Domaine Robert Sirugue & Ses Enfants

出迎えてくれたのは女性醸造家マリー・フランス氏と彼の実弟で共にドメーヌの運営に携わっているジャン・ルイ・シルグ氏の二人。ジャン・ルイ・シルグ氏とはいつもタイミングが悪くて今回初対面。関取のように大柄な彼の愛車は1300ccのヤマハ XJRなのだと嬉しそうに話してくれた。兵役ではバスドライバーだったそうで、運転するのが好きな人懐っこいおじさんだ。彼の息子は醸造学校を卒業後に他のドメーヌで修行しているそうだ。別の生産者の下で学ぶのはとても大切なことなのだそうだ。

地下のセラーは元々整然として、きれいだったが、来るたびにさらに環境が良くなっているように感じる。セラーや醸造所がきれいなところはワインにはっきりと現れる。その逆も然りだ。造られる環境はそのままワインに現れるのだ。幸い今AMZが正規で取り扱っている生産者はどこも驚くほどきれいだ。クリーンである事は基本的なことだが、その最低限の管理が出来ていないドメーヌがあることも確かだ。ワインは正直なもので必ずそれはワインに反映されるのだ。

1.Bourgogne Aligote 2009 (瓶)
9月に瓶詰めされたフレッシュ感溢れる1本。熟度の高さから、リッチで柔らかく酸も穏やか。甘みもたっぷりとあり適度な酸とミネラル感はとても親しみ易い。牡蠣などの海の幸との相性は抜群なので年産1万本ながら、世界各国で人気のアイテムだとか。残念ながら、日本未入荷。



2.Bourgogne Aligote 2008 (瓶)
2009に比べ、酸がきりっと引き締まったアリゴテらしい味わい。フレッシュさとミネラル感が程よく、食事がすすむ味わい。



3.Bourgogne Pinot Noir 2009 (ステンレスタンク)
2009年は9/11に収穫をスタートした。白を収穫後赤は日本未入荷のLadoixから始め、Chambolle Musigny,Vosne Romanée,Bourgogne Rougeと順に収穫した。ACブルゴーニュの畑はClos de Vougeotの下のレ・コンブという区画を中心に4ヶ所に点在し、総面積は約2haほどある。12月に瓶詰め予定で、今回はステンレスタンクからのサンプルを試飲。通常、年産15,000本程度。3〜5年使用した樽で1年間樽熟させた後、ステンレスタンクでアッサンブラージュして、1ヶ月寝かせてから瓶詰めされる。通常は18ヶ月樽熟されるが、2009年は12ヶ月と短くした。果実の高い熟度を純粋に表現したかったからだ。

現時点でのアタックはややバランスを欠いた感じがあるが、単純にまだこなれていないだけで、スワリングすると開いてくる。濃縮感の高い果実味はとても柔らかくとても飲み心地がいい。このドメーヌが一皮剥け、抜きん出た存在になった記念すべき年である2007年にさらに厚みを加えたようなスタイルだ。



4.Chambolle Musigny Les Mombies 2009
これもステンレスタンクでアッサンブラージュ中のものをテイスティング。人気アイテムだが年産僅か1700本しか造られない為に、残念ながら供給が追いつかないアイテム。シャンボール村の持つ繊細で優雅な味わいを実にうまく表現している。とても柔らかく、純度の高い甘みをたっぷりと含んだ果実味としなやかなタンニンとフィネスは傑出したバランスの良さがある。瓶詰め後、すぐにでも飲めるほどこなれた味わいは、また新しいファンがまた増えることを予感させてくれる素晴らしい造り。



5.Vosne Romanée 2009 (樽)
Chambolleよりもさらに厚みが増して樽の香ばしいニュアンスがより深い味わいを表現している。オー・レア、オー・コミューン、レ・バロー、レ・シャルダン、ボジェの区画から産出される。樹齢は平均で45年。艶やかで熟度の高い果実味、適度な酸の度合い、清らかで純粋なミネラル感。Vosne Romaneeのテロワールを的確に理解した見事なワイン。


6.Vosne Romanée V.V 2009 (樽)
年産3000本。樹齢60年以上から造られる。前述のワインよりもさらに熟度の高さを感じる。さらに香ばしい樽香によって厚みと複雑味を表現している。しっとりと落ち着いたエレガントなミネラル感と、パワフルでとても力強い果実味の豊かさが、とてもバランスよく1本のボトルに封じ込められている印象。しかしまだまだ発展途上で、今後さらに化ける可能性が高い1本。



7-1.Vosne Romanée 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
まだ樽熟中のもので、それぞれ違う樽を試飲。まずは1年使用した旧樽に入ったワイン。このワインは最終的に新樽比率は50%となる。新樽の強い個性がない分、より純粋な果実味を感じることが出来る。



7-2.Vosne Romanée 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
レモン社製のトロンセ産の新樽。新樽特有の樽の乾いた印象のワインで、タンニンの力強さが際立ったワイン。全てのキュヴェにおいてノン・フィルターでコラージュもしない。それぞれ樽熟後、ステンレスタンクで1ヶ月寝かしてから瓶詰めされる。



