DOMAINE ROTY ドメーヌ・ロティ (ジョセフ・ロティ フィリップ・ロティ)

amz-dom-report2009-02-01

 JOSEPH ROTYを訪れると、現在の当主であるフィリップ・ロティのお母さんが、我が子が帰ってきたように温かく迎えてくれる。残念ながら、近年体調を崩していた先代ジョセフ・ロティ氏は昨年惜しまれつつ亡くなったが、息子であるフィリップ氏はドメーヌの長としての自覚が、はっきりと顔に表れているように感じた。
醸造段階の2008年と2007年を樽からボトルに移したものをテイスティングした。


1.BOURGOGNE ROUGE 2008
MLF前で、きつい香り。まだ赤ちゃんだよとフィリップ氏は笑う。

2.MARSANNAY ROUGE 2008
これもMLF前。

3.GEVREY CHAMBERTIN 2008
MLFは少し前に終わったそうだ。ジュヴレ・シャンベルタンは例年早く終わるとの事。濃さもしっかりとしており、香りも華やかな部分が見える。

4.GEVREY CHAMBERTIN 1er Cru LES FONTENAY 2008
MLFはもうすぐ終わる段階。MLFが終わる時期の判断はよく出てくるガスで判断するそうだ。味わいは濃さも熟度も非常に高い。MLFが終わったかどうかを判断するリトマス試験紙のようなものがあり、それで判別後SO2を加えるそうだ。SO2を加えるとワインの色合いは薄くなるそうだ。

2008年を一言で言うならComplicated(複雑)な年だと言う。毎年、収穫時に葡萄の果実を成分分析するそうで、その段階では1995年に最も近かったそうだ。それがワインになると変わってくるのがワインのおもしろいところで1995年より2008年はMLF後に酸度が下がったので柔らかいスタイルになるだろうと彼は語る。

5.GRIOTTE CHAMBERTIN 2008
MLFは終わっている。この段階でただでさえ数が少ないこのワインを頂くのはとても気が引けるが、十分な果実の熟度と酸はバランスがいい。
2008年は9月23日に収穫を開始したが収穫も選別も例年にないぐらいバタバタしたと語る。それも収穫の順番が例年とは違ったからだそうだが、雨が降る前にその全てを何とか収穫できたそうだ。また新しい除梗装置を購入したがメーカーの在庫がなく、ギリギリでようやく間に合ったのも慌しかった要因らしい。この装置、彼はとても気に入っているそうだ。いい買い物をしたと心から感じているそう。

2004年に購入したDRCと同じプレス機と同じメーカーのもので、これまでの茎がついたまま除梗するのではなく、最初に茎を抜き取ってからゆっくりと除梗するので青みがなくなるそうだ。プレス機も相変わらず、性能がよく、正確で種をつぶさない微妙な調整ができるそうで、このメーカーを絶賛していた。

このメーカーもそうだが、毎年どんどん新しい機械がリリースされるそうだ。その8割は使い勝手が悪く性能もたいしたことないものが多いという。彼の場合は最新の機械には絶対に手を出さず、誰かが買ってから、それをしっかりとリサーチした上で買うそうだ。購入時期が少なくとも1年は、ずれる為価格もかなり抑えられる。なるほど、彼は心優しい純朴な顔をしながらも中身は、なかなかしたたかだ。

6.MARSANNAY BLANC 2007
0.5ha、2000本生産。2007年の収穫は9月6日から始めたそうだ。

7.BOURGOGNE ROUGE 2007
1.5ha、6000本生産。柔らかで甘みたっぷり。チェリーやイチゴ、フランボワーズなどの豊かな香りとピノ・ノワールらしい色合い。カビが発生するまでに早く収穫したのが功を奏したそうだ。

8.MARSANNAY 2007
甘さ、濃さもしっかり。果実味の凝縮度は高い。雨が降った後はここまでの凝縮感は出ないと彼は言う。

数年前に来日した際にワインショップの棚にある自分のワインを購入し、ホテルで飲んでみたそうだ。輸送時や陳列時の劣化などなく、完璧な状態で自分のワインを大事に売ってもらっていることに、とてもうれしく思ったそうだ。

9.MARSANNAY LES CHAMPS St. ETIENNE 2007
18ウヴレ(0.5ha)を所有しており、ネゴスに3樽売却し、2100本造ったそうだ。甘みがたっぷりとあり、こってりとした果実味が非常に豊か。

