[Maison Remoissenet Père & Fils]

メゾン・ルモワスネ・ペール・エ・フィス
 8月30日 10時30分。
出迎えてくれたのは、メゾン経営を取り仕切る副社長のベルナール・ルポルト氏。大きなメゾンの責任者ながら、飄々として、とても人懐っこく、エラぶった所が微塵もないナイスミドルだ。ユーモアと力の抜けたカッコよさが備わっている。固く真面目な印象の人が多いブルゴーニュでは異質にも見える人物だ。くだけた印象の彼だが、フランスではかなり優秀な人材として、若いうちから各所で経営の中枢で活躍してきたようだ。


ベルナール・ルポルト



彼が卒業したのは HEC(経営大学院)という学校で、ここは2005年以降、フィナンシャル・タイムズの欧州ビジネス・スクール・ランキングで、トップ・ビジネス・スクールとして評価されているなど数々のランキングでトップクラスの学校である。

HECの現地学生がフランス屈指のエリートと云われる所以は、高3で実施されるバカロレア(センター試験のようなもの)の成績上位10%に入学が許されるプレパ(準備学校)に2年通う。この8000人のうち、半数の4000人が受験し、最終的に合格者380人まで絞られるという、とても狭き門だからだ。

卒業生には現フランス大統領フランソワ・オランド氏を始め、問題を起こさなければ、次期仏大統領候補とされていたドミニク・ストロス・カーン(元フランス経済・財政・産業大臣、前IMF専務理事)や史上初の仏女性大統領を目指したが、ニコラ・サルコジに敗れたマリー・セゴレーヌ・ロワイヤル(オランド氏と事実婚関係にあった)など国を動かすレベルの多数の著名人を輩出している。

ポルトは卒業してすぐに、とある企業の重役として迎えられるなど、若いうちからその高い能力を発揮してきた。その後もルイ・ジャドでも重役としてその職を全うした。
ワインは数字には見えない官能的な部分が多い。芸術的才能と精緻な論理的思考を兼ね備えなければ、これほど大きなメゾンを円滑に運営する事ができない。幸いなことに、ルポルトはその両方を備えているようだ。そして先代ローラン・ルモワスネの時代から現場を取り仕切る有能な大番頭ジャック・ルソー氏、J.ドルーアンで長く醸造責任者を務めた母を持つ若き女性醸造家クロディー・ジョバール氏などスタッフにも恵まれているようだ。そして何より2005年からルモワスネのオーナーとなったアメリカ人実業家エドワード・ミルシュテイン氏の強力なバックアップはメゾンの輝かしい未来を既に約束しているかのようだ。潤沢な資金により、必要な投資は惜しみなく行い、徐々に自社畑も広げているようだ。最近ではChateau de Choreyを所有するDomaine Germainのドメーヌや畑を購入するなどしている。ルポルトはドメーヌとネゴシアンのいい面だけをうまく取り入れ、それを融合させているようだ。全ての畑はビオロジックを実践し、醸造もトラディショナルでナチュラルなスタイルを心掛けている。時代のニーズを察知し、今取るべき最善の道を選択しているように思える。彼には将来の明確なヴィジョンがはっきりと見えているのだ。

ローラン・ルモワスネ好みの中世様式の広い石造り応接間でいくつかを試飲した。



1.Bourgogne Aligote “Marie Clement” 2009 
Marie Clementは、先代ローラン・ルモワスネのおばの名前で、美しく誰からも愛される存在だったことからキュヴェに名付けたそうだ。ローラン・ルモワスネは今年で83才、南仏で悠々自適な生活を送っているそうだ。
さてワインだが、これまでAMZではルモワスネのAligoteを扱ってきたことはほとんどない。生産量があまり多くなかったこともあるが、フレッシュで溌剌とした果実味と酸がアリゴテには必要と考えていて、熟成がひとつのセールスポイントであったルモワスネとは合致していないと考えていたからだ。ところが近年、AMZでは熟成したワインはもちろん、比較的新しいワインを取り揃えるようになった。以前からの要望もあり、お客様の選択肢を増やす事を目的とした新しい試みだ。特に2009年の販売はとても好調で新たな層を開拓して来つつある。
果実の甘みも酸もありとてもいいバランスのアリゴテに仕上がっている。ルポルトはアリゴテってアリガトに似てるからギフト向きじゃない?と、おやじギャグをしきりにうれしそうに言っていた。

2.Petit Chablis 2008
 果実味もしっかりとあり、程よい酸とミネラル感のあるシャブリ。すっきりとしていてバランスの取れたワインに仕上がっている。



3.Chablis “Amiral Vernon” 2008
 キュヴェ名のアミラル・ヴェルノンとはローラン・ルモワスネの知り合いの軍人から取ったそうだ。彼はお気に入りのキュヴェにこういった名を付ける事を好んでいたようだ。ミネラル香、火打石、レモン、リンゴなどのシャブリらしいさわやかで新鮮な香り立ち。ミネラリーで酸もしっかり伸びがあり果実の熟度も感じられる。