7-3.Vosne Romanée 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
ルソー社製のトロンセ新樽からのワイン。8よりも濃さがあるように感じられる。粘性のある果実味とスタイリッシュな酸が特徴的だ。



7-4.Vosne Romanee 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
より華やかな香りが印象的なワイン。アーモンドをフライパンで炒ったような香ばしい樽由来のニュアンスがワインに奥行きを与えている。しなやかで官能的なスタイル。このキュヴェだけでも商品化すればものすごいインパクトを市場に与えてくれそうなワイン。聞けば、樽職人の中で名人とも言える人が手がけた樽なのだとか。樽には他との違いを一目で分かるようにゴールドメダルが刻印されている。通常の新樽は540€だが、これはそれよりも100€高く640€もするそうだ。

このいわゆる名人樽の使用は2009年からで全10樽の内、Vosne Romanée V.Vは6樽、Petit Monsには2樽が使われた。最終的には新旧それぞれ別の樽で熟成された同一キュヴェをアッサンブラージュさせる。そうすることで、単一樽以上の複雑味を表現することが出来るそうだ。どのヴィンテージにおいても前年よりもさらにおいしいものを造りたいという強い想いが感じられる。



8-1.Grands Echezeaux 2009 Cuvée 1(樽)
レモン社製のトロンセ新樽。Grands Echezeauxは2樽しか造っていない。1樽ずつを違う樽メーカーの樽で熟成させる。濃密でしなやかな果実味の清らかさが際立つ。

8-2.Grands Echezeaux 2009 Cuvée 2(樽)
ルソー社製のトロンセ新樽。レモン社製の樽よりもオークのインパクトが強い。果実味がしっかりとしているので樽負けしておらず、洗練されたフィニッシュはとても長く感じられる。この2つの樽がブレンドされてどのように出荷されるのかとても興味深いが、入荷は極僅かなのがとても残念。

2009年はとても分かり易い。熟度と糖度が高く、ぎっしりとつまった果実味の凝縮感がたっぷりと感じられる。タンニンの角がないので若いうちからスムースに飲み進めることができる。パワフルでリッチな葡萄はまさにグレートと呼ぶにふさわしい出来だが、ピノ・ノワールに必要不可欠な酸をどれだけ表現できているかが、どのドメーヌにおいても大きな鍵となる。厚ぼったくてフィネスのない甘いだけの大柄なピノ・ノワールブルゴーニュの本来のスタイルではないのだ。このドメーヌはそのあたりも良くわかっている。分かっているというか脈々と受け継がれた生産者の本能と経験なのだろう。彼女は決して自身の手がけたワインを得意気に自慢したりしない。今年も一生懸命造ってみたけど、おいしいかしら?と、はにかみながらこちらの様子を見ているような姿と、試飲後のこちらのいい反応にほっとした表情がいつも印象的だ。チャーミングかつ大人のエレガントさも備えた彼女の人柄がワインに良く現れている。



9.Vosne Romanée 2008 (瓶)
日本では11月から出荷が始まった2008年。入荷前の予約で完売。このドメーヌでは通常Vosne RomanéeとVosne Romanée V.Vを別のキュヴェとしてリリースしているが、この年はV.Vをリリースしないで、2つをアッサンブラージュしてVosne Romanéeだけにした。ヴィンテージの個性、テロワール、葡萄の出来など様々な事を考慮し、複雑な味わいを表現するのにはこれが最善だと考えたからだ。確かにV.Vの葡萄が入っているだけあって、いつもの村名よりも洗練されたフィネスと奥深さがある。最近では2001年、2003年、2004年も同様にV.Vのリリースはなかった。果実の熟度は2009年ほどはないが、その分、緻密な構成とバランスの良さはこのドメーヌならではのもの。青さもなくタンニンも溶け込んでスムースな果実味とクリーンなミネラル感、ピュアさとフレッシュさが渾然一体となって口中に広がる。本当に厳しく真面目に果実を選別したんだろうなとその姿が容易にイメージできる。
2008年は長熟型のスタイルだとマリー・フランス氏は言う。2009年に比べれば簡単な年ではなかったけど、そういった年の方がこれまでの経験が活かされるので楽しみでもあるわと笑う。彼女は醸造学校に通いながら1976年からドメーヌで働き始めた。彼女が本格的に関わり、ファーストヴィンテージとなったのが1979年。

ブルゴーニュにおいては不作とされる年だった。最初から難しい年で、とても苦労したそうだが、逆にそれが彼女の醸造家人生の礎になったのかもしれない。それは全て自然の成せるもので、誰もそれには抗えないというもの。ヴィンテージの出来不出来にも決して動じることなく、知り尽くした畑から産する全ての葡萄に敬意を払い、常に最善の策を講じることこそが自分に課せられた使命なのだと彼女は感じている。決して造りこんだりせずにその年々の長所が輝くようにその手助けをしてあげる、まるで母親のようだ。ここ数年、年を重ねるごとに品質が飛躍的に向上しているのは彼女が常に新しい事にチャレンジし続けていることが大きく寄与している。「30年やってもまだまだわからない事だらけだわ。」と優しい口調で新樽を撫でながら喋る姿がとても心に残った。