DomaineThomas Morey

ぽつぽつと雨が降り始めた昼過ぎの訪問。出迎えてくれたのはトマ・モレ氏。「よく来たね、じゃあ早速始めようか」と、ガレージに近い醸造所のステンレスタンクから抜き出した赤から試飲を始めることとなった。

2007年ヴィンテージからChassagne Montrachet村を牽引してきた偉大なる生産者Bernard Moreyは事実上引退した。代わりに長男Vincent、次男Thomasの2人の息子に畑は相続され、それぞれの名でリリースされることになったのは周知のとおり。畑の分配は、基本的には父 Bernard Moreyが決めたそうだ。Cailleretは10樽程しか出来ないので、Vincentに分け与え、代わりにバランスが取れるようにより希少なVide Bourse、Dents de Chine、 BaudinesをThomasだけに分けたそうだ。Truffièreは両方に分けられた。今でもVincentとは互いのワインをきちんとした形で試飲する機会を必ず設けているそうだ。もちろん、父であるBernardもそこに加わる。互いのワインの出来を確認し、意見交換することはとても重要な事なのだと言う。

2007年からそれぞれのワインをリリースし始め、徐々に個々の性格がワインに如実に現れて来ている。彼はそれぞれのワインをこう評している。
Vincentは厚みがあり、リッチなスタイル。

Thomasは自らのワインをミネラル感とキリッとした酸を備えたエレガントなスタイルと感じているそうだ。Bernardそっくりの関取のような恰幅のいい体躯をもつVincentと、同じ遺伝子が入っているとは思えないほど細身でスマートな出で立ちのThomas。両者の見た目がそのままワインにの個性となっている。とても面白い。
彼が手がけてからの年柄を簡単に説明してくれた。ファーストヴィンテージとなった2007年はとても酸がしっかりとしたストレートなワインで長熟型。2008年は酸がしっかりあるが、熟度が高くバランスが良い。特にプルミエ・クリュはかなりリッチに仕上がっている。2009年はミネラリーで、ピュア。そしてとてもリッチなスタイルで、テロワールの個性が見事に表現されているそうだ。そして仕込み終えたばかりの2010年は1996年ととても良く似た良い酸を備えた長熟型のワイン。とても凝縮した葡萄が収穫できたそうだ。


1.Bourgogne Pinot Noir 2009
新樽比率30%。甘みもしっかりとあり、濃厚で厚みのある凝縮した果実味。一切の青みがなく、タンニンもしっかりとあるが、角がなく見事な造り。ミネラル感と大地の香りに満ちている。芯がしっかりと通った、傑出したACブルゴーニュ。これを書いている時点で既にAMZ、ドメーヌ共に一切の在庫がないのがとても心苦しい。価格を考えるとかなりの掘り出し物のひとつ。手にされた方はとてもラッキー。



2.Santenay V.V Rouge 2009
新樽比率50%。1952年植樹。17樽、約5100本生産された。2010年は極端に減ってしまい、6樽になるそうだ。現時点ではまだタンニンが果実味に溶け込んでいないが、豊かな果実味とミネラル感、総合的なバランスは、このアペラシオンの新たな一面を感じさせてくれる。



3.Chassagne Montrachet Rouge V.V 2009
新樽比率50%。中身のしっかりと詰まった果実味とミネラル感。タンニンはやや硬さはあるが、酸も適度にあり、スケール感は大きい。落ち着いてからまた試してみたい1本。



4.Santenay 1er Cru Clos Saint Rousseau 2009
新樽比率80%。1974年植樹された樹を持つ畑を1978年にMOREY家が購入。所有面積 0.41 ha。標高250〜280mの緩やかな斜面に位置し、茶色の粘土質石灰土壌と、石の多い土壌はとても恵まれた立地。その為、熟度が高く凝縮した葡萄が取れるのが特長。スミレやブラックチェリーやフルーツの熟した香りが際立っている。



5.Beaune 1er Cru Les Grèves 2009
新樽比率30%。Grèvesはラテン語を語源とする言葉で砂利を意味する。とても熟度が高く、ボーヌらしく、シルキーで繊細。タンニンは角もなく、控えめでその分ミネラル感とふくよかな果実味を感じやすい。

