[Pierre Gimonnet Père & Fils]

ピエール・ジモネ ペール・エ・フィス
今回のフランス訪問の最後に訪れたのはピエール・ジモネ。出迎えてくれたのは、醸造を担当しているディディエ・ジモネ氏。大柄ながら、温和な笑顔で歓待してくれた。早速、ドメーヌの応接間でいくつか試飲する事となった。

2012年は生産者にとってとても大変な年だったようだ。5,6月はとても寒くて雨が降り、7月も雨が降ったそうだ。8月は一転して好天が続いた。糖度が高いだけでなく、酸度も高くなり、現時点の酸度はあのグレートヴィンテージと評される1996年と同じレベルだという。腐敗した果実もなく、健全なブドウができているそうだ。特にクラマンは酸度が高く、グレートヴィンテージになるだろうと期待しているそうだ。
現時点では9月18日頃から収穫を始める予定とのことだ。

1. Brut Cuis 1er Cru NV 
2009年がベースとなったスタンダード・キュヴェ。21%は2004年から2007年産のリザーヴワインが使われている。リザーヴワインはタンク熟成ではなく、全てボトル熟成させているシャンパーニュでも稀な製法。シャンパーニュのワインは繊細でフレッシュさが命である。タンクで熟成させると疲れて酸化してしまうので、ボトルが最良の方法なのだ。これは1982、1983年の豊作年に醸造用タンクがなくなったことから、やむを得ず始めた事だが、結果的にジモネの品質を押し上げる結果となったようだ。
<79% 2009,12% 2007, 5% 2006, 4% 2004>
爽やかで、さっぱりとしていながら、リザーヴワインの深みがある。フィニッシュに清涼感とキレのあるフレッシュさがある。泡立ちはクリーミーできめ細かく繊細。厚みのあるミネラル感と旨味のある果実味、シャープで心地いい酸が魅力。133,747本生産。



2.Rosé de Blanc Brut 1er Cru NV 
ブラン・ド・ブランはピエール・ジモネの代名詞であるが、今回初めてリリースされることとなったロゼ・シャンパーニュ。12% Bouzy(G.C)のピノ・ノワールが使われ、残りはシャルドネ。ドザージュ6g。9,872本生産。

アッサンブラージュで造られる。ディディエはブラン・ド・ブランと同じミネラル感を持ったロゼを造りたかったそうだ。試行錯誤の結果、キュヴェ・ガストロノームにピノ・ノワールアッサンブラージュする事で彼の望むミネラル感たっぷりのロゼが生まれる事となった。他メゾンのロゼはやわらかいが、ミネラル感に乏しい。既存のロゼとは明らかに一線を画す溢れるミネラル感が魅力だ。ピエール・ジモネの確立されたブラン・ド・ブランに赤果実の華やかさが加わり、さらにゴージャス感がましているようだ。新しいファンを獲得する事だろう。日本への入荷は2月頃の予定。


3.Gastronome 2008 Brut 1er Cru
シャルドネ100%。<43% Chouilly(G.C), 29% Cuis(1er Cru), 16% Oger(G.C), 7.5% Cramant(G.C), 4% Vertus(1er Cru)>。
750ml 33,066本生産
若くフレッシュなヴィンテージ。主にシュイィとキュイの畑から生まれる。グラン・クリュのシュイィは若いうちからおいしく楽しめる特別な区画で、キュイは酸のはっきりとしたフレッシュさを与えてくれる。クラマン、オジェは深みのあるブドウが採れる。ジモネらしい深みとフレッシュさがバランスよくあり、繊細でエレガントな味わいを醸し出すことができる。レストランで使うグラスワインを想定したキュヴェで、細かくクリーミーな泡立ちが出るように、通常より、瓶内二次醗酵の糖量を減らしている。ジモネのスタイルとして重すぎない洗練されたスタイルを体現している素晴らしいキュヴェのひとつだ。


