュの数を減らしてエクストラクションを少なくしたことが味わいに大きな変化をもたらした一番の要因だとマリー・フランスは言う。もちろん、最新の除梗器や選別台、新樽の細かな調整などの様々な事もその一因となっている。収穫もまだ陽も明けきらないような時間から始める。暑くなる前に収穫し、果実のダメージを最小限にする為だ。こういった事のひとつひとつの積み重ねが、今日の素晴らしい成功につながっているのだ。


11.Grand Échézéaux 1991
最後にマリー・フランスはブラインドでこのワインのコルクを抜いてくれた。プライベートセラーの中でも彼女がお気に入りのワインだと言う。熟成香は上品な枯葉やシャンピニヨンなどの要素がきれいに現れている。タンニンは柔らかく角が取れ、液体に溶け込んでいる。20年以上経っても、まだ生き生きしており、果実味がはっきりと残っている。本当に美しいワインだ。

1991年自体、ブルゴーニュでは平均もしくは、それよりも評価的にはやや低く位置づけられているが、これを飲めば、全体的なヴィンテージチャートはあまりあてにはならないものだと改めて感じる事ができる。

年の出来を全てに当てはめるのは意味がなく、生産者毎に見極めるべきなのだが、未だに年だけで多くの生産者が評価されているのは残念でならない。彼女はテロワールの持つポテンシャルが十二分に引き出された傑作だと嬉しそうに話してくれたが、その意見に少しの反論もない。本当に素晴らしいワインだ。

彼女はそれぞれのヴィンテージにはそれぞれの個性があり、それは子供と同じことなのよと話してくれた。
だから毎年違うものが生まれるし、工業製品ではないから、同じものなんて、二度と生まれる事はないわと続けた。その年の長所を少しでも伸ばしてあげるという、子育てのようなワイン造りはこのドメーヌの根幹にあるものかもしれないと彼女は言っていた。

2011年の特徴は、果実味がしっかりとありながらも、エレガント。フィネスとエレガンス、そしてタンニンも柔らかくとても美しいエキスを感じる事が出来る。酸度も良好で、調和が取れている。マリー自身もこの時点ではどの年に似ているかは判断が難しいそうだが、2010年に匹敵する高い質感とより外交的なニュアンスはさらに多くのファンを獲得するだろうと確信している。


ランチまで時間があったので、シャンボール・ミュジニーの畑を抜ける122号線を車で走った。畑がなくなるとすぐに森になり、高い木々に囲まれた山道を行く。

山肌には石灰岩などが、むき出しになっている所もあり、地層がはっきりと見て取れ、これらが畑のすぐ下にも延々とあるのかと思わせてくれる。
しばらく行くと木々はなくなり、一面には突然、平原が広がる。

平原には鮮やかに光り輝く菜の花が満開だった。見渡す限り、生命力に溢れた力強い黄色で埋め尽くされている光景は、この世のものとは思えない程、美しく感動的なものだった。


ランチはChambolle Musignyにあるフレンチ・レストラン “Le Millésime”。ここはJ.F.Mugnierの目の前にある名店。モダンでスタイリッシュな内装とマッチした洗練された素晴らしい料理の数々。どれもクオリティが高く、満足度は高い。ワインリストと壁面一面に備えられたワインセラーの中の稀少ワインの数々を眺めるだけでも十分に楽しめる。







Restaurant "Le Millésime"
1 rue Traversiere, 21220 Chambolle-Musigny,
TEL: +33 (0)380628037


ランチの後は、レストラン周辺を散策。
地元の教会などを当てもなく、散歩していたら、巨大な菩提樹があったので、近づいてみるとその前に立札があった。それにはTilleul(西洋菩提樹) アンリ4世統治中(1575-1610)に植樹。高さ17.5m、最大円周8.7mと書いてあった。400年以上前に植樹され、この土地で起こった全ての事を見てきたご神木なのだ。周辺にはぴんと張りつめた空気が漂い、荘厳な雰囲気に包まれている。




Google地図座標: 47.185002,4.951891



夜はホテル近くにある日本料理屋 媚竈 (Bissohびそう)で、久しぶりに日本食を頂いた。生産者のファンも多い名店で、料理はもちろんおいしく、ワインリストはとても見応えがある。日本人の澤畠夫妻が経営されているので、本物の日本料理が楽しめるのが魅力だ。

ご存知のようにフランスでは日本料理はとても人気が高い。旬の素材本来の味わいを巧みに引き出し、見た目も鮮やかで五感を楽しませてくれるからだ。フランス料理に共通する要素が多いからかもしれない。それに加え、昨今の健康志向もあり、その人気は衰える事はなく、むしろ需要は高まっているようだ。各地で店は年々増えているそうだが、未だありえない日本料理が多いのも確かだ。現地の人たちの為に用にアレンジされた味わいかもしれないが、たいていは我々日本人にとっては食べられたものではない。

大体そういった店は寿司と焼き鳥がセットになったメニューがあり、寿司は握り飯のように固く、時々酢飯でさえない時もある。焼き鳥はテリヤキ味で歯が痛くなるほど甘い。こういった時、大抵の店の厨房には日本人ではないアジア人が板前の格好でいることが多い。これを日本食だと信じている人達は本当に多いようだ。これではいけないとパリなどでは本物の日本料理を出す店のガイドマップなどを作成するなど頑張っているようだが、認知には時間がかかるそうだ。

この日はワインよりもビールや日本酒など他のものが飲みたかったので、それらと一緒においしい寿司や天ぷらなどを堪能した。この店を訪れるのは、おいしいからということもあるが、自分が日本人であるという当たり前のことを確認できる、とても貴重な体験をできるからでもある。