赤を一通りテイスティングすると、新しくできたテイスティングルームへ移動し、白を試飲することになった。そこがまたとても面白い作りになっていた。テイスティングするカウンターテーブルがガラス張りになっていて、その中に彼の所有する畑の土がきれいに仕切られ、ディスプレイされているのだ。これを見ながら試飲すると、何故その昔、それぞれの畑が細かく分類され、別々のワインとしてリリースされることになったのか、その大きな要素となった土壌を、とても分かり易く知ることが出来る。

同じ村とは言え、それほど土壌の違いは明確なのだ。色合い、石の大きさ、土の種類などが全く異なる。日本でも検疫とかがパスできるのであれば、こんな感じにディスプレイされたワインバーがあればいいのにと個人的に思った。



6.Bourgogne Chardonnay 2009
Chassagne Montrachetの二つのコミューンから出来る葡萄から造られる。一部の樹は黒葡萄が植えてあったが、植え替えてこのワインを造るようにした。Thomasのワインは赤、白はもちろん国を問わず、人気が高いのであっという間に完売してしまったそうだ。通常、5200本程度が生産されるが、2011年産から貸し出している畑が返ってくるので若干生産が増えるとの事。「同じような場所にあるので、クオリティを落とさずに生産することができるけど、それでもまだ足りないんだよね」と、嬉しい悲鳴をあげている。3年樽のみで造られるこのワインはハーブ、ミント、ライチ、白い花や白い果実の香りがぎっしりとつまった魅惑的なワイン。ミネラリーで酸も伸びがあり、果実味とのバランスも実にバランスが取れている。


7.Beaune 1er Cru Les Grèves Blanc 2009
新樽比率30%。1969年から所有している畑で、1999年に植樹された。非常に芳香性に富んで、熟度が高く、ミネラル感に溢れている。若いうちから既に完成されており、品質と満足感がとても高い。若いうちから十分に楽しめるのも特長のひとつ。



8.Saint Aubin 1er Cru Les Puits 2009
新樽比率30%。Les Puits とは井戸の意を持つ。白い石灰岩に覆われた土壌で、小さな石を大量に含んだ土壌。果実の熟度も程よく、酸のシャープさとフレッシュさもバランスが良い。白い花、柑橘系、フルーツの香りが実に良いアクセントを与えている。甘く、ほろ苦く、酸も適度にスッキリとしていてミネラリーな造り。



9.Chassagne Montrachet 2009
新樽比率30%。果実味の熟度、伸びのある酸、塊のようなミネラルは、村名では考えられないほど高いレベルを維持している。とても複雑で美しい透明感に溢れ、惚れ惚れするような果実味とミネラルは特筆に価する。果実味、酸がバランス良い秀作。



10.Chassagne Montrachet 1er Cru Les Embrazées 2009
新樽比率30%。プルミエ・クリュや村名クラスでは30%以上新樽を使用しないのが彼の流儀だ。それ以上高めてしまうと、オークのニュアンスが強く出すぎてしまい、繊細な味わいが消えてしまうと考えているからだ。このキュヴェは兄であるVincent Moreyと分け合う畑でThomasの畑からは10樽が生産された。Vincentはこの年90樽生産し、60樽はネゴスへ売却したそうだ。鉄分が非常に多い土壌で、その為かリッチで厚みのある、ミネラル感満載のワイン。白い花、桃、蜂蜜、柑橘系の香りがとてもきれいにブレンドされ、品の良い香りを放つ。美しく、伸びのある酸、たっぷりとしたミネラル感、果実味のバランスなど、どれもが超一流。



11.Chassagne Montrachet 1er Cru Baudines 2009
新樽比率30%。9樽生産。1973年と2002年に同程度の二区画を取得。とても良く熟しており、スケール感の大きいリッチなスタイル。白い花、桃、蜂蜜、柑橘系の香りに、百合の花やメンソールが加わる。華やかでゴージャス感が溢れており、 Embrazéesよりもさらにミネラルを感じる。優雅さも際立つスタイル。BaudineはThomasにとってとても好きなスタイルが出来るのだという。