4. Oenophile Extra Brut 1er Cru Non Dosé 2005
100% シャルドネ<23% Cramant(G.C), 45% Chouilly(G.C), 8% Oger(G.C), 24% Cuis(1er Cru)>  750ml 13,000本生産
オノフィルにはワイン愛好家や好きになると言った意味を持つ、ジモネ唯一のエクストラ・ブリュット。一言で評するならキレのあるフレッシュさが前面に出たキュヴェ。とてもすっきりでシャープさが際立つ。自然にバランスが取れているので、ノンドゼにしたそうだ。ナチュラルさがはっきりと分かる特別なキュヴェだ。2005年のシャルドネはリッチでワインらしいしっかりとした味わい、2004年は軽くエレガントでミネラル感をもたらす。弾薬等にも使用されるグラファイトgraphite、石墨、黒鉛)は黒い色合いが特徴の石だが、この石のもたらすミネラル感がとても上質な厚みを与えている。



ディディエ・ジモネ氏


5.Fleuron Brut 1er Cru 2005
100% シャルドネ<45% Chouilly(G.C), 23% Cramant(G.C), 8% Oger(G.C), 23% Cuis(1er Cru)> 750ml 44,333本、1500ml 4,897本生産。

これは前出のオノフィルと同じ畑のブレンドでドサージュを5g/L加えたキュヴェ。一言で評するなら複雑味が溢れるキュヴェ。柔らかいほのかな甘みはとても品よく溶け込んでいて飲み心地がいい。ディディエ曰く、一番いいパーセルのブドウが使用されており、トップレベルの白ワインのように深みと厚みがあるそうだ。通常は80%がグラン・クリュのブドウが使用されるが、2005年は75%と低くしている。これはいい年ほど、全体のブドウの質が高まる為、結果的にプルミエ・クリュのCuisの比率が増えるからだそうだ。1er Cruはグラン・クリュにはない味わいがあり、ブレンドする事でグラン・クリュだけでは得られない複雑味が出てくるそうだ。グラン・クリュは深みとエレガント、Cuisなどのプルミエ・クリュはフレッシュさと軽快さがワインに加わるそうだ。ピエール・ジモネではグラン・クリュだけでもシャンパーニュを造ることが可能だが、複雑味を表現する為にあえてブレンドしているのだ。

6.Cuvée Special Club Brut 2005
 Grands Terroirs de Chardonnay
 100% シャルドネ。<57% Cramant(G.C),30% Chouilly(G.C), 13% Cuis(1er Cru)>。
25,407本生産。

9割近くはグラン・クリュの畑からのブドウが使われており、特にクラマンの畑は豊富なミネラル感をもたらす。クラマンのブドウは平均して40年を超える樹々から生まれるが中には1911年や1913年など100年を超えるものもあり、それらはより深い味わいをもたらす。同じくグラン・クリュのChouillyは1951年植樹とこれもまた素晴らしい品質を持っている。キレのあるフレッシュさを与える為、Cuis(1er Cru)が加えられている。
これまでのスペシャル・クラブとは異なるメタリック・ラベルが採用された。2005年はリッチな味わいがあるが、ディディエが求めるピエール・ジモネのスタイルとは少し趣が異なるスタイルができたそうだ。ただ、いい年には違いはないないので、新しい方向性の一つとしてスペシャル・クラブとしてリリースする事にしたそうだ。リッチで力強い味わいとブリオッシュの香ばしい香りがとても心地いいスタイル。



メタルにリニューアルされたスペシャル・クラブのラベル



7.Cuvée Special Club Brut 2002
Millesime de Collection 2002
 100% シャルドネ<54% Cramant(G.C), 31% Chouilly(G.C), 15% Cuis(1er Cru)> ドザージュ5g。20,373本生産

傑出した年にだけ造られるプレステージ・キュヴェ。これまでマグナム用にだけ造られていたキュヴェで、あまりの品質の高さからレギュラーサイズで造ることを特別に決めたそうだ。ディディエがこれまでのグレート・ヴィンテージとして挙げたのは’90,’96,’02,’08年。’02,’08年は特に彼のお気に入りだと言う。’90年は言わずと知れたグレート・ヴィンテージで、’96年は熟成が必要な年だったが、今は最高の状態にあるそうだ。