Restaurant BISSOH
1a rue du Faubourg St-Jacques
21200 BEAUNE,FRANCE
Tel (03) 80 24 99 50
http://www.bissoh.com/

[Domaine Mongeard MUGNERET]

ドメーヌ・モンジャール・ミュニュレ

Chambolle MusignyからVosne Romaneeへ南下し、この日最後の訪問先モンジャール・ミュニュレに到着したのは16:00。昨年の訪問ではドメーヌの都合で来る事ができなかったので、久しぶりの訪問となった。

出迎えてくれたのは、当主ヴァンサン・モンジャール氏と夫人。そして初めて会う30代ぐらいの男性。聞けば、ヴァンサン夫妻の三女ジュスティーヌの夫だそうだ。そしてこの娘婿アレクサンドル・カルミナティ氏こそが息子のいなかったモンジャール家の正式な跡取りとなるらしい。ブルゴーニュでも数本の指に入る偉大なドメーヌを引き継ぐという、とんでもなく大きなものを背負う覚悟をした男なのだ。今後、ヴァンサン氏の下でドメーヌ後継者として、そしてブルゴーニュの今後を牽引していくなどの全てを学ぶのだろう。



いつもどおり、ドメーヌのテイスティングルームで試飲する事となった。ワインはいつも通り、樽から試飲用に瓶に移したものを試飲した。


1.Bourgogne Grand Ordinaire “La Superbe” 2011
1.306ha所有。樹齢30年。除梗100%。フードル熟成。ピノノワールが3割程度、残りはガメイからなるキュヴェ。鮮やかで輝きのあるルージュで、香り立ちもチャーミングで親しみやすい。酸もしっかりとあるが、果実の熟度もあり、バランスが取れている。全体的にはグラン・オルディネールらしい軽く飲みやすいスタイルとなっている。




2.Marsannay “Le Clos du Roy” Blanc 2011
僅か41アールほどの区画からは毎年素晴らしいワインを生み出すことで知られている。甘く熟した香り、円みとしっかりとしたミネラル感は特筆すべきもの。ハニーやヴァニラの要素がワインに品と奥行きを与えていて将来性を感じるが、現時点でも楽しめる。1.級になっても何の疑いもない程の高い品質。

2010年産からクレマン・ド・ブルゴーニュを造る予定だったそうだ。しかしながら、前年から大幅な低収量に終わり、造る事が出来なかった。続く2011年もできず、恐らく2012年産も難しいのではないかと考えているようだ。2013年産にはできればいいがと考えているとの事。実現できればとても楽しみだ。


3.Bourgonge Pinot Noir 2011
2.52ha所有、樹齢28年〜55年。除梗100%。Vosne Romanee 、Flagey Echezeaux,Vougeot村にある区画からのブドウが使われている。香りはこの時点では、やや閉じ気味だが、柔らかく果実味豊かで飲みやすいスタイルに仕上がっている。エレガントさも十分に備わっており、とても丁寧に造られている事がうかがえるワインだ。



4.Bourgogne Haute-Cotes de Nuits Rouge“Les Dames Huguettes” 2011
平均樹齢35年。所有面積2.36ha。132hl程度生産予定。この畑は2008年に購入したもので、Les Dames Huguettesとはリュー・ディ名。その昔、ニュイ・サン・ジョルジュだったが、格下げされてHautes Cotesになり、リュー・ディ名だけ残ったそうだ。濃密で熟した香りがあり、エレガントできれいな果実味が印象的なワイン。毎年、高いクオリティのブドウが採れるそうで、年々良くなってきているとの事。後出のLa Croixと比較するとこちらの方が女性的なニュアンスが強く感じられる。


5.Hautes Cotes Nuits Rouge “LaCroix” 2011
ラ・クロワというリュー・ディを1.1706ha所有。樹齢は約50年。除梗100%。2年樽で熟成。果実味豊かで継ぎ目がなく、バランスが良く、とてもうまくまとまった秀逸なワインに仕上がっている。男性的でストラクチャーがしっかりとしており、前出の女性的なユゲットとは対照的なスタイル。ヴァンサン自身はストラクチャーのしっかりとしたワインを好むようだ。バーベキューでビーフの骨付き肉と合わせるのが特にお気に入りだそうだ。


6.Fixin 2011
1.5789ha所有。北と南に2ヵ所所有している。南の区画は後出のFondemensに隣接している。樹齢40年。除梗100%。新樽比10%。とてもよくできているキュヴェで熟度、酸とのバランスがよく、甘みが強く、しなやか。バラ、ブラックチェリーなどの濃縮した品のある香り。ジュヴレの1級のようなストラクチャーと力強さを備えている。飲み心地が良く、コストパフォーマンスに優れている。ここも毎年安定して高い品質のブドウができるそうだ。




7.Fixin “Les Fondemens”2011
0.42ha所有。樹齢55年。新樽比10%。
このキュヴェは一部除梗していないそうだ。年によって判断されるが、茎まで熟していないと青臭さが出てくるが、十分に熟していると判断され、一部除梗されない房が仕込まれた。除梗しないものが入る事によって、ボルドーのように赤ピーマンなどの要素が加わりさらに複雑な要素が加わるそうだ。前出のヴィラージュよりさらにしっかりとした果実味と酸が際立ちスケール感を感じる。クラシックなスタイル。



8.Savigny les Beaune 1er Cru Les Narbantons 2011
1.3704ha所有。樹齢53年。新樽比30-40%。
甘みが感じやすく、しなやかで大らかな印象。比較的、早い段階から楽しめるだろう。スミレ、フランボワーズなどの豊かな芳香と濃厚で濃密な果実味は多くの人を惹きつけるだろう。



9.Vosne Romanée 2011
2.0196ha所有。樹齢35-72年。新樽比30-40%。
新樽由来のヴァニラ香と果実の甘い香りが高いレベルで混ざり合い共存している。骨格がきちんとあり、品の良いしっかりとした酸も備わっていて、熟成のポテンシャルも十分に感じさせるものとなっている。



10.Chambolle Musigny 2011
30.98a所有。樹齢35年。新樽比25%。
熟度が高く甘くうっとりするような芳香。しなやかで継ぎ目がなく、ひたすらエレガントな印象。柔らかで繊細さもありながら、芯のしっかり通ったワイン。シャンボールの良さをとても上手く引き出している。


11.Gevrey Chambertin 2011
38.30a所有。樹齢40年。新樽比25%。
熟度由来の濃厚な甘みとバランスの取れた酸、そしてエレガントなミネラル感が際立つ。

ドメーヌではエフィヤージュ(葉を落として陽を当てる作業)をあまり行わないそうだ。やるとしても北向きの区画だけ行うが、それはオイディウムなどのカビを防止するためのもので、風通しをよくする為に行われる。葉を取り過ぎると、糖が十分に得られないからエフィヤージュを行う事は、他のドメーヌより少ないのだと言う。




12.Vosne Romanée “Les Mazieres Hautes” 2011
24.97a所有。樹齢72年。新樽比30-40%。
ドメーヌでは基本的に除梗は行われるが、例外的に除梗されないキュヴェもある。このキュヴェは除梗されなかった。除梗は年によって、またキュヴェによってその都度判断されるが、梗が熟しているかどうかで決められる。熟していない梗も一緒に仕込むと、ワインは青臭くなり、凡庸で面白みに欠けるワインとなるが、しっかりと熟した梗を仕込むとボルドーのような赤ピーマン、炭、鉛筆などのニュアンスが加わり、複雑さと奥行きが備わるそうだ。2010年産も除梗しなかったキュヴェも多少あったそうだ。




13.Nuits Saint Georges “Les Plateaux” 2011
69.62a所有。樹齢45年。新樽比30-40%。
このキュヴェも力強い酒質に、しっかりとした熟度と甘みがある。リッチでもあり、エレガント。新樽由来のヴァニリンな要素がうまく果実に溶け込んでいる。




14.Vosne Romanée 1er Cru Les Orveaux 2011
1.0839ha所有。樹齢25-52年。新樽比30-40%。
品のいい香りと、たっぷりとした甘みがあり、柔らかく、しなやかで継ぎ目のないシルキーな果実味。酸も十分にあり、とてもバランスがいい。リッチでゴージャスな一面もある。深みと複雑味は秀逸。



15.Vougeot 1er Cru Les Cras 2011
55.82a所有。樹齢35年。新樽比30-40%。
前出のOrveauxよりは、甘みの度合いは強くはないが、よりエレガントでミネラリーな印象。香り高く、骨格のしっかりとしたワインで熟成が楽しみなワイン。
16.Pernand Vergeless 1er Cru Les Vergeless 2011
75.02a所有。樹齢40年。新樽比40%。
これも他キュヴェ同様に熟度が高く、しなやか。エキス分が幾分力強く感じられ、濃縮感が高いが、酸もしっかりとある為、エレガントでミネラリーさも備わっている。




17.Clos de Vougeot 2011
62.59a所有。樹齢40-68年。新樽比100%。
黒果実の熟した豊かな香りの中に赤ピーマンや炭、磯の香などがほのかに感じられる。除梗していないものが幾らか含まれているようだ。樹齢が古いものはブドウの粒自体が小さい為、全て除梗する事は難しいそうだ。



18.Echexeaux 2011
1.7614ha所有。樹齢25-60年。新樽比50-60%。
この年は100%除梗された。年によっては25%梗を残したりもするようだ。2011年産は華やかで豪華なアロマが特に印象的。濃縮度が高く、リッチで力強いが洗練されたミネラル感にも溢れ、きめ細かいタンニンはしなやかでとても飲み心地がいい。ている。核がしっかりとあり、骨格や肉付きもやはりグランクリュとしての要素をはっきりと感じさせる。


そして、ニュース。ドメーヌのグランクリュの中でも特に人気の高かったEchezeaux Vieille Vigneが2011年産を持ってリリースが一旦終わる事となった。

何故なら、このVielle Vigneの区画をオスピスに寄進したからだ。Echezeaux Vieille Vigneに替わるキュヴェとして、2012年産から新たにEchezeaux “Grand Complication”(エシェゾー グランド・コンプリケーション)というキュヴェがリリースされるそうだ。

グランド・コンプリケーションとは、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフなどのいわゆる時計の4大機構である超複雑機構を、複数搭載した腕時計の総称で、複雑な味わいが絡み合うモンジャール・ミュニュレの新たなエシェゾーを表現するのに最適であることから採用された。



マリー・アントワネットが天才時計職人A・ルイ・ブレゲに依頼したのもグランド・コンプリケーションのひとつ。

このワインは現当主ヴァンサンの父が1945年に植樹した区画から造られる。最後のEchezeaux Vieille Vigneと、新しいキュヴェ Echezeaux “Grand Complication”ともにリリースが楽しみだ。
Echezeaux V.Vは、今回未試飲。

モンジャール・ミュニュレはDRCに次ぐ大所有者であり、その面積は2.6haに及ぶ。細かく言えば、その中でも3つのリュー・ディに分類される。アペラシオンでも最下部に位置するレ・トゥルーの区画は肉付きが良く、豊満ではあるが、複雑さやエレガントさに欠けるそうだ。そこでヴァンサンはそのブドウを他の区画のものをブレンドはしないで、輸出先の嗜好に合わせ、この区画からのブドウは全てアメリカ向けのECHEZEAUXとしてリリースしている。アメリカに旅する事があれば、購入してその違いを是非とも試して頂きたい。

そして日本やフランスを含む、その他の国に対してはエシェゾー デュ・デュシュという名のリュー・ディのブドウが使われる。この区画は前出のレ・トゥルーに比べ、緻密な構成を備え、よりエレガントなスタイルのブドウができるそうだ。マーケットを熟知し、理解した上で、的確な判断を下している事が今日の成功につながっているのだろう。



19.Grands Echezeaux 2011
1.3248ha所有。樹齢40-68年。新樽比100%。
この区画は前出のリュー・ディ、レ・トゥルーと同じアペラシオン最下部にある区画でありながら、全く異質のキャラクターのブドウが採れるそうだ。表土はレ・トゥルーが1m以上あるのに対して、Grands Echezeauxの区画の表土は30cm程しかなく、硬く堅牢なスタイルのワインになるそうだ。テイスティングして、まず感じるのは、まだ開いていな果実味の中に、赤ピーマンや磯、炭、鉛筆等の要素が感じ取れる。これも除梗していない分が半分ぐらい含まれているようだ。これがワインの骨格となって、よりスケールを大きなものにしてくれているのだろう。現時点ではやや乾いたタンニンがあり、香りは閉じて硬さがみられるが、備えている要素は豊富で、力強さがうかがえる。2011年を代表する長熟型となるだろう。


20.Richebourg 2011
31.12a所有。樹齢40-60年。新樽比100%。
これも除梗していないブドウの多くが含まれているようだ。煮詰めたような黒系果実のインパクトのある豊かな香り立ち。男性的で力強く、キメ細かいがしっかりとしたタンニンもはっきり主張してくる。ミネラリーでエレガントさも十分に感じられる。ヴァンサン曰く、15年ぐらいは寝かせたいワインとの事。少量しか入荷しない稀少なキュヴェだが、手に入れるチャンスがあるのであれば迷わず購入をおすすめしたい1本。

最後にMongeard Mugneret の2011年産は、とてもいい。2009年のようにニューワールドかと見紛う程、クドいぐらいの高い熟度があるわけでもなく、熟度はあるが適度で、酸が清らかな分、とてもエレガント。2010年ほどグレートではないかもしれないが、比較的早い段階から、楽しむのであれば、2011年の方が多くの飲み手を満足させてくれるに違いない。正直、2010年が飲み頃になるには、15年以上先の話だ。その点、2011年はしっかりとグレートヴィンテージと肩を並べるだけの要素を備えている。エレガントであり、ミネラリーでブルゴーニュのあるべき姿が感じられるのだ。そしてブルゴーニュの王道とも言うべき、味わいを、どのアペラシオンでも的確に表現できるモンジャールは数少ない優良生産者のひとつだ。これほど幅広いアペラシオンのテロワールを理解し、そしてヴィンテージの長所や個性を巧みに引き出してしまう、その凄さこそが、このドメーヌの最大の魅力なのだ。

2011年の試飲を終えた後、ヴァンサンが、おもむろにセラーから持ち出した数年間熟成させたであろうワインのコルクを抜いてくれた。ブラインドであれこれと意見を述べ合ったが、開けてくれたのはRichebourg 1998だった。まだ溌剌としたフレッシュさのある香りを残しながらも、熟成したグランヴァンのピノ特有の枯葉、醤油、ヨード、磯、下草、ややシナモンなどの品のある熟成香がワインに溶け込んでいる。柔らかく複雑味があり、しっとりと包み込んでくるような美しい液体。鼻をいつまでもくすぐり続けるとても長い余韻。ようやく飲み頃になってきたようだ。





この日の訪問は、これで全て終え、Beauneへ戻り、常宿であるHotel Ibis Beaune Centreにチェックインした。ボーヌ市街中心やカルフール等も徒歩圏内。またBeauneで本格的な日本料理が味わえる 媚竈 (Bissohびそう)がすぐ近くにあるのもとても便利。
朝食がとても質素なのとクリーニングサービスがないが、Beauneの他のホテルに比べ、リーズナブルで相対的にはいいホテル。


Hotel Ibis Beaune Centre
7 Rue Henry Dunant21200 BEAUNE
Tel:(+33)3/80227567
http://www.ibis.com/fr/hotel-1363-ibis-beaune-centre/index.shtml

[Domaine Andre BONHOMME]

ドメーヌ・アンドレ・ボノム

出迎えてくれたのは、当主エリック・パルテ氏と息子で醸造責任者であるオレリアン・パルテ氏。
早速、建築家でもあったエリック・パルテが改装したセラーのテイスティングルームで新しいワインの試飲をする事となった。

最初に、2013年に関して話してくれた。2013年は冬が例年に比べ長く、5月の時点では3週間ほど遅れているそうだ。ただ天気がいい日が多いので、よくなるのではないかと予測しているそうだ。

オレリアンの代になってからのドメーヌは以前にも増して意欲的だ。少量ながら新しいキュヴェを造り始め、樹齢100年を超える区画からのブドウだけで造ったVire Clesse Les Pretres de “Quintaine”(ヴィレ・クレッセ レ・プレトル・ド・カンテーヌ)は、とても好評で完売後も問い合わせが多いアイテムのひとつでもある。
そこに新たなキュヴェがひとつ加えられる事となった。前回の訪問時にはさらに別のキュヴェの構想もあったようだが、今回はひとつに絞ったそうだ。まずは泡から試飲を始めた。


1.Cremant de Bourgogne 2009
2009年は彼らにとっても、素晴らしく印象深い年になったそうだ。熟度が高く、ミネラリーで、濃縮感が高いが、産に伸びがあり、きめ細かくクリーミーな泡立ち、そしてエレガントさも備えている見事な造りだ。ドサージュは1.5g~2.0gで、瓶熟は36カ月と毎年少しずつ長くなっているようだ。

他のクレマンと比べても異様に長い3年もの瓶熟はワインをよりクリーミーで複雑味のある味わいに変貌させている。毎年少しずつ長くなる瓶熟の期間はその効果が如実に表れているからこその改良点だ。もはや、下手なシャンパーニュと比べてしまう事さえ、悪い気がしてくる。それほど完成された味わいだ。
1/3を古樽で樽熟、2/3をステンレスタンクで寝かされ、1年後に大タンクでアッサンブラージュ。そこで6か月寝かされ、瓶詰して3年寝かされる。

シャンパーニュ製法で造られる為、とても細やかで深みのあるクリーミーな泡立ちとなる。ドザージュはマコンのヴァンダンジュ・タルディヴが使われるなどこの価格では他を圧倒する力を注いでいる。ちなみにこのヴァンダンジュダルディヴは1976年産が使われており、1本で約30本分のドサージュに使われているそうだ。4年ほど前に10年の沈黙を破り復活したキュヴェだが、ドメーヌの新しい顔になっていて、リリース直後には完売しているそうだ。

クレマンはやはりミレジメで造りたいそうで、その高いクオリティは市場も十分に評価している。シャンパーニュ程の莫大な規模を造ることは到底できないので、少量でも品質だけはシャンパーニュ以上のものを造ってやろうという意気込みが、ひしひしと伝わってくるワインだ。2009年産からKRUGのような特殊な瓶形に戻したそうだが、米国では、売り辛いのか、2008年産のような通常のシャンパンと同じ瓶形で造っているそうだ。ドメーヌのポリシーは決して崩すことはしないが、それぞれの国の文化や嗜好を柔軟に理解し、ニーズに対応できるというのは素晴らしい事だ。



2.Vire Clesse Tradition “Les Pierre Blanche 2011
従来のヴィレ・クレッセ(J.V)の名称変更。石灰の多い土壌でミネラル感に富んだワインが出来る事から新たに”レ・ピエール・ブランシュ”の名を表ラベルに表記することにしたそうだ。100%ステンレスタンクで造られる。これまでJugne Vignes(ジューニュ・ヴィーニュ/若樹)として販売してきたが、既に樹齢は30年を超えている為、V.Vの域に達してきた。造り方等は全く変わっていないが、樹齢が古くなることで、ブドウに深みが年々増しているそうだ。18か月間ステンレスタンク熟成。

2011年はクラシックな年で、力強い花の香りがあり、果実味がきれいで、酸が柔らかくミネラリーな仕上がりとなっている。2010年産よりも酸が穏やかな印象で、バランスの取れたコストパフォーマンスに優れたワイン。3月に瓶詰。コストパフォーマンスに優れており、グランヴァン・ド・フランスで2つメダルを取ったそうだ。


3.Vire Clesse Vieille Vignes 2010
フランスではCuvee Specialとして販売されている。オーク樽とステンレスタンクを併用し24カ月熟成される。2010年も、とても素晴らしい年であり、量が少ないながらも、質の高さは特筆すべきものがある。酸がしっかりしていながら、濃厚で粘性が高く、ねっとりとしており、ムルソーのプルミエ・クリュを思わせる。実際、オレリアンはニュイではなく、ボーヌのスタイルを意識しているようだ。また他の生産者のVireは花の香りが強いが、ストラクチャーが備わっておらず、単に若く飲まれる事が多い。オレリアンのワインはVireのレベルを優に超えているので、ストラクチャーとミネラル、酸、果実味などが高いレベルで渾然一体となっている為、今飲んでも楽しめるが熟成のポテンシャルを備えている、将来がとても楽しみなワインだ。



4.Vire Clesse Hors Classe 2010
樹齢は90年を超える特別な区画で造られる。60%は樽熟(15%新樽、45%古樽)で残りはステンレスタンクが使用される。V.Vよりもさらにミネラリーで濃密か果実味は2010年もしっかりと感じられる。ハニー、レモン、ハーブ、ヴァニラ、シトラス、白桃、白い花などで品よく構成された豊かな香り立ち。酸もしっかりあるが、伸びがあり綺麗。そしてミネラリーで柔らかく濃厚。余韻も長く、洗練されており、長熟型の素晴らしいワイン。


5. Vire Clesse “Les Pretres de “Quintaine” 2010
VireとClesse村の中間にあるQuintaine(カンテーヌ)村キュヴェ名はカンテーヌ村の司祭の意を持つ。区画が礼拝堂に面した日当たりのよい樹齢90年を超える区画にあり、司祭の名の下にあるということから名付けられた。オレリアンが醸造を担当する事になり、テロワールの特異性から新たに別キュヴェとして造られることとなった限定品。年産は2000本程度だが、2010年は極端に収量が減ってしまった。日本へ入荷は前年の1/10以下になる稀少なキュヴェとなった。樽で24ヵ月熟成させ、その内、30%は新樽を使用している。濃厚であり、とてもミネラリー、酸も力強く、上質なムルソープルミエクリュを思わせる。



6. Vire Clesse “LesCoteau de l’Epinet” 2010
新たにリリースする事となったドメーヌ最上位キュヴェ。樹齢は90~95年(1923年頃植樹)僅か10畝のみの樹から生まれる。赤粘土質土壌。600リットルほど生産が可能で、2010年は800本生産された。これは稀少性を表すために表ラベルにも記載されている。重量ボトルに瓶詰めされ、黄色い蝋キャップでシールされている特別なキュヴェだ。前出のプレトル・ド・カンテーヌと同じ醸造法ながら、カンテーヌよりもさらに濃密で粘性のある液体を表現している。パワフルでリッチであり、酸も伸びやかで洗練されている。どこかコルトン・シャルルマーニュを思わせる気品のあるスタイル。樽熟24カ月。新樽比30%。



カンテーヌや通常ラベルとも趣の違うデザインとなる。一目で特別なキュヴェであると分かるキュヴェだ。



7. Vire Clesse “Success D’Automne” 2006
秋の成功と名付けられた特別に良い年だけに作られる稀少なヴァンダンジュ・タルディヴ。樽熟の為、ややオレンジがかったとろみのあるたっぷりとした甘さを備えたワインで良く熟した黄色いフルーツ、蜂蜜、マルメロの香りなどが印象的。フォワグラやデザート、濃厚なチーズやドライイチヂクなどと合わせやすいワイン。


アンドレ・ボノムはオレリアンの代になって確実にそして急激に品質が向上した。先代と比較するとヴィンテージの良し悪しに関わらず、年々、高みへ上って成長しているように感じる。祖父や父から教わった事を理解した上で、決して守りに入らず、新しい試みを常に模索し、それを実践している。闇雲にトライするのではなく、きちんとした理論も伴っている。これは最新の醸造学をしっかりと学び身に着けているからだ。また親交のあるラモネ、コシュデュリ、ボノー・デュ・マルトレイや同世代の若く熱意に満ちた生産者からの刺激も受けているのだろう。とにかくアンドレ・ボノムの未来は明るい。今後さらに飛躍していく事だろう。




ランチはニュイ・サン・ジョルジュにある名店”LA CABOTTE”へ。色とりどりの旬の野菜や様々な食材の本来の味を上品に引出したとてもいいレストラン。見た目も美しく、一皿毎にテーマの異なる絵画のようだ。それに加え、日本食のような素材の旨味を堪能できるモダンで洗練された見事な味付け。小さい店ながら、この味を求めて遠くから来る人が多いのも頷ける。観光客だけでなく、地元の人もよく足を運ぶ本当の意味での名店だ。シェフはワイン生産者と交流が深く、ワインリストも充実しているのも魅力で価格はとても良心的。著名なワイン生産者もよく訪れるようだ。思いがけない大物に出会えるかもしれない。

ワインはPIERRE YVES COLIN-MOREY Chassagne Montrachet 1er Cru La Maltroie 2010を頂いた。ランチなので控えめにハーフサイズ。フレッシュで伸びのある酸とミネラリーでピュアな印象のワイン。









RESTAURANT LA CABOTTE
24,Grande Rue 21700 Nuits-saint-georges
Tel:03 80 61 20 77
http://www.restaurantlacabotte.fr/

[Domaine de la JANASSE]

ドメーヌ・ド・ラ・ジャナス

5月14日(火) この日の訪問先であるJanasseについたのは9時過ぎだった。出迎えてくれたのは、サボン氏の妹イザベル氏。サボン氏は、トラクターが故障したからと、急ぎで修理に行ったそうだ。日々の仕事は細かく決まっていて、そこに重要な機械が故障などすれば予定が狂ってしまう。些細な事でも、日々の積み重ねが、後々ワインとなって現れる事をサボンは十分に承知しているからこそ、人任せにするのではなく個々の機器や畑の特性を熟知した自らが率先して動くのだ。このフットワークの軽さは如実にワインのクオリティを高めている要因のひとつなのだろう。

Janasseは1973年から元詰を始めた。それまではコーペラティヴに販売していた僅か20ha程度の栽培家だった。それが今や80haを超える生産者にまで成長したのは彼らの惜しみない努力と所有している畑の素晴らしさがあるからに他ならない。

ドメーヌは規模を大きくするに従い、しっかりとした設備投資も施している。最新の設備を取り揃えながらも、品種特性に合わせた昔ながらの醸造法や醸造機器を尊重し、それぞれの良さを認めたうえで、巧みに使い分けている。

例えば、サボンは今でも父であるエメ・サボンの代に作ったセメントタンクを使用している。セメントだとグルナッシュは酸化しないからだ。ムールヴェドルやシラーは大樽で発酵させるなど対応している。浸漬後は大樽に入れてエレヴァージュするが、昔からシャトーヌフは大樽熟成されている。グルナッシュは小樽熟成だと酸化してしまうからだ。対してシラーやムールヴェドルは通常の樽が使用される。新樽、1年樽、2年樽、3年樽を併用していて、ドメーヌには300から400樽の大小様々な樽がセラーに綺麗に積まれている。新樽は徐々にキュヴェを格落ちさせ、ヴァン・ド・ペイにも使われる。最大で8〜10年使用される事もあるそうだ。そして最後は自分のワインを愛情込めて、売ってくれている酒屋やレストランに譲り、ディスプレイなどに使われ、樽としての役目を終えるそうだ。

重用しているセメントタンクは2年前にも新たに買い足し、新しいタンクは温度管理がさらに容易になるよう、セメント内に水の通るパイプを張り巡らせた。選果台もバイブレーションで揺らしながら選別する最新のものを導入している。これによりブドウが傷つかず、健全な果実をそのままワインにすることができる。尤もJanasseでは選果台に乗る時点で多くの不良果は取り除かれている上、温暖な気候で畑の手入れが行き届いている為、元々の不良果自体が少ないようだが、来るべき日に万全の構えで備えているのだ。

ドメーヌでは1日2回のルモンタージュと1日1回のピジャージュを行っているが、ピジャージュは機械で行うと抽出が過剰になってしまう為、手で行うようにしている。新しいセメントタンクはピジャージュ等を行いやすいように従来のものから形状を変えるなど改良している。これらのキューヴはイタリアの会社から購入したもので、色々使ってみたが、これが最良だそうだ。


1.Côtes du Rhône Blanc 2012
50% Grenache, 15% Clairette, 15% Bourboulenc,10% Viognier, 10% Rousanneで造られる秀逸なワイン。 樹齢はGrenache30年, Clairette 30年, Bourboulenc30年,Viognier 15年, Rousanne 15年。収 穫・圧 搾は品種毎に分けて、小箱で収穫。空気圧によるプレスされる。醸 造・熟 成はエナメルタンクで醸造・熟成 澱上で撹拌しながら、約6か月熟成。オークのニュアンスがない分、より爽やかにフレッシュな果実味を楽しめる。クリストフ・サボンは赤白共に素晴らしいワインを造ることで知られているが、それを表す好例。彼のその才能の豊かさを十分に感じられる逸品。 アルザスリースリングのような香りが印象的で、繊細な乳酸醗酵により、程よい酸がとても心地いいワイン。



2.VDP de la Principaute d’Orange Viognier 2012
澱に半年触れさせて造られるこのヴィオニエは花や白桃、柑橘の香りが印象的で、ミネラル感とフレッシュ感溢れるワインとなっている。




3.Châteauneuf du Pape Blanc 2012あと一カ月程度熟成させてから瓶詰される予定のこのワインはグルナッシュ60%、クレレット20%、ルーサンヌ20%で造られる。Cotes du Rhoneよりさらに白い花やハーブ、アプリコットジャム、蜂蜜、トロピカルフルーツ、柑橘系の香りの要素がしっかりと感じられ、ミネラリーで粘度が高く、酸とのバランスがとてもいい。



4.Châteauneuf du Pape Blanc Prestige 2012高樹齢のルーサンヌ60%、クレレット20%、グルナッシュブラン20%。2011年産はルーサンヌの比率が7割だった。前出のレギュラーのパプ・ブランより厚みがあり、白い花やハーブ、オレンジマーマレード、トリピカルフルーツ、蜂蜜、アプリコット、ローズペタル、ミネラル等の要素を強く感じる。まだ若く閉じているが、高いポテンシャルとスケール感はしっかりと感じる事が出来る。若いうち飲む場合はスパイシーな料理と合わせると、互いを引き立ててくれるとサボン氏はアドバイスしてくれた。年産僅か100ケース程度しか生産できず、日本への入荷は極僅か。



5. Côtes du Rhône Rouge 2012
品種:50% Grenache, 20% Syrah,15% Carignan, 10% Mourvedre, 5% Cinsault
樹齢:Grenache30-60年, Syrah 20年, Carignan70年
Mourvedre 30年, Cinsault 60年
醸造/Concrete tank 熟成/Oak foodle
年産:80,000本
'12年8月末に瓶詰された良質なブドウを巧みにブレンドさせたJanasse定番アイテム。2010年よりやわらかくしなやかで飲み心地がいい。Janasseの優れている点は、どの年でも必ずこの地方の1,2を争うほど高いレベルのワインをリリースする事だ。雨が降ろうが槍が降ろうが、ヴィンテージの長所を最大限に活かしながら、テロワールを的確にとらえた味わいを一部のキュヴェに留まらず、全てのキュヴェで表現している。Janasseを語る上で、欠かせないキュヴェ。



6. Côtes du Rhône Villages "Terre d'Argile" 2011
品種:各25% Grenache, Syrah, Mourvedre
C arignan(例年:各1/3Gre,Sy,Mou)
樹齢:Grenache 50年, Syrah 40年
Mourvedre 30年, Carignan 70年
醸造/Concrete
熟成/Oak foodle 80%, Oak barrel 60%(1/3New)
年産40,000本
カリニャンはフレッシュな酸味を表現する重要な品種で70年以上の古木から産出される。ローヌ・ヴィラージュを名乗ってはいるが、ボーカステル所有のシャトーヌフ・デュ・パプの畑のすぐ隣にあり、テロワールは変わらない。味わいもパプと言っても何ら遜色ない見事な出来。ACローヌで最もコストパフォーマンスが高いと断言できるキュヴェ。粘性の高い甘みと濃縮感を備えながらもしっかりとエレガントさもある。このバランスの良さはジャナスならではのものだ。



7 Châteauneuf du Pape "Tradition" 2011
品種:70% Grenache, 15%Syrah, 残りMourvedre, Cinsault(例年:Gre 80%,Sy10%,Mou10%)
樹齢:Grenache 40-70年, Syrah 15年
Mourvedre 40年, Cinsault 60年
醸造:Concrete(Grenache,Cinsault) 
Wood(Syrah, Mourvedre)
熟成:Oak foodre 80%,Oak barrel 20%(1/3 New)
年産:18,000-20,000本
砂地、小石、赤粘土といった異なる区画からのブドウからのブドウが使用される。グルナッシュはフードル、シラーやムールヴェドルはバリックでそれぞれ分けて1年間熟成させた後、キューヴでブレンドされる。その後、落ち着かせてから瓶詰される。リッチさとエレガントさが見事に同居するキュヴェ。砂地の土壌からはストラクチャーのしっかりとしたブドウが生まれるそうで、まだ少し硬さはあるが、比較的開くのも早く食事をしながら徐々に楽しんで欲しいとサボンは言っていた。