4.Savigny Les Beaune Blanc 2009
 ルモワスネにとってファースト・ヴィンテージとなったサヴィニー・ブランは買いブドウから造られる。フランスのレストランでとても良く売れているそうだ。すっきりとしたミネラル感、酸も程よくバランスがいい。レモン、ハニー、ナッツ、クリームなどの要素があり、ピュリニーっぽいフィネスを備えている。


ジャック・ルソー氏



5.Meursault “Maurice Chevalier” 2009
 柔らかで十分な甘みがあり、スパイスの要素も感じられる。ムルソーらしい肉厚さを備えており、シトラス、ハニー、ミネラル、白い花、ハーブ、スパイスなどの香りも豊富。価格を考えると素晴らしいコストパフォーマンスを持っている。



6.Puligny Montrachet 2006
 白い花、ナッツ、ミネラル、シトラス、ハニーなどの要素がしっかりと感じられる。肉厚でありながら、しっかりとフィネスを備えた味わい。



7.Meursault 1er Cru Poruzot 1998
 白トリュフ、熟した洋梨、ハニー、ナッツ、フォアグラ、灯油などミネラルの香り。熟成感とフレッシュさが程よくこなれてきて奥行きのある味わいとなっている。




8. Meursault 1er Cru Charmes 2000
やや閉じ気味だが、白トリュフやミネラル、ハーブ、ハニーなどの香りが豊富。
1993年に似たようなスタイルで十分にこなれてきている。まだ酸も果実味もしっかりとある。ソースで似た鶏肉料理との相性が良さそう。やや前出のPoruzotより熟成が進んでいるように感じられる。
9.Meursault 1er Cru Geneverieres 1998
熟したパッションフルーツやハーブ、ミネラル、ハニーシトラスなどの香り。柔らかでねっとりとした質感で酸と果実味がこなれてきている。



10.Chassagne Montrachet 1er Cru Les Caillerets 1988 
本当に1988年かと疑ってしまう程、しっかりとした果実味と酸があり、ポテンシャルの高さが感じられる。熟成のニュアンスとフレッシュさが混在する。これも残り少なくなった最後の在庫を予約。



11.Bourgogne Rouge “Renommee” 2007
 溌剌とした若さがあり、純度が高く透き通るようで旨味に満ちた味わい。熟したブラックベリー、チェリーにイチゴキャンディーのような分かりやすいチャーミングな要素が加わり複雑さも十分にある。酸とフィネスが十分に備わっていて、満足度の高いワインに仕上がっている。



12. Bourgogne Rouge “Renommee” 2006
 2007年に比べ、しっとりとした落ち着きが出始めており、最初の飲み頃になっている。新鮮で熟した赤い果実とややこなれた感のある風味。コストパフォーマンスが高く、熟成のポテンシャルも感じさせる。

13. Bourgogne Rouge “Renommee” 1995 
ロングセラーとなっている1995のブルゴーニュ・ルージュ。先代ローラン・ルモワスネがいいものだけを買えるだけ買い付けたこのグレートヴィンテージも、終わりが見えてきたようだ。未だ十分にある果実のこなれた甘みと品のいい酸味を備えており、熟成によってさらなる複雑味が現れている。



14.Maranges 1er Cru Roussots 2006
焦点のきっちりと定まった純度の高い濃縮したエキスを感じさせる味わい。とても柔らかく、熟度も高く、青みや雑味など一切を感じさせない。Marangesのワイン自体を軽く見ていたが、驚くほど高品質。考えを改めなければいけない。



16.Santenay 1er Cru La Commes 1998 柔らかくしなやかで繊細さと力強さを備えた豊かな果実味。しっとりとした熟成感とまだ若さを感じさせるチェリーやカシス、フランボワーズなどの果実とハーブやスパイスがとてもいいバランスでボトルに収まっている。



17.Vosne Romanée 2006
 重厚で力強くいて、柔らかく果実の凝縮感が高く、酸とのバランスがいい。たっぷりと熟した果実味が集中していて、フレッシュな酸ととてもいい均衡を保っている。最初の飲み頃を迎えた印象。
余談だが、ルモワスネでは2007年からスーショも所有している。こういった特に素晴らしい畑は中々出物がないが、古くからの縁で購入する事が出来たようだ。






いつもはルモワスネのメゾン内の昼食をとるが、ヴァカンスでシェフが不在だった。そこでルポルトお気に入りのオーヴェルジュへ。クラシックとモダンを上品に取り入れた内装。雰囲気も良く、料理も格別。






“Ermitage de Corton”
D974 - 21200 CHOREY LES BEAUNE
TEL: +33 (0)3 80 22 05 28
http://www.ermitagecorton.com

そして、朗報。来年1月に先代ローラン・ルモワスネからルモワスネに仕える大番頭ジャック・ルソー氏が初来日する事となった。1月29日(火)に東京、その後、大阪でもプロ向けセミナーを開催致します。