8.Cuvée Paradoxe 2006
66% ピノノワール(35% Ay(G.C), 31% Mareuil sur Ay(1er Cru)
34% シャルドネ(9% Mareuil sur Ay(1er Cru), 5.5% Cuis(1er Cru), 18.5% Grand Cru(Cotes des Blancs(10% Cramant, 7.5% Chouilly, 2% Oger))
7,742本生産。

以前から個人客用に少量のみ生産されていたキュヴェ。評判が良く、要望も高かったことから、本格的にレギュラーキュヴェとしてリリースする事となった。ブラン・ド・ブランの王道を歩んできたピエール・ジモネにとっては挑戦ともいえるキュヴェ。その為、逆説や矛盾などの意を持つ名を与えられた。濃密で力強く、赤いバラとブリオッシュの香りに包まれた華やかなキュヴェに仕上がっている。
現在、ピエール・ジモネを運営しているのはディディエの兄であるオリヴィエ・ジモネとディディエ・ジモネ。
兄オリヴィエは畑やボトリングなどの生産ラインを統括し、弟ディディエは醸造、畑、広報などを統括しているようだ。
そもそもジモネ家がブドウ栽培を始めたのは1750年頃ながら、瓶詰を始めたのはオリヴィエとディディエ兄弟の祖父にあたるピエール・ジモネの代になってからだ。その後、彼らの父であるミッシェル・ジモネが1955年に現在の場所でドメーヌ兼住居を構えた。ミッシェルは小さなステンレスタンクをパーセル毎に醸造し、ブレンドするという近代的なシャンパーニュ醸造法を確立したひとりだ。
ピエール・ジモネは1991年に他界するまで、ドメーヌの発展に尽力し、ミッシェル・ジモネは1955年から1996年まで当主を務め、ドメーヌのスタイルを確立させた。
兄オリヴィエは1982年、弟ディディエは1987年からドメーヌの運営に加わり、さらにドメーヌの名声は高まった。ディディエの子供は4人いる。一番上は21才の家具デザイナーの娘で、その下に息子がいる。みんなまだ若く誰が引き継ぐかは決まっていないが、継ぐべき者が、継ぐべき時になれば自ら悟るだろうと話す。自分もそうだったからねと懐かしそうに話していた。

ピエール・ジモネを最後に今回の10日間に及ぶ、ドメーヌ訪問を終えた。




2012年はどの生産者にとっても困難な年で、収量は大幅に減ってしまったようだが、残ったブドウ自体の質は良く、例年以上の素晴らしい年になるだろう。

天災や病害による試練はすぐに対処しなければならない。特に病害は初期対応が明暗を分けるのだ。その微妙な変化に気付くには常に畑にいなければならない。
今回、訪問した全てのドメーヌは根っからのヴィニュロンだ。畑での仕事をとても重視している。彼らは幾多の困難に迅速かつ適切に対応できていた。

困難な状況には畑での作業を怠らず、地道ながらも真面目にきっちりと行う生産者にとっては、自らの努力がはっきりとワインに現れる年になるはずだ。

パリ 〜アヴィニョン〜アルディッシュ〜ボーヌ〜シャンパーニュ〜パリとフランスを縦断するような経路で、南からから北まで総移動距離は1,500kmを超えた。これは東京〜沖縄間(約1,600km)に匹敵する距離だ。
この移動の間には実に多種多様な生産地があり、長い歴史による試行錯誤の末、その土地の風土に合ったブドウを生産している。その土地ごとに素晴らしいワインが存在し、またそれに合うおいしい郷土料理が存在する。当たり前だが、それを改めて確認する事が出来た旅だった。フランスは行けば行くほど奥深く、常に新しい発見と感動をもたらしてくれる魅力溢れる国だ。そしてそれはこれからもそうあり続けるだろう。