8. Châteauneuf du Pape "Cuvée Chaupin" 2011
品種:100% Grenache
樹齢:80-100年
醸造:Concrete 
熟成:Oak foodre 70%, Oak barrel 30%(1/3 New)
年産:15,000本
樹齢100年を含むグルナッシュ100%で造られる。このワインは2/3はフードル、1/3はドゥミ・ミュイで仕込まれた。ドゥミ・ミュイを使用するのはドメーヌの新たな試みのひとつだ。区画は北向き斜面にある為、ブドウ自体の成熟は他の区画より緩やかになる。そのおかげで他のキュヴェ以上にフィネスに満ちたワインになる。むせ返るほど香りの要素が強く、インパクトがあるが、とても品のある食欲をそそる素晴らしい香り。そこに新樽由来のヴァニリンさが加わり、奥行きのある香りになっている。2010年はまだ若く堅牢で今飲むにはやや早すぎるが、2011年は若いうちからソフトでしなやかで飲みやすい。ストラクチャーもしっかりとしていて、酸も適度でバランスがいい。そしてしっかりとした果実味と酸、フィネスを備えている。瓶詰前ながらも既に大作の片鱗を見せている。
サボン曰く、Chaupinは子羊や鳥獣のジビエに最高の相性を見せるのだとか。



9. Châteauneuf du Pape " Vieille Vignes" 2011
品種:85% Grenache, 15%Syrah
(例年Gre85%, Sy10%, Mou3%, 他2%)
樹齢:Grenache:80年〜100年、Syrah: 25年
醸造:Concrete 
熟成:Oak foodre 75%, Oak barrel 25%(40% New)
年産:15,000本
平均樹齢60年〜100年のグルナッシュ85%、シラー15%。4つの異なる土壌を持つ区画の葡萄から造られる。南の小石の多い土壌は肉厚さと力強さを与え、Chaupinのような土壌はフレッシュさと酸をもたらす。赤粘土の濃い砂混じりの土壌はストラクチャーとボディを与える。この土壌は北に位置する為、収穫は他よりもかなり遅らせ、その間に必要なフィネスを蓄えるそうだ。そして砂質石灰土壌はスムースさを与える。収穫はそれぞれの熟度が異なるので、それを見極めて収穫される。

非常に高い凝縮感のある色合いで、何層もの豊富な果実の層から構成されている素晴らしい造り。熟した様々な赤い果実、ブラックフルーツ、リコリス、焦がした土、スパイス、ハーブなどの複雑な香り。熟したピュアな果実味をしっかりと感じ取ることが出来る。力強くもありながら、どこか優美な美しさも兼ね備えた上品なシャトーヌフ・デュ・パプ。Chaupinよりもさらに厚みがあり、ブラックチェリー、チョコ等の要素が印象的。粘土質土壌と砂質土壌からのブドウの長所をうまく生かしたキュヴェで、サボンの職人技を感じる事が出来る。若いうちはフルーツのフレッシュさなどの生き生きとしたニュアンスを感じる事ができるので、熟成と若飲みそれぞれ楽しんで欲しいそうだ。若飲みの際はデカンタし、14度で飲むのが最適だとの事。

ひと通り、試飲後は、サボンの運転する車で畑を見学して回った。雲一つない真っ青な大空の下、サボン愛用のTOYOTA RAV4で各地に点在する畑を回ったが、Janasseの畑が、一番手入れが行き届いている事がはっきりと分かった。樹の手入れや、下草の処理など完璧にされていた。たまたまなのか、畑に出て作業しているのは、全てJANASSEの従業員で、他の畑では誰もいなかった。この日は各畑で下草の漉き込みやボルドー液の散布などが行われていた。



5,6人のチームが各畑を手作業で作業していた。


ランチはサボン夫妻とイザベルさん達とサボン氏の自宅で頂いた。自宅の畑で採れた有機栽培の新鮮な野菜は濃厚で深みがあり、とてもおいしかった。煮込み料理もまた地場の素材を使い、余計な味付けはしないで、素材そのものの味わいを引き出した素晴らしいものだった。それが実にワインとよく合う。ワインと合わせてひとつの料理として完成する絶妙な味付けで、いくらでも食べたくなるものだった。
今回の肉は市場で購入したものらしいが、サボン氏は猟が趣味のひとつでもあり、ジビエの季節には猟銃を手に野山を駆け回るそうだ。新鮮なジビエとジャナスのワインとのマリアージュは想像しただけでわくわくする。

楽しいランチの後、車で北上する事200km、食の都LYONに到着した。
リヨンの新市街に、Rue Merciere(メルシエール通り)という多くのレストランやバー等が軒を連ねる中、Le Layonで夕食を取った。定番のリヨン風サラダやカエルのフリッター、サーモンのムニエルなどを頂いた。どれもおいしかったが、特に印象に残ったのはカエルのフリッター。とても新鮮でクセがなく、ジューシーで旨味に溢れていた。一緒に飲んだFrancoisVillardのCondrieuとの相性もとても良かった。






Restaurant “Le Layon”
52, rue mercière - 69002 Lyon
Tél : +33 478 42 94 08
http://www.lelayon.fr/


夕食後、既に閉まったブティックのショーウィンドに見慣れた日本語が目に留まった。ブランドの名前は『Superdry極度乾燥(しなさい)』。以前に香港でも見かけたことがあって、その時はあまり意識していなかったが、リヨンではさすがに浮いていたので、調べたらイギリスで2003年に作られたちゃんとしたブランドらしい。2012年に英国で上場した企業で、最も成長しているそうだ。ヨーロッパやアメリカなどで販路を急激に広げていて、デヴィッド・ベッカムハリーポッターダニエル・ラドクリフも愛用しているそうで、日本にも上陸しているそうだ。果てして日本でこれは売れるのだろうか。


http://www.superdry.com/


この日のホテルはリヨンの中心にある四つ星ホテルHotel Globe & Cecilベルクール広場やレストラン通り、地下鉄なども近く便利な立地にある。泊まった部屋の内装は、街とマッチしたクラシックで重厚感のある造りとなっている。ルームキーもカードキーではなくドラクエに出てきそうなクラシックな鍵で真鍮製の大きなものだった。




Globe & Cecil Hôtel
Tél : +33 478 42 58 95
21 Rue Gasparin,69002 Lyon
http://www.globeetcecilhotel.com/