10.MARSANNAY CLOS DE JEU 2007
1haの1/5程度から造られるこのワインは、熟度、酸、果実味のバランスが特にいい。マルサネの中でも特に場所に恵まれた区画だと言う。マルサネの栽培家の多くは機械で収穫するそうだが、それでは適正な選別など出来るわけがないと彼はマルサネの未来を憂いている。
よくジュヴレ・シャンベルタンの栽培家がマルサネとフィサンで一番古いと言われる1934年植樹のこの畑をとてもうらやましいと言ってくれるそうだ。石灰質土壌で樹齢が古いおかげでミネラルをたっぷり吸上げ、実はとても小さいが、凝縮感のある葡萄はグラン・クリュの持つフィネスに共通すると絶賛されているそうだ。僅か4樽で1500本程度だが、偉大な遺産のひとつだと彼は誇らしげに語る。

11.COTE DE NUITS VILLAGES 2007
彼の家の周りにある畑で一番目をかけられるとうれしそうに語る。人を雇うのはとても難しいことで、雇っても土日はもちろん休むし、5時以降は働いてくれない。またきちんと見ていないと、働いてくれない人が多いんだよと家族でやることの重要性をとても強く感じているそうだ。葡萄には休日なんてないからねと彼は語る。

12.GEVREY CHAMBERTIN 2007
甘み、酸度が程よいバランスを保っている。濃縮感があり、艶やかでエレガントな印象。
湿気のある年のビオはとても難しいという。ビオだという生産者が雨の後に何かを散布するのをたまに見かけるが、異常なまでに白くなった葡萄が果たして体に良いのかと疑問を持つこともあるそうだ。
2007年は葉の病気があったようで、糖度が6度程度になってしまった生産者がいたそうだ。バカンスの最中に蔓延したそうで、彼は何が起こるかわからない収穫前には絶対に休暇は取らないんだと語った。
特に収穫前の天候はとても重要だが、フランスの天気予報はとてもいい加減でよく外れるそうだ。そこでかなり精度の高い天気予報の会社と契約したらしい。何とそれは日本の会社だった。フランスの天候なのに日本の会社から教えてもらう方が、正しいなんておかしな話だよねと彼は笑う。細かな区画の予報を正確にしてくれるので、かなり先を読んでギリギリまで収穫を行う事ができるんだと満足そうに語る。最新の装置と豊かな経験に、言わば神の領域とも言える天候まで味方につけた彼のワインは美味しくないわけがない。

13.GEVREY CHAMBERTIN 1er Cru LES CHAMPS CHENYS V.V 2007
1/4haから造られるこのワインは濃縮度の高いエキスの甘みに秀でて、濃密であり、均整の取れたバランスは素晴らしいの一言。

14.GEVREY CHAMBERTIN 1er Cru LES FONTENYS 2007
ブルゴーニュでは夏は暑く、冬はとても寒い。この寒暖の差がいいワインが出来る要素なんだよと彼は語る。近年の温暖化についても、「確かに父がまだ元気だった頃と比べても、気候は徐々に変化していると感じるよ。異常気象は稀に起こるから異常なのに、それが頻繁に起こるようになっているのは、地球が泣いているのかも知れないね。そう言えば5年前の7月に車を運転していたら、すごく大きな雹がフロントガラスに落ちてきて、危うく命を落とすところだったんだよ」とあっけらかんと話してくれた。

15.CHARMES CHAMBERTIN T.V.V 2007
滅多に口にすることが出来ないこのワインは、口にする度にいつも新しい驚きと感動を与えてくれる。ジューシーで濃さもしっかり、複雑さにおいては他の追随を許さない。今回はヨード香、ツナ、海草が元々ある複雑な香りにアクセントを加えていた。このワインは一体いくつの要素を備えているのだろうか。

16.GEVREY CHAMBERTIN 1er Cru LES FONTENYS 1990
最後に偉大な生産者だった彼の父であるジョセフ・ロティの大事な遺産のひとつを開けてくれた。フィリップ氏はこの年、今は廃止された兵役に行っており、とてもよく覚えていると話してくれた。当時、穏やかな顔に似合わず、最新の戦闘機に乗っていた彼は、収穫期は特別に手伝いの為に帰省が許されたそうだ。とても恵まれた年でみんなで盛大にお祝いしたのを覚えてるよと昨日のことのように感慨深げに話してくれた。