12.Chassagne Montrachet 1er Cru Morgeot 2009
新樽比率30%。9樽生産。現時点では若干ガスがある。土壌の特徴としては地中深くなるにつれ、赤っぽく鉄分を多く含んでおり、上の方になると石灰岩により白い多様な土壌。Baudinesよりも熟度はやや控えめで、クリーミーな印象。酸も適度でミネラル感に富み、純粋で気品のある香りが美しく表現されている。



13.Chassagne Montrachet 1er Cru Vide Bourse 2009
新樽比率30%。4樽生産。緩やかな斜面に位置し、水はけの良い小石が多く水はけの良い、Bâtard Montrachetの隣の区画。力強く、ゴージャスで優雅なブーケとエレガントな余韻が特長のワイン。円みと厚みのある、ミネラル感と伸びのある清らかな酸は、しなやかでエレガント。清涼感のあるクリーミーさを持ち、やわらかさは抜群。



14.Chassagne Montrachet 1er Cru Dents de Chine 2009
新樽比率30%。1986年植樹。僅か0.6376haの小さな区画。なだらかな地形で茶色い土壌。Montrachetに隣接した区画。畑名のダン・ド・シアンとは"犬の歯"の意を持つ。これは犬の歯のような小さな石が多い為に名付けられた説と、畑の形が犬の奥歯に似ているから名付けられたという説があるそうだ。地質学的にはChevalier Montrachetに属している。酸もしっかりとあるが、果実味の凝縮感が素晴らしい。きっちりと焦点が定まったストラクチャーのしっかりとしたワイン。ミネラル感たっぷりで、素晴らしい芳香性とアフターに感じるハニーの要素がとても品がありエレガント。



15.Puligny Montrachet 1er Cru La Truffière 2009
新樽比率30%。6樽生産。現在、La Truffièreを所有するのは彼と兄であるVincent Morey、Michel Colinの息子Bruno Colin、J.M. Boillotの4人。J.M BoillotはSauzetの孫にあたる。1952年、1986年にそれぞれ植樹された区画から産出される。畑名の由来はトリュフの産地だったことから付けられたもので、心なしかそのようなニュアンスも香りから感じる気がする。エッヂの効いた酸と、ミネラルの塊のような飲み心地、昼の日光を蓄熱する小石も多いことから得られるしっかりとした熟度、それらのバランスがとても良い。ピーチ、柑橘系、ヘーゼルナッツオイルの香りも複雑な要素をさらに広げている。純度が非常に高く、力強くリッチなスタイル。


16.Bâtard Montrachet 2009
2つに分かれた区画から産する。1950年と1964年に植樹された。畑は240〜250mに位置する。茶色い石灰質土壌で、粘土と沈泥と小石がバランスよく混ざり合う、水はけの良い区画。2011年産からは貸し出している区画が返ってくるそうだ。2つの区画をの真ん中が戻ってくるとの事。この素晴らしいワインが少し増えるのはとても喜ばしいことだ。バター、ナッツ、ピーチ、柑橘系、アーモンド、ドライフルーツ、花、メンソール、蜂蜜、ヴァニラ、アニス、オレンジピール、トーストなど実に様々な香りが見事に調和し表現されている。より完熟した葡萄の豊かな甘みと、卓越したミネラル感としっかりとした酸の度合い。それらの構成の素晴らしさは絶品。どんな素晴らしい賛辞を並べてもチープに思えてしまうほど抜きん出た造り。

今回、一番印象に残ったのはThomas Moreyだった。どこのDomaineも素晴らしい造りだったが、Thomasの飛び抜けた品質は深く心に刻まれた。ワインは好きだけど感動するワインにはまだ出会っていないと言う方がもしいるなら、是非試して頂きたいワインだ。DRCの栽培責任者にもなったという経歴は伊達じゃないのだ。天才とは、まさに天が限られた者だけに与えた素晴らしい才能なのだと改めて実感